Ver 2.10 魔物の大軍が攻めてきた 2

「撃て!」


一斉にバリスタの弾が飛び、一気に加速して空の魔物たちに襲い掛かる

魔物たちは全ての矢を躱すが、矢は予定通り爆発し、小型の魔物たちの翼が折れた

たった1回の斉射で10匹以上の魔物がバラバラと落ちていく


「効果ありだな、ワイバーンは無傷だが他に任せよう。装填が済み次第順次撃て!」


地上の魔物たちが前線に到着する頃、空の魔物たちはワイバーンを残し全て仕留めた

ワイバーン達の鱗は硬く、矢が当たろうとも爆発に巻き込まれようともびくともしない


残った3匹のワイバーン達の怒りを買ったようで、一直線にイズルたちの所へ向かってくる


「あら、結構ヤバイ?これ」


トールが大きな声で指示を出した


「非戦闘員は避難せよ!イズル様、迎え撃つ準備をなさってください」

「わかった。リタ!ヨハナ!」

「「はい!」」


ワイバーン達は火球を吐きながらバリスタを破壊しつつイズル達に向かってくる


「さすが竜種…ブレスが厄介だな」

「ちょっと時間を稼いでください、結界魔法を使うわ」

「あたしも障壁魔法唱えるよ」

「わかった。拡散、追跡、氷矢x4…展開」


拡散する氷の矢を嫌ってワイバーン達は軌道を変えながら飛び、氷矢は追跡するも、あまりのスピードに振り切られ消滅する


「おいおい…振り切られるのか…格が違うな」


避難誘導を終えたトールが合流する


「イズル様、ワイバーンは雷の魔法で動きを止め氷の魔法で弱らせるが有効でございます」


なるほど、発射速度が優れた雷で撃ち落とすのが先か


「わかった。次向かって来たらそうしよう」

「はい、私も加勢致します」


リタが詠唱を終え、障壁を4人に展開する


「物理障壁・大鎧!ワイバーンの攻撃なら数回は防げる!」


ヨハナが詠唱を終え、薄い膜が4人を覆う


「火竜の翼膜!これで火球くらいなら無力化されるわ」


ワイバーン達はまるで兄弟のように息を合わせて向きを変え、また襲い掛かってくる

火球をばら撒きながら迫ってくるが、ヨハナの結界に触れると吸い込まれるように消えていく


「イズル様、準備はよろしいですか?」


黒い騎士鎧に包まれたトールが盾を構え、剣を振る


「雷針」


小さな雷がトールから放たれ、襲い掛かってくるワイバーンに届くと感電し、先頭の1匹がバランスを崩して地面に激突した


「一閃・三日月」


地面に激突し、もがくワイバーンへ距離を詰め、一振りで首を落とす

トールに機先を奪われたワイバーン達は驚き、通り過ぎていく

イズル達は開いた口が塞がらなかった


「超強いじゃん、一撃なの」

「下位魔法で…?」

「鮮やか…」

「まだ2匹残っておりますぞ」


おっと、そうだった

あまりの手際よさに見惚れてしまった

だがタイフーン用に新術式も開発してきたんだ、とくと見よ


「リタ、魔石割ってくれ」

「おっけい!おぉぉぉぉ…りゃっ!」


リタが拳ほどの大きさの魔石を砕き、濃い魔力が満ちていく


「いくぞ!収束、増幅、蓄積、位相誘導、雷撃x6」


イズルの頭上に大きな術式が展開され、周りに展開された6つの術式が中心に向かって放電し始める

バチバチと音が鳴り中心に大きな光の球が形成されていく


「仕上げは拡散、追跡…合成術式六華・稲妻…貫け!」


雷鳴が轟くような轟音と共に中心から放たれたレーザーのような黄色い光は稲妻を纏い、一瞬で残ったワイバーンの胸を貫き、決着が着いた


ちょっと大げさな名前にしすぎたか

若干恥ずかしいな

だが小さい術式を20個並べるよりずっと効率いいんだ

試験通りの結果でよかった


トールがイズルを見て拍手を送る


「盟主にふさわしい締めくくりでございましたな。これほどの魔法であれば噂になるでしょう」


くっ…冷静さが返って恥ずかしい


「すごいわね、見た目、威力共に立派な大魔導士よ。合成術式?今夜教えてね?」

「え?うん…」


リタの耳が反応する


「イズル、あたし術式の事はわからないけど今夜行くね」


前回もずっと寝てたからな

もう言い訳すらしなくなった、潔よい


「わかったよ、ベッドで寝てな」


◆ ◆ ◆


冒険者ギルド


残った地上の魔物は壊れていないバリスタを使って地上部隊を援護し過去最低の死傷者数でタイフーンの危機は去った


ペトラの所に行くとドゥアルトも揃っており、盛大に褒められた


「お、来たなイズル。今回の主役はお前だぞ」

「イズルさん、リタさんお疲れ様でした。ワイバーン3匹の討伐は大手柄ですよ」


いや一匹はトールだし


「トールも参加したんだ、1匹はトールが倒してるよ」

「トールさんも今はケラウノスのメンバーですよね?特に問題ないですよ。冒険者証をお借りしてもよいですか?ランクアップの手続きをして来ます」

「タイフーンでもあがるんだな」


リタとイズルが冒険者証を出すとペトラがパタパタと足音を立てて奥へ走っていく

ドゥアルトが説明する


「正直誰が何倒したかなんてわからんが、目立ってるやつはこうやって報酬代わりにランクを上げてるんだよ。まぁワイバーンを独力で倒したやつらだし70くらいは妥当だな」


そうなるとトールすげーな、ソロで倒したに等しいぞ


「トールってランクいくつなんだ?」

「ん?あの人は90だぞ」

「え?やっぱりというかさすがだな」

「あの人もスキル無しだぞ」

「え?トールもそうなの?冒険者登録の時モメた??」

「当時は成人したばかりのビアス様を連れていたしな。すんなりだったぞ。手土産に大蛇の牙も持ってきてたし誰も文句言わなかったな」


さすがっす


「トールさんは冒険者としても一流、この街で彼の名前を知らない人はいない」


知らんかった、優秀な執事ってどこまで優秀なんだ


「それにしてもスキル無しでそこまでやれるとは…どれだけ努力したんだろうか」

「名前が知られはじめたのが30歳くらいの時だな、10年ほど前だ。それまでは誰も知らなかった、当時は突如現れた暗黒騎士トールって言えばもう誰もが憧れ、同時に震えあがったよ」


なんで執事なんてやってんだろうな


「どれだけ努力したのかは知らん、だがまぁスキルに頼らず戦えるほどだ。相当だろう」


まぁそうだろうな

俺も体が育てば鍛えまくってあれくらいになれたんだろうか

まぁ育たないので今は考えないでおこう


ペトラが奥から戻ってきて冒険者証をカウンターに置く


「お疲れ様でした、ランクは75となります。もう冒険者としても一流の仲間入りですよ」


トールも70から足が地に着いてくるって言ってたな


「これからは原初のダンジョンも攻略対象になってきますね。環境の難易度が特に高く、住んでいる魔物達も各段に強いので十分に注意してください」

「原初のダンジョンか…グングニルしか攻略してないって言ってたっけ」

「そうですね、ランク70以上の冒険者を多数揃えているのはグングニルだけですので」


なるほど…何人くらいで挑んでるんだろう


「ちなみに推奨人数はどれくらいだ?」

「最低で10人は欲しいですね。休憩なども含めてうまく魔力、体力を温存しながら進まなければ強敵との連戦に耐えるのが難しいかと」

「そんなにか…ちなみにランク70以上は何人いるんだ?」

「それが…イズルさんたちを含めても30人に満たないです。そして20人ほどグングニルに所属しています」


さすがグングニル

俺たちはどうするかな、トールに相談してみよう

新規のメンバーの募集と育成もしていかないといけないな

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