Ver 2.18 空を飛ぶ船を作ろう

ケラウノス イズルの自室


竜騒動から2週間


イズルの体力はようやく回復した

体力モブというものがどういうものか思い知った


他のメンバーは魔力で身体能力を向上させていて、ちょっとした打撲程度なら傷にもならないそうだがイズルは違った


障壁を破られればもう生身、しかも魔力込みの打撃を受けた

他のメンバーには存在しないような細かい傷が全身についており、しかも治癒を促すような魔法の効きも悪い

これは魔力が無いせいだろう

ちょっとした傷で死にかねない


せっかく手に入れた竜魔石があるのでどうにかしたいところだ

あれこれ試していると魔視で竜魔石の中にある術式を多数発見する事が出来た

竜鱗、竜脈、竜息吹、意思伝達、体躯操作、魔力操作、身体強化などなど珍しいものから一般的なものまで多数の魔法陣が内蔵されている


竜鱗は竜の鱗を守る障壁で物理、魔法などのあらゆる攻撃から身を護るらしい

竜脈は竜の生命力そのもの、あらゆる状態異常への耐性を獲得し魔力も生産するようだ


小さな魔石ひとつにこれほどの式が組み込まれているとは…

特に竜鱗と竜脈に関しては常時発動させて俺を守るために使いたい

どうにかこれを俺を対象にするよう研究しよう


「イズルー?何してるの」


声のする方を見るとリタが部屋に入ってきた


「竜魔石に書いてある魔法陣が高度過ぎてどうしようか悩んでる」

「イズルなら術式に分解して使えるんじゃないの?」

「全部じゃないよ。だいたい俺の術式って簡単な低位魔法を並べて使うのが前提になってる。高度な魔法の術式は全然読めないからそもそも使ってないでしょ」

「………そういえば…」


強力な魔法ほど術式が難解で読み解くのにものすごく時間がいる上あれこれ密接に関わっていて簡単に分離できないのだ

大きな魔法ほど複数の元素を使って効果を得ている

火柱を上げる魔法などは火だけではなく、風、酸素の吸入、火力の調整などがワンセットで火柱があがるように風の流れが組んである

分解しても火柱にならなくなるだけなのだ


これを見た時にこれ以上高度な魔法を読み解くのはやめた

どんなにすごい魔法でも地獄の炎を呼び出すとかで無い限り分解するとつまるところただの火になるからだ


「難しいんだねー」

「時間さえかければいつかは解けるよ、今日はどうしたの?」

「あ、そうそう。なんかねー竜を殺す武器っていうのがあるらしいよ」

「へぇ、そんなのあったんだ」

「うん、でも既に滅んだ国にあるらしくって…」


竜を殺す武器か

大昔に竜が死んだんだしそういうのがあってもおかしくないな

武器なら俺は使えないだろうし、ビアスとかムラクモに持たせるのもいいな


「どこにあるの?」

「それがさ、街の人の噂聞いただけだからホントかどうかわからないんだけど。北東の山脈にある滅びた国らしいよ。グーベルクって言う雪国なんだって」

「そこまでわかってるなら行こうか、っていうかもしかして既にないとか?」

「ううん、馬車で行けば数か月かかる距離らしくて…しかも溢れた魔物もいるから誰も取りにいけないらしいよ」


数か月…その間にタイフーンとかで街がなくなっても困る

なるほど取りにいけないな


「うーん…馬車より移動速度の速い乗り物があればいいのか…」

「そんなのないよ」

「じゃあ作るしかないな」

「作る…の?どうやって?」

「それをこれから考えるのさ」

「ふぅん、馬車より早いもの…鳥?」

「そうだね、10人くらい乗れるような空飛ぶ船とか作れるといいんだけど」

「おー、すごそう」

「さっそくトールに相談してみるか」


◆ ◆ ◆


ゲルマニア 木工所


トールに相談すると以前タイフーンで見かけた青年の所へ案内された

バルナントは木工所で働いており、家やバリスタなどの木材を使った建築物を設計、制作するのが得意なんだそうだ


「バルナント様、イズル様をお連れしました」


バルナントは机の上で大きな図面を睨んでいる

トールに呼ばれ、イズルに気づくと立ち上がって向かってくる


「お、タイフーンの時は世話になったな。今日はなんか面白いもの作るって聞いたぜ」

「空飛ぶ船を作りたい」

「うほっ、そりゃまたデカい事考えたな。魔法で浮かせるのか?動かすのに魔導士が必要ともなれば大きさ次第で数人は常に乗せなきゃいけないぜ」

「魔導士がいらないものをつくりたいんだが…」

「無茶言うね…どうやって浮かせるつもりなんだよ…ん?そういやタイフーンの時倒したワイバーンの素材まだ残ってるか?」

「たぶん、倉庫見るか?」

「おう、連れてってくれ」


◆ ◆ ◆


ケラウノス倉庫


倉庫に着くなりバルナントは中に入り、素材を手に取って眺めていく


「おー、あるある。ほー、あのバカデカい竜の素材も持って帰ったのか」


興奮するのはわかる

俺もそうなりがちだ、早く何を考えてるのか言え


「考えがあるんだろ?何するつもりなんだ?」


バルナントは素材を眺めるのをやめ、ワイバーンの翼を持ってきた


「こういう、竜とか精霊とかの類の魔物って死んでも魔力を纏ったままなんだよ。これを使えば魔力の消費を抑えられるし、丈夫にもなる。船に使ったことはないけどな!」


なるほど、竜種の素材で作った船か

木材のままの船だと強度も心配だったしちょうどいいかもしれない

あとは動力をどうするかだな


「わかった。竜の素材は全部もってってくれ、動力についてはこっちで考える」

「やるだけやってみる、デザインとか考えてたりするか?」


デザインか…うーん、中世っぽい時代背景だしキャラックとかガレオン…いややっぱここは元の世界にあるような豪華クルーザーだな


イズルはペンを取り羊皮紙に書いて見せた

デザインを見たバルナントが腕を組んで唸る


「うーん…却下」

「えー、聞かれたから書いたのに…」

「水の上ならいいだろうがこれで浮力を得るのは難しそうだな」


あぁ…まぁそこはそうでしょうね

夢いっぱいというわけにはいかなかったか


「なるだけ寄せてみるがこのままにはなると思うなよ」

「わかった。だが船の中で野営ができて寝室があるのは譲らないからな!」

「へいへい、あとは動力次第だからお前さんが頑張るんだぞ」


バルナントは両手を肩まで上げてひらひらと手を広げる


まぁそんなもん積んだらそうもなる

これは自分で自分の首を絞めたな

だが馬車よりも早く移動できるなら頑張ってやるよ!


「わかった、こっちは任せろ」

「ほー、言うね。じゃあ俺も最高の船を作ってやるよ」

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