Ver 2.15 原初のダンジョンへ挑もう

ケラウノス 執務室


リタとムラクモ、トールを呼び、竜と戦う事の是非について意見を聞いてみた


「先日神託の女と共にビアスと話した、原初のダンジョンに住む竜を呼び覚まし討伐しようという話しになったんだが…二人はどう思う?」


リタは大きく頷く


「竜を討伐したら一躍英雄だね…当然やるでしょ!」


ノリノリだったわ、もう少し躊躇ってほしかった


ムラクモを見るとやる気に満ちた顔で頷いた


「………」

(僕の剣技がどこまで通じるのか試すいい機会だ)


こっちも問題ないのか

最後はトールだが…


「私はここに控えております。竜がどのようなものかわかりませぬがいざというときのために支援が必要でございましょう」


さすがトール、落ち着いている

正直戦力としても一級なので連れて行きたいが、支援も一級なので捨てがたい

むしろトール以上に支援できるものが他にいない

いざというときにグングニルも動かせる可能性があるし、適任と言えば適任か


「わかった。頼んだよ」

「お任せください」


深々とトールは頭を下げる


「でも正直竜の情報何にもないんだよな。なんかない?」


トールが顔を上げる


「ありません、何せ原初のダンジョンが出来てから誰一人として竜を見た者はおりませんので…」


なるほどなぁ…

ルトラは準備しろって言ってたけどどこまで準備すればいいのかわからん

このままだととりあえず行って蘇らせるみたいな事になっちゃうぞ

まぁ、戦力がわからんならやってみるしかないんだけど

適当な冒険者集めてもしょうがないし

リタと俺はセット、あとはムラクモがクランの最高戦力

やるしかないか


◆ ◆ ◆


腐れ沼


グングニル、ケラウノスの合同作戦が始まった


腐れ沼は一面が沼地で覆われており、死んだ魔物などが放置され

腐臭と血の匂い、膝までうまる汚泥が広がる開放型のダンジョンだった


沼の中心に小高い丘があり、ぽっかりと口を開けた洞窟が見える

ビアスが言うには洞窟の先に広大な地下空間が広がっているらしい


グングニルはビアス含む高ランク騎士が3人、高ランク魔導士が8人

ケラウノスはイズル、リタ、ムラクモの3人だ


馬車を降り、腐れ沼を一望した後ビアスがイズルの元へ訪れた


「準備はいいか?ここは常に足場が悪い、グングニルの魔導士たちが沼を凍らせる。凍らせた足場の上を歩いてくれ」

「わかった」


グングニルの魔導士たちが次々と氷魔法を放ち、沼の中心に続く氷の橋を作っていく

人が3人は並んで歩ける氷の橋を慎重にわたっていくとさっそく魔物が現れた


巨大な岩に擬態していたスライムだ

赤く、沼の上をすべるように動く


「イズル!こいつは吸血スライムだ、絶対に近寄るなよ。一瞬で全ての体液を吸われるぞ」


体液だけ吸うスライムか…それでこの沼には腐乱した死骸が多いんだな


「わかった。攻撃はしていいのか?」

「魔導士たちと息を合わせてくれ」


グングニルの魔導士たちが火の魔法を次々と放つも、吸血スライムは表皮を岩のように変化させ、悠々と近づいてくる


イズルは頷き、手を合わせた


「収束、蓄積、位相誘導、火球」


ダンジョンの豊富な魔力を吸い上げ火の魔力が蓄積されていく

グングニルの魔導士たちが放つ魔法に合わせてイズルも術式を発動させる

赤い一筋の光が放たれ、吸血スライムの核を貫くとスライムは溶けていく


「さすがだな、頼もしいぞ」


ビアスは安堵したようにイズルを見る


俺は自分の魔力を使わないからな

俺が攻撃したほうが魔導士たちも休めるんじゃないだろうか


◆ ◆ ◆


腐れ沼 中央の洞窟


洞窟までたどり着くと中の様子は外とは違い、澄んだ水が流れている

だがヘドロが底にあるせいかすぐに濁る


洞窟の入り口は人一人がやっと通れる大きさだが中は広い

ここも常に底が汚泥と水によって沼のような環境になっており

膝まで埋まる、場所によっては人が完全に沈む場所もあるらしい

ここも魔導士たちが氷の道を作りながら進んでいった


奥へ向かって進んでいるとゲコゲコとそこらじゅうで鳴くカエルの声が聞こえ始めた


「なんだ…カエル?」

「イズル!赤ガエルだ。こいつらは巣の奥深くに獲物が入ってくるとようやく姿を現し、数百匹の大軍で襲い掛かってくる、毒をもっているから気をつけろよ」


さすが環境最高難易度と言われる原初のダンジョン

沼に足を取られたまま数百匹とか絶対相手にできん

常に氷の足場を作る魔導士が必要なわけだ…


魔導士たちを守るように近接職が周りを警戒し、魔導士たちが次々とカエルたちを葬っていく


「………」

(僕も前に出ます)


無言のまま前に出るムラクモが刀を抜くと、水、空、壁を蹴り、カエルたちを足場にしながら神速を使い、まるで竜巻のようにイズル達の周囲を駆け巡りカエルたちを切り刻んでいく


「神速持ちか…よい仲間を得たな」

「こんなにすごいとは…」


イズルも魔導士たちと協力し、術式を展開しながら30匹を仕留める頃

大きな地響きが響き渡る

集まったカエルたちの後ろから大きな岩のようなものが地中からせりあがり

巨大な口を持つワームがカエル達を飲み込んだ

地中を水のように掘り進み、カエルたちを飲み込んでは地中に消えていく


「ビアス…ちょっとこれはまずいんじゃないか」

「全員障壁を展開しろ!ワームを近づけるな!」


ビアスが指示すると魔導士たちは一斉に障壁を展開しはじめた

ワームは次々と混乱して散っていくカエルたちを飲み込み続ける

イズル達を取り囲むように配置していたカエルたちを飲み込み続けるうちに、ワームたちが掘った地面が緩み、洞窟の底が抜けた


ガラガラと大きな音を立て、真下にあった大きな部屋へ一行は放り出される


「浮遊x14…展開!」


イズルの支援により、全員怪我をすることなくゆっくりと下の部屋へ舞い降りる

魔導士たちは着地する前に氷の足場を作り、それぞれが足場の上に降り立った

周りを見るとワームの巣に降りたようだ


俺たちが丁度真上で餌を集めてしまったわけか…


ワームたちは図体が大きく、1匹でも大きな家ほどの大きさがある

4匹ほどおり、それぞれが目を覚まし地中へ潜り始めた


「ビアス、地中からやりたい放題されたんじゃたまったもんじゃない。逃げる場所はあるか?」


ビアスは周りを確認し、指をさす


「魔導士たち、あそこに見える大きな足跡に向かって道を作れ!あそこは魔物が寄らん」


ビアスが指差す方向を見ると壁に大きな足跡がある


あそこがビアスが言ってた場所か、走っていくのはリスクが高い

全員反発でぶっ飛ばそう


「皆舌を噛むなよ!反発・強x14、浮遊x14…展開!」


全員が足跡に向かって空を飛び、浮遊によってゆっくりと舞い降りていく

着地した位置が悪く、滞空時間が長い魔導士が二人

ワームたちは魔導士たちを囲むように飛び回り、飛び跳ねる


「うわぁぁぁぁ」


一人、また一人とワームに飲み込まれていく

どこから出てくるかわからないワームたちが魔導士を飲み込んでいくのをただ黙ってみているしかなかった


飲み込まれていく魔導士たちを見てビアスが剣を抜いた


「くっ…貴重な魔導士が…」


安全地帯に着地したビアスが剣を構え、前へ出る


「全員下がれ、救出する」


ビアスが剣を前に押し出し、何もない空間を指すように唱える


「ノーム」


地中からいくつもの巨大な岩の壁が勢いよくせりあがり

地中に隠れていた全てのワームが空中に叩きあげられた


「なにこれ…」

「すごい…」

「これが精霊の力…?」


イズル、ムラクモ、リタが改めてビアスの力に驚愕する

ビアスは続いて剣を振る


「シルフェ」


巨大な風の刃がいくつも現れ、岩の壁ごとワームたちを輪切りにしていった

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