Ver 2.11 35代目当主ムラクモ君

ケラウノス 執務室


「トール、そろそろパーティメンバーを増やしたいんだけどいい人いないかな?」


先日ギルドで原初のダンジョンへ挑むためにはランク70以上が10人は欲しいと言われ、パーティメンバーを増やすためトールに相談をもちかけた


トールは腕を組み、唸る


「ふーむ…イズル様と組むとなるとランク70台でございますか…さすがにそれほどの冒険者ともなればどこかに所属しているか無所属を貫いているものばかりですな…」

「ギルドが把握してる限りでも30人くらいしかいないって言ってたな」

「左様でございますな、ふむ。明日、私の師匠のところへ行ってみましょう」


師匠!?トールに師匠なんていたんだな


「誰に習ってたんだ?」

「ムラクモ流という大昔、竜がいた時代の剣術でござますな。今は数も少なくなり、一応この街におりますが変わり者でして…冒険者ギルドにも所属せず一人でワイバーンさえ斬り伏せる御方でございます」


そりゃギルドが把握してるわけないな


「なるほど、とりあえず会ってみたい」

「承知致しました」


◆ ◆ ◆


街はずれの一軒家


トールに連れられ、二人で一軒家を訪れた

小さな1階建ての家でとてもトールを育てた大物が住んでいるとは思えない佇まい

窓から覗く部屋の中もどちらかというと貧乏、という言葉が合うほど錆びれている


「ムラクモ様、いらっしゃいますかな」


ゆっくりと扉が開き、70歳を超えるであろう老人が顔を出した


「おぉ、トールか。懐かしいな」

「はい、本日はご紹介したい人物がおりまして」

「そうか、入るがええ」


案内され、中に入ると小さなちゃぶ台を囲むように座る


「ムラクモ様、こちらがイズル様でございます。ケラウノスという50人ほどのクランの盟主をなさっておいでです」

「ふん、噂は聞いておる。役立たずのはぐれ魔導士じゃな」

「は、初めましてイズルと申します」

(めっちゃ感じ悪いな)

「何の用か?」

「あ、はい。原初のダンジョンへ挑むため新しいパーティメンバーを探していまして、トールに相談したところムラクモ様をご紹介いただきました」


………


「お主魔導士と聞いていたが、なぜ魔力を感じない?」

「あ、はい…その…俺は魔力もスキルも体力もありません。そういう風に生まれました」

「ほぉ…ではどのように魔法を使う」

「たまたま魔道具に使う魔法陣について興味を示し、学んだ後独自の術式を編み出して魔石に付与して使っております」

「ほぉー。さっぱりわからん」


なんで聞いたんだよっ


「ワシは魔導なるものが好かん、お前なんぞがなんでここへ来た」


理由はさっき説明したんだが…


「原初のダンジョンへ向かうためです」

「なぜ向かう」

「竜を殺し、世界を救うためです」

「なぜ救いたい」

「今は仲間内もみな英雄になりたい、などの名声欲しさです」

「正直だな、なぜお前は魔力を持たんのだ?」


質問に答えるけど…どこまで答えればいいんだ…


「そういう風に生まれたからですが…」

「この世のどこまで知っておる」

「ダンジョンから魔物が溢れ、ゲルマニアが最後に残った街だというところまでは…」

「魔力とは常にワシらの周りにある。常にそれらに触れて生まれるワシらは産まれつきそれらを操る術を知っておる。資質により向き不向きがあるがな。もう一度聞くぞ?お前はどこから来た」


む…転生したのを喋らなければならない人だな…


イズルは観念して正直に女神の事と転生の事を話した


「なるほどのう、お主の元の世界というのは日本というところか?」

「ん?知ってるんですか??」

「ムラクモ流の開祖が日本人じゃからな。お主はところどころ開祖がなさっていたと伝わる仕草をする」

「ほぉ、そんな繋がりがあるとは…。仰る通り日本人です」

「わかった。開祖と縁ある人物なら無下にはできまい、弟子を連れていくといい。ワシはこの通りもう老いぼれておる」


イズルは部屋を見渡すように首を振る


「お弟子さんはどちらに?」

「今帰って来た」


扉を開け、若い黒袴の男が家に入ってきた

目を閉じたままであるにも関わらずどこに何があるのか全て把握しているかのように歩いていく


「ムラクモ、ここへ来い」

「はい」


ムラクモと呼ばれた少年はちゃぶ台の開いた席に目を閉じたまま正確に座る


「開祖縁のある者が訪れた、お主が力を貸してやれ」

「………」


誰と言われもしないのに少年はイズルを見る


「紹介は済んだ。連れ帰れ」


え?まだ何も言葉を交わしてないけど?


「本人の希望を聞いておりませんが…」

「よい、そやつはよほどのことが無ければ不満すら言わん。無言は承諾と思え」

「えぇ……」


トールが立ち上がった


「ムラクモ様、本日はありがとうございました」

「ワシはもうただの老いぼれじゃ、ムラクモの名はこやつが継いだ」

「なんと…その若さで…」

「15になる、成人もしておるしそろそろ外を見てもよかろう。ギルドなりどこへなりと連れていけ」


イズルはムラクモに向かい頭を下げる


「よ、よろしくお願いします」

「………」

(こちらこそ)


ムラクモも合わせるように頭を下げた


日本の礼儀が通じる人だ…なんか新鮮…


「………」

(日本は知らないが聞いた通りの仕草をする人だ)


イズルは立ちあがるとムラクモも同じように立ち上がる


ついてきてくれるのか…?


イズルは前代ムラクモに向かってお辞儀をする


「では…ムラk…ご老公とお呼びしましょうか。ムラクモ様をお預かりします」

「ほっ…悪くない呼び名じゃな。ムラクモは屋号のようなものだ、様はいらん。達者でな」

「はい、ありがとうございました」


◆ ◆ ◆


ケラウノス 執務室


トール、リタとクリス、ヨハナにムラクモを紹介すると可愛い容姿に皆が湧きたち熱烈な歓迎を受けた

頭をワシワシとこねくり回され、ヨハナのおっぱいで挟まれ、リタには紅茶を飲まされ、クリスはクッキーを口に突っ込んでいた


何も言わずもくもくと全ての歓迎を受け入れていくムラクモ


「おいお前らその辺にしてやれよ。無口過ぎて嫌がってるのかどうかもわからないんだ」

「えー?差し出したものは全て食べちゃうんだもん。かわいー」


クリスが無限にクッキーを突っ込んでいくのでさすがに止めた


「さて、突っ立ってないでムラクモも座ってくれ。いろいろと聞きたいことがあるんだ」


ムラクモが正座するように床に座る


「あいや、椅子に…」

「………」

(いえ、結構です。また何か突っ込まれるかもしれない)


微動だにしないムラクモ


「ほらお前らがやりたい放題するから…」

「ご、ごめんねムラクモちゃん…」


その後リタ達が全員で謝り、ようやく椅子に座ってくれた


「さて、聞きたいのは戦力だ。どれくらいの魔物を倒せるんだろうか?」

「人狼なら一人で倒せる、どれだけいても関係ないが…吸血鬼は苦戦する程度だ」

「人狼と吸血鬼ってランクいくつ?」


トールが驚いている


「人狼は60、吸血鬼は下位のモノでも70は超えております。その若さでそれほどとは…」

「そんなにすごいのか…ちなみにスキルって持ってる?」

「はい、神速…高速で移動するスキルです」


リタが驚いた


「神速!?超高速で際限なく動ける神スキルじゃん!」

「あら、すごいわねぇ~神に愛されている子って事ね」


クリスも驚き、褒める

続いてトールが質問した


「型はどこまで習得されているのでしょう」

「ムラクモ流であれば全て、実践で試していないものも含めればですが」

「これはこれは…もう私から申し上げる事はございません」


トールが何も言わなくなるとは…相当だな


ヨハナが質問する


「ちょっと気になってるんだけど、目はどうしたの?」


そういえば確かに、ずっと閉じている


「見る事はできますが、神速と相性が悪いのでもう5年以上開けておりません」


あぁ風が…


「そ、それは…風がきついから?目を保護する道具もあるわよ?」

「視覚に頼りすぎると見えないものが増えるのでこのままで結構です」


達人ってやつか…初めて見たな

魔力があるからこそって事なのかな

探知とか常に使ってるんだろうか


「わかった。何にせよよろしく、明日は連携を確かめる意味も含めてリタと俺と3人で狩りに向かおうか」

「………」

(狩りか…この人の実力も見てみたいな)


「無言は承諾でいいらしいんだが…いいのかな」

「………」

(大丈夫です)


小さくムラクモは頷いた


わかりづらい子だ…とりあえず一緒にやってみよう

徐々に彼を理解していこう

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