Ver 2.16 ファウルと名乗る竜

ビアスがたった二言であの巨大なワームたちを全て殲滅してしまった


輪切りになったワームたちから呑まれた魔導士たちを助け

竜の足跡を眺める


ビアスがイズルに語り掛ける


「イズル、あの女が言うにはこれにワームの魔石を捧げればよいのだったな」

「そう言ってたね」


ビアスが指示し、ワームの魔石を取り出し

人の腰ほどまである巨大な魔石を転がしながら竜の足跡の前に並べていく


「これでいいのだろうか」

「何も起こらないな」


しばらく呆けているとぼんやりと光る魔石は少しずつ光を失っていく


「光が…消えた」

「ただの石になったな…」


何かこれ以上の変化があるのか戸惑いつつ、一行はその場に立ち尽くす

グングニルの魔導士がしびれを切らし、ビアスに帰還を提案した


「ふぅ…あの女の言う事は間違っていたのか?魔石は光を失ったが…足りなかったのだろうか」

「さぁ…どうすればいいんだろうな」


するとワームの時とは比べ物にならないほどの地響きが響き渡り

ダンジョンがガラガラと崩れ落ちてくる

穴の開いた天井から水が勢いよく流れ落ち、部屋の水かさがどんどん増える


「これはまずいな、外に出よう」

「皆固まってくれ、反発で飛ばしながら外へ向かう」


ピンボールのように反発を駆使して外へ出ると大きな地響きの正体は山ほどもある巨大な亀によるものだった

亀は横腹をイズル達に晒し、目もくれずゆっくりと進んでいく

大きな甲羅に山を背負い、この世のどの魔物よりも大きな手足、三角の頭に前へ伸びる角

雄大なその姿を目にした者たちが皆一様に見上げ、言葉を失った


ビアスが驚き、後ずさる


「なんだ…これは…竜なのか…」

「これはさすがに想定していない大きさだな…」


ルトラが言うにはこいつが一番弱いとか言っていたが…ほんとか?


巨大な亀はゆっくりと、四つの手足を一つずつ動かしながら前へ進む

ズルズルと引きずるように

巨大な亀はゆっくりと、そしてあらゆる障害物を無視しながらゲルマニアに向かって一直線に向かっていた


「ビアス、こいつ街に向かってないか?」

「そのようだ、この速度なら30日以上かかるだろうが…ここで食い止めねば街が壊滅してしまう」


こんなものが上陸なんてしたら街の人たちでは何もできずに踏みつぶされていくだけだ

どれほどの戦力か検討もつかないが攻撃をしかけるしかないか


「わかった、俺から行くぞ」

「任せる」


イズルは両手を合わせ、ダンジョンの魔力を吸いつくす勢いで巨大な合成術式を作り上げていく

「収束、増幅、蓄積、位相誘導、氷雪x6、合成術式六華・雪崩…飲み込め!」


巨大な合成術式から大量の雪と氷が亀に降り注ぐ

雪が亀の片側半分を埋め尽くす頃次第に動きは遅くなっていき、亀は動きを止めた


よし、効いてる


『おぉ、さ…寒い…』


直接頭に響くかのように言葉が流れ込んでくる

亀はゆっくりとイズルを見た


『我が名はファウル、罪を浄化する竜だ。邪魔をするでない』


ファウルと名乗る竜は四肢を踏ん張り、身体を持ち上げると力を抜いて身を投げ出した

沼の水や汚泥が跳ねあがり、大きな地震と共に雪が吹き飛ばされていく


まるで津波のように汚泥が降り注ぎ、イズル達に襲い掛かる


「ただ身体を上下させただけでこれか!」

「シルフェ!」


ビアスが剣を振ると巨大な竜巻となって汚泥の津波を巻き上げていく

竜巻はそのまま大きくなり、竜を浮かせるほど勢いを増していく


「ノ…ノーム!」


ビアスは目を赤くし、鼻血を垂らす

魔力の使い過ぎだろうか?息が切れ、立っているのもやっとという様子だ


巨大な岩の柱が竜を押し上げ、竜は体勢を崩した

今にもひっくり返りそうなほどに


『おぉ…人の身でこれほどの力を…』


竜は前足をひとかき振り回すと岩は砕け、持ち直した


『忠告はした、邪魔をするな』


竜はイズル達に顔を向け、大きな口を開けた

周りの汚泥、水、草木などを巻き込みながら竜の口の前に巨大な物質が作り上げられる


「イズル、避けろ…ブレスだ…」


今にも倒れそうなビアスをグングニルのメンバーが支え、足場を作りもたもたと退却を始めた


「離脱する!反発___」


イズルが両手を合わせ、術式を展開する瞬間目の前が真っ暗になった

巨大な濁流に飲まれ、意識が遠くなっていく


◆ ◆ ◆


「イズル様!お気を確かに!」


トールの声だ…支援に来てくれたのか

イズルが目を覚ますとトールがゆすっていた


体中に痛みを覚え、やっとの思いで身体を起こす

周りを見ると竜のブレスにより地形がすっかり変わっていた

濁流に飲まれた場所は地面、草木がまるで剥がれ落ちたかのように抉れている


ビアスはまだ目を覚まさないようでトールが連れてきた治療士たちが懸命に回復を続けている


リタとムラクモはどこだ


トールが連れてきた治療士や剣士たちが全員をなんとか汚泥から救い

みんな馬車へ乗せられるところだ


「よかった…みんな無事か」


よくこんな状態で助かったものだ

地形が変わるほどの攻撃を受けてなぜみんな五体無事なんだろうか


安堵と共にまた意識が遠くなる


◆ ◆ ◆


トールに救われ、次に目を覚ましたのはグングニルの医療施設だった

リタ、ムラクモは既に歩けるようになっており、ビアスも起き上がっていた

イズルだけがベッドに横たわっている

リタが涙を流しながらイズルに抱き着く


「よかった…死んじゃうんじゃないかと…」

「あぁ…心配かけたね。無事でよかった」


ムラクモも傍にいるがいつもより険しい顔はしているものの無口なままだ


「ムラクモも無事なようだね」

「………」

(あれが竜…今のままではとても…)


みな五体無事、俺以外は元気そうだ

なぜ俺たちは生き残ったんだろうか


「ビアス、なんで俺たちは無事なんだ…?」


ビアスはゆっくりとイズルを見た


「ノームが自発的に守ってくれたみたいだ、今は力を失って小さくなってる。しばらくは無理させられないな」


ほんとチートだなそのスキル

主人の魔力が切れても守ってくれるのか


「竜は討伐されたらしいぞ」


ビアスから信じられない言葉が飛び出した


俺達が手も足も出なかった竜が?


「………え?」

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