Ver 2.06 精霊を怒らせてはいけません

イズルとリタは洞窟で襲われたバルムンクに見つかり、逃走する


「仇って…あいつ死んじゃったのかよ…そんなつもりはなかったが…」

「しょうがないよ!襲ってきたのはあいつらじゃん」


バルムンクの男たちは多少の傷などものともせず血相を変えて必死で追ってくる

森の中であるため長距離を移動するような反発の術式が使えず、徐々に追いつかれる


「イズル、何してる」


聞きなれた声の方へ顔を向けると銀の鎧を身に着けた男が一人、規則的に並ぶ石の中心に立ていた


「ビアス!」

「ビアス様!助けてください!」

「ん?あいつらか」


バルムンクの男たちは止まり、ビアスと相対する

リタとイズルは息を切らしてへたり込んだ


「おい、お前そこをどけ。そいつらは俺の仲間を殺したんだ」

「お前も邪魔するならやっちまうぞ」


ビアスはじっとバルムンクを見据えている


「彼らは僕の友人だ。何か理由があるんだろう、お前たち何をしたか説明しろ」

「あ?なんで仲間を殺された俺たちの方が疑われるんだよ!頭イカれてんのか?そいつらをさっさと引き渡せ」

「断る、お前たちこそここを去れ。ここは神聖な場所だ」


男は右へ左へと顔を向け、確認する


「あ?なんだここは…規則正しく並んだ石…精霊のなんかか?くだらねぇ」


石を蹴り倒し、唾を吐く


「なっ…やめろ!今すぐ起こせ!!」

「あー?お前こそさっさとそい………何だよお前…」


ビアスが激しい風に包まれ宙に浮いていく

明らかにビアスとは違う、人とは思えない声がビアスの口から響き渡る


「痴れ者が!精霊をないがしろにする貴様らにふさわしい罰を与えてやる」


ビアスが剣を抜き、斜めに払う

ごう、と大きな音と共に突風が吹き、男たちが吹き飛ばされながら細切れになっていく


男たちとの間にあった木々も全て細切れになり、ビアスを包む風が収まる頃には風が通ったところは道のように木々がなぎ倒され、男たちの肉が散乱していた


「う……」


ビアスは倒れ込み、気が付くとブルブルと震えながら身体を起こそうともがいている


「おい、何だ今の…大丈夫か」


イズルがビアスに駆け寄り、肩を貸すとビアスは息を切らしながら話し始めた


「僕の精霊だ…彼らの怒りを買うと僕の自我も魔力量も無視して暴れ出すんだよ…」


とんでもねースキルだな…


「ちょっと…休ませてくれ」


ビアスは精霊の祠の中心であぐらをかき、目を閉じる

数分ほど経つと、ビアスは目を開けた


「すまなかった。もう大丈夫だ」

「大変なスキルだな」

「まぁな…このことは秘密にしといてくれよ。僕の家族とトール、お前たちしか知らない」

「なぜだ?強力な力じゃないか」

「制御できない力が強力なものか、精霊たちは人の命が尊いという感情を持ち合わせていない。心無い人たちが精霊ゆかりのある物に何かしら無礼を働けば街の人たちすら皆殺しにしてまうぞ」


それは…まずいですね…非常に


「僕は精霊たちに強力な力を貸してもらえる代わりに行動範囲が限られている。仮にも街でそんな場面に出くわしでもしたらと思うとゾっとするだろう?僕はトロメンス家の三男だ。家督を継ぐ権利もない、この力を有効に活用して魔物を倒せと言われているが…実際は制御できない力に恐れた父上が魔物と刺し違えてくれることを祈って追い出したのさ」


なさそうでありそうな話しだな


「でも家から資金を提供してもらってるんじゃないのか?じゃなきゃクランがあんなに大きくならないだろう」

「事実資金は提供してもらっているが、家の名誉のため難易度の高いダンジョンへ行けと急かされれば…そう思う事もあるだろう」


複雑だな

ルトラが聞けば号泣するんじゃないの


「たまに、こうして精霊の祠を見つけては整備している。精霊は魔力の源でもある、お前たちも大事にするんだぞ」

「「はい」」


あんなもん見た後にないがしろにできないね


「さぁ、帰ろう。道は精霊が教えてくれる、ついて来るといい」


そういうとこは便利だな

一長一短、何事も万能ではない世界だな


◆ ◆ ◆


ゲルマニア グングニル門前


リタと二人でビアスを送ると、頭を下げた


「送ってもらってすまないな。トールは元気にしているか?」

「元気も元気、初日なんて山のような書類もってきていじめられたぞ」

「ハッハ!優秀だが真面目な男だからな。役に立っているようでなによりだ、トールは見た目通り非常に厳しい。うまくやってくれ」


おいおいお前の厄介払いじゃないだろうな


「まぁ助かってるよ、いい男だ」

「そうだろう、僕が知る男の中でもとびきりの紳士だ」

「そうだね。じゃあ俺たち戻るよ」

「わかった。元気でな」


◆ ◆ ◆


冒険者ギルド


「クランができても討伐は一回ここ来ないといけないのか…」

「ランクのためだね。気にしないならいいんだけど、盟主のランクが高くないと冒険者達がクランに応募してこないよ?」

「うーむ…それは困るな」

「じゃ、いこ」


ペトラのいる受付に行き、大蛇の事を話すと解体場まで案内してくれた


「どのくらいの大きさになりますか?毒牙の森の大蛇とはいえど大きさは人によりさまざまでして…」

「どれくらいだろうな…」

「うーん、とりあえずとぐろ巻いてた時は高さ10メートルはあったと思うけど?」


リタが人差し指を唇に当て、イズルは腕を組んで思い出そうと首を傾げているとペトラが目を丸くしていた


「そんなに大きいんですか…人を丸呑みできるレベルですね」

「それくらいはあるな…横腹に穴開けて通れるくらいある」

「ひぇ…で、ではこちらにお願いします」


指定された場所に蛇を降ろすと解体場が騒然となった

ペトラが蛇を見上げ、解体作業員たちもわらわらと寄ってくる


「これはすごいですね…解体した素材は後ほどギルドの倉庫へお届けします。まずはランクアップを済ませてしまいましょうか…」


ギルドに戻り、ランクはイズルとリタどちらも61となった


「おめでとうございます。これでもう上級冒険者の仲間入りですよ」

「また一気に上がったな」

「それはもう、毒牙の森では2種類の巨大な魔物のうちの1匹です」

「もう片方は?」

「毒茨の疱瘡という魔物で、数千本にも及ぶ茨の塊ですね」

「そっちじゃなくてよかったわ、蛇の方が楽そうだ」

「蛇は地下深くに住み、環境の難易度が高いですね。命を落としかねない場所がたくさんあったはずです」


あったね、大きな亀裂に吸い込まれた時に反発の術式がなかったら死んでたな

窒息しそうになったし、あとバルムンクもいたな


「攻略難易度で言えば蛇の方が高いので61は妥当ですよ」

「そうなんだ。そういえばバルムンクって知ってる?襲われたんだけど」

「はい、存じておりますが…ギルドでは対処しようがありません。クランを名乗っていますがギルドでは認めていませんし当然ハウスもありません。犯罪者が行き着く最後のクランと言われていますが誰も場所を知らず、盟主の名前さえわかりません」


そりゃ無理だな

大物の犯罪者って事か


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