Ver 2.19 ゴットゥムのサロン 1

ムフリッツ邸


リタを連れてムフリッツ邸へやってきた

ゴットゥムが主催するパーティに呼ばれたからだ


ゴットゥムと言えばゲルマニアを統治する三大貴族の一人

参加する人の顔ぶれに興味がある


高ランクの冒険者や他の有力者たちに会えるかもしれない

会ったとしてすぐに何かあるというわけではないと思うが案外こう言ったところで知り合った人たちが意外と後々仕事に繋がったりするものだ


トールに勧められるままに正装を身にまといムフリッツ邸の門をくぐる

玄関へたどり着くとムフリッツ家の執事に案内され、大きな歓談室へ通される

ゴットゥムと言えば魔物の調理家、さすがと言わざるを得ない装飾が目に入ってきた


ぐるっと囲むように大きな魔物の彫像が並ぶ大きな部屋

数人程度、多くても10人くらいの社交場かと思えば50人以上入りそうだ


「うわぁ…すごい広いね」

「彫像の趣味がさすがだな…」


狼からダンジョン産の魔物のはく製を中心に見たことない魔物まで10数体は並んでいる


「こんな魔物見たことないよ。どこにいるんだろう」

「さすがリタ、お目が高い」


リタが眺めているのは額に大きな深紅の宝石を持った兎ともネズミとも思えない剥製だった

ゴットゥムが現れ、自慢気に説明する


「これはカーバンクルと言いそうだ。幻獣と呼ばれる魔物の一種で生息地についてはわかっておらん、古物商から買い取ったのだが元の状態が結構ひどくてな…実は額の宝石以外は全て作り直しておる」

「そうなんですね、この宝石はそのままなんですか?すごく美しいですね」

「そうじゃろう、その宝石を持つものは富と名声を得られると言われておるらしい。これのおかげでワシのサロンが繁栄しておるなら家宝だな。ワハハ」


ゴットゥムにひとしきり魔物像を案内されている間に続々と人が集まってくる


「それにしても、イズルは幸せ者だな。リタはワシのサロンの中でも特に美しい、しっかり手を握っておいた方がいいぞ」

「そんな…お上手ですわ」


リタは露出こそ少ないがその鍛え上げられた身体が映えるドレスを身にまとい俺でも目を奪われる

続々と入ってくる人たちは…なんというか食事系のサロンであるせいかふくよかな人が多い

リタがいろんな人に声をかけられるんだろうか?少し不安だ


総勢50人ほどの人が集まり、ゴットゥムが食事会の挨拶をする


「皆さま本日はよくぞ集まってくださいました、本日の酒はバジリスクの毒を使った精力酒。夜のお戯れはほどほどに。肉は先日ケラウノスより入手したワイバーンの肉!しっかりとした歯ごたえの中にとろけるような食感をお楽しみください。乾杯!!」


ゴットゥムが盃を上げ、飲み干すと参加者たちも続々と飲み干していく

リタもイズルも飲み干した


喉が焼けるような強さの酒だが体の中から力が溢れてくるような感覚がある

魔物の食材というものは身体を強化する効果があるのかもしれない

これはクセになる


乾杯が終わると立食形式の部屋の端へ続々と肉や果物、野菜が並べられ始めた

それぞれが小さな更に思い思いに食事を取り会話を楽しんでいる


「よろしいですかな?」


ふくよかな男が目の前に現れた

女神教なのだろうか、天に向かって祈る女性の彫像を首から下げている


「初めましてイズル殿。私はヴィアーノ=ルフリアンと申します」

「イズルです、こっちはリタだ」

「リタです。お初にお目にかかります」

「俺ははぐれでね…こっちの言葉遣いがよくわかってないんだ。失礼があったら許してほしい」

「ええ、もちろん存じております。昨今ご活躍している冒険者としても非常に高名でございますな。ぜひ楽にお話してください」

「ありがとう。ヴィアーノ殿はその…女神教の方ですか?」


イズルはヴィアーノの首から下げる女性の彫刻を見る

ヴィアーノは視線に気づき、彫像を愛でるようにさする


「はい。女神教の大神官を務めさせていただいております」


大神官か、竜を殺す者の話を聞いておきたい


「女神教と言えば竜を討伐したと言うではありませんか。どのような者たちだったのですか?」


ヴィアーノは目を伏せ、不機嫌な顔でため息をつく


「皆からは喜ばれておりますが少々荒っぽい連中でしてな…とても人前には。教会には罪犯した者が反省するため所属する事もございます、そのような者たちだと思って頂ければ」


ずいぶんな言われようだ

竜を殺すほどの力の持ち主だと言うのに…少なくともゲルマニアを救ったんじゃないのか


「そうなんですか…あまり触れないほうがよかったかな…」

「いえいえ、いずれ会って頂くことになると思います」

「俺が?理由を聞いてもいいのかな」

「はい、教会では竜を殺し、ダンジョンを閉じる方法が見つかったため今後積極的にダンジョンを閉じるため屠龍隊を組織する事になっております。その際、高名な冒険者様方に護衛を依頼しようという話しになっておりまして」


なるほど、こっちとしても正体がわからない連中の事を知る機会があるのはいい

サロンに参加してよかったな、是非協力させてもらおう

俺が思うにその屠龍隊、転生者だろう


「その際はぜひ、私も竜を殺す栄誉に預かりたいものですな」

「フッフッフ…では次の機会にぜひ、ケラウノスを指名させて頂きましょう。大きな船を開発しているとも聞いております」


情報が早いな

どうなるかわからないが、空飛ぶ船が目当てか


「お披露目する時にはきっと驚かれると思いますよ」

「楽しみにしております。では私はこれで」


ヴィアーノが去り、ゴットゥムが女性と共に近寄ってくる


「イズル、リタ。楽しんでるか?」

「はい、頼もしい友人が増えました」

「それは何より、私からも友人を紹介させてくれ」


ゴットゥムが連れてきた女性は他の参加者と違って細身、栗色の髪に幼い顔立ちの娘だった


「彼女はカルラ、商人だ」

「カルラです。19になりました」

「初めまして、イズルです」

「リタです」


ゴットゥムはグラスを一口飲み、更に続ける


「彼女はワシが懇意にしている商会の娘でな。そろそろ一人立ちしたいそうだ、イズルのところに商人がいないのであればこの娘を置いてやってくれないだろうか?まだ若いがきっと役に立つ」

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