Ver 2.14 ルトラと女神教

夜 ケラウノス イズルの自室


イズルがテーブルに魔石を並べ、新術式について考案していると扉を叩く音がする


コンコン


………


だんまりか…またあいつなんだろうな


………


………


………


勢いよく扉が開くとルトラが現れた

今日は神託の女風の服装だ


「ちょっと!ノックしてるんだから開けなさいよ!」

「どうせお前だろうと思って無視してたんだよ」


ルトラは腕を組み、イズルを見下し睨む


「あんたねぇ、キスしたくらいで調子乗ってんじゃないわよ」

「覗いてんじゃねーぞ変態女神」

「うるさいわね、そろそろビアス様とお会いしてもいいんじゃないの?」

「会う用がない」

「あら、用があればいいの?」


何者かがルトラの肩を掴む


「は?」

「ちょっとあんた、なんでイズルの部屋にいるの」


ルトラが振り返るとリタが睨んでいる


「あら、筋肉女じゃない」

「人の男に手を出す女はモテないぞ」


ルトラがリタの手を振り払い、振り返る


「この男には用はないわよ」

「じゃなんでここにいるんだよ」

「うるさいわね、私の勝手でしょ」


説明しろよめんどくさくなるだろ


「リタ、そいつが以前話した女神だよ」

「はぁ?こいつが?大したことないじゃん」

「なっ…あんた女神に向かって…」

「じゃあ女神らしい事してみなよ」

「う……」


できないんかい


「神がおいそれと奇跡を見せるはずないでしょ!」

「じゃあ女神教のとこ連れてってあげるよ。それでわかるでしょ」


リタがルトラの袖を掴むと振り払った


「ちょっと!ここの宗教と私は関係ないわよ!」


イズルがリタに質問する


「宗教なんてあったんだ」

「あるよ。女神を崇拝する集団がいる、崇拝されてる女神像がこの人とはまったく違うんだよね、なんか怪しくない?」


怪しいのは間違いない

女神らしくないし


「まぁ、女神らしくは無い」

「言いたい放題言うんじゃないわよ」


自業自得だろ


ルトラはテーブルに座り、足を組んで偉そうに説明を始めた


「ちょっと今の段階じゃ説明しにくいけど…この世界の信仰は神じゃないのよ」

「それじゃ誤解が解けないだろ。ちゃんと説明しろよ」

「……この世界の信仰対象は2,000年前に最後の竜を殺した魔女よ、それ以前は神を信仰する勢力もあったけどダンジョンのせいで全て滅ぼされてるわ」


リタが驚いて質問する


「魔女?聖女でしょ?最古の竜を殺した聖女が竜の血を呑み神となったんじゃないの」

「ほら…こうなる」


ため息をつくルトラを横目にリタがイズルの側に寄り、椅子に手をかける


「あんた何者なのよ」

「女神だっつってんでしょ!」

「仮にそうだとしてイズルに何の用があるんだよ」

「仮にも勇者って事になってるからよ!あたしはそいつに早く死んでほしいの」

「悪魔じゃん」


そう思うよな、いいぞもっとやれ


「くっ…前回竜の話をしたときはビアス様にも伝わったでしょ!?イズルは説明してないの?」

「話したぞ」


リタは不機嫌そうに女神を見る


「まぁ、確かに竜の存在は無くはなさそうだった…」

「じゃあ信じなさいよ!嘘言ってないでしょ!」

「うーん…」

「まったく…ビアス様と会いたいだけなのにとんだ邪魔が入ったわ」


完全にお前が悪いと思うけどな

もうちょっと静かに入って来いよ


ルトラがイズルを睨む


「で、ビアス様といつ会えるわけ?」

「用がない。会いたいなら何か口実くらい作って来いよ」

「……まったく…役に立たないわね…じゃあ一番弱い竜の呼び出し方を教えてあげるわ」

「ほう、それならビアスも食いつくな」

「じゃ、また日程が決まったら教えてちょうだい。今日は帰るわ」


ルトラが立ち上がり、扉に向かって歩き出す


「わかった。じゃあ日程が決まったらまた呼ぶ」

「楽しみにしてるわ」


ルトラが扉を出たのを見て、リタが後を追いかけるように扉から顔を出した


「え…もういない…」


一応女神らしいからな、突然消える

女神なのに下界の人間に色目も使うぞ


◆ ◆ ◆


ビアスと連絡を取り、また3日後に例の庭園で会う事になった


当日


ルトラと共にグングニルの庭園へ向かうと前回と同じようにビアスがテーブルで紅茶を飲んでいる


ルトラと一緒にテーブルへ着くと、ルトラが頭を下げた


「本日もお目通りが叶い、光栄にございます」

(ビアス様…本日も素敵です)

「あぁ…手短に頼む」


今日もビアス不安そうだな


「はい、腐れ沼と呼ばれるダンジョンの竜について。腐れ沼の竜はワームを好むそうです、竜の印に向かいワームの魔石を捧げれば竜が姿を現すでしょう」

「竜の印とは…あの大きな足跡の事か」

「おそらくは…」

「わかった。下がれ」

「もう一つ、贈り物がございます」


ルトラは黒い鞘に白金で装飾された美しくも小さな短剣を差し出した


「なんだこれは」

「精霊を従わせ、力を引き出す聖物でございます。精霊の肉体への干渉も防ぐことが可能となるでしょう」

「そう…か」

(なぜこの女は僕の精霊が暴走する事を知っている)

「お気に召しましたら私をビアス様の側にお仕えさせて頂くことを考えて頂きたく存じます」


精霊の秘密を知るルトラに明らかな警戒心を示すビアス

ため息をつきながら小さく頷いた


「なるほど…考えておこう」

「光栄でございますわ」

(これでビアス様の不安のタネはひとつ解消するはずよ)


ビアスは短剣を手に取り、鞘から短剣を抜く

美しい短剣を目にしたビアスは微笑み、じっくりと短剣を観察した


「これは…美しい」


ルトラは短剣に魅入るビアスを見て、まるで祈るように両手を組んでうっとりとした顔で眺めている


(素敵な笑顔…いずれ私のために微笑んでもらうわ!)


短剣は鞘から白く美しい刀身を晒すと刃にいくつか文字が刻まれているのが見える

文字は薄く輝き、神秘的な光を放っていた


「我が家に伝わる宝剣、クーニヒガイスターと申します。精霊の王たる者が携えたとされております」

「そのような貴重なものを、ありがたく受け取ろう」

(そんなものをなぜこのような女が持っている…こやつは一体何者なんだ)


宝剣を手にしたビアスは中空を眺めるようになった


「以前ほど騒がしくはないが、聞けば答えるようになったな」


イズルはビアスの様子を見て思った


効果あったんだな、どこから持ってきたかしらんが勇者にも渡せよそう言うの

まぁビアスが喜んでるみたいだしいいけど


ビアスは短剣を鞘に納め、ルトラを見る


「竜が討伐できた暁にはお前を僕の側に置いてやろう」

(得体は知れぬが役には立つようだな、いずれその正体暴いてくれてやる)

「ありがとうございます。竜は強大な力を備えていると聞きます、準備を怠りませぬよう」

「いらぬ心配だ。下がれ」

「またお会いできる日を楽しみにしております。」

(手ごたえあったわ!次こそ仕留める!)


ルトラが去り、ビアスがイズルに問いかけた


「イズル、竜を倒したい。力を貸してくれるか?」

「ん??ウチでは原初のダンジョンに挑む力はまだないぞ」

「人員ならグングニルから出す、お前は竜を倒せると思う人物を連れて来い。タイフーンの時のような働きを期待しているぞ」

「そういう事なら…」

「それにな、腐れ沼は原初のダンジョンの中でも環境難易度が最も低い、おそらく最奥まではそれほど苦労せずにたどり着ける」


そうなんだな

それなら一度挑戦してみたい気もする

リタとムラクモにも聞いてみよう


「わかった。一度帰って確認するよ、また連絡する」

「待っているぞ」

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