Ver 2.05 迷子 2
ゆっくりと警戒しながら扉に向かって進むイズル
雑な建付けの扉の向こうで何かが動いたような気がした
扉はゆっくりと開き、3人の男たちが顔を出す
「あーあ、やっぱ生きてた」
「ちっ…つまんねーな」
「おい、一旦引くぞ。蛇に食わせりゃいいだろ、後で冬眠させればいい」
男たちは水の上に何かを放り投げ、扉を閉める
水の上に浮いた物体は強い光を放ちながら動き出した
なんだ?ねずみ花火?
すると洞窟内の空気が勢いよく動く
「なんだ?なんかいる…」
右へ左へと視線を移し、上を見る
じっくりと観察するもやはり天井は見えなかった
扉へ視線を移すと扉は消えていた
まだら模様の壁になっている
「幻を見せる類の魔法か?」
イズルは近づいて壁に触れた
しっとりと湿っているが実態がある
なんだこれ…
「とりあえずリタを探そう」
まだら模様の壁伝いに進んでいくと、数分歩いた先で男たちが捨てたねずみ花火が浮いている
「あれ?戻って来た??」
………?なんか変だ
イズルは止まり、注意深く周りを観察する
おかしい、水かさが増えていく
さっきまでくるぶしほどしか無かった水位が膝まで来ている
壁に手を当て、登る方法を探そうとしたが引っかかるところもない
「なんだこれ…壁…か?」
観察していると模様が動いていくのがわかった
「わかってきた。これ魔物だな…魔力矢x4…展開」
勢いよく魔力矢が壁に激突するも無傷だった
だがさっきより明らかに移動する速度が速くなっていく
後ろを見ると同じ壁が円形上になってじわじわと狭まってくる
「なんなんだよ!…反発、展開!」
反発する術式に乗って大きく飛び上がってはじめて気づいた
何層にも巻かれたとぐろを思わせるまだら模様の壁
これは大きな蛇だ、俺は蛇のとぐろの中にいる…!
水の上に足場を作り、着地する
「どうしよう。こんなにデカいとは…魔力矢も通じないし…」
勢いよく迫ってくる壁にイズルは焦る
「くっそ…魔力矢x10…行け!」
直列に並べた術式でも傷ひとつつかなかった
「やべぇな…えー…他の術式も試すか。火球…展開」
火球が当たると少し効いたようで勢いよく水かさが増していく
傷口まで水没し、水位は既に人一人分が完全に沈んでしまうほどになった
「火は燃えるより先に俺が沈むな…水ごと凍らせてやろうか…氷結…展開!」
バキバキと音を立てて水と壁が凍っていく
壁の移動速度は遅くなりながらもゆっくりと締め付け続け、凍った部分が割れていく
「壁が迫る速度が遅くなったな…蛇、そうか変温動物だから温度変化に弱い。あいつらも冬眠させてからって言ってたな。飲み込ませてから冬眠させて口の中にでも潜り込んでいるのだろうか?からくりさえわかれば!」
イズルは両手を合わせる
「魔力障壁展開!氷結x10…展開!」
勢いよく水と壁が凍り、壁の動きが止まった
「これだけ凍ればなんか刺さるだろ…何にしようかな…」
やっぱ氷かな?火で溶けても困るし凍らせたまま突破しよう
「氷矢x20……行け!」
直列に並べた術式から放たれた氷の矢は太く大きく育ち人の大きさほどある大きな氷の槍となって蛇の横腹を貫いた
強烈な冷気が突き破った傷口さえも凍らせ、外へと続く道のように続いてる
「うわー…20も重ねると人の大きさ超えるんだな…」
ゆっくりと外に出ると折れた剣を持ったリタが駆け寄ってきた
「リタ!無事だったか」
「イズルこそ!よく生きてたね」
「いや死ぬかと思ったけど魔法のおかげで何とか、リタはどうやって助かったの??」
リタは折れた剣をイズルに見せる
「壁に突き刺して勢い殺して、あとはたまたま落ちたとこが深い水たまりだった」
イズルは大きくため息をつく
「よかった…心配した」
「あたしもだよ…レーダー辿ってきたら蛇に絞め上げられてるし…」
そういやあいつらも懲らしめないとな
「あいつらには会った?」
「あたし達を落とした奴?まだ見てない」
「この蛇を収納したら探そう」
「うん」
蛇を収納し、壁を探して進むとちょうど扉を開けて出てくるところだった
急いでリタとイズルは扉からの死角に隠れ、様子を伺う
「あ?蛇がいねぇ」
「は?あれを?倒したのか??」
「氷魔法が使える魔導士だったのか…しくじったな」
「おいおい、俺たち報告されちゃうんじゃないの~?」
「別にいいだろ、どうせギルドには帰んないし」
「そうだったな」
ギルドに所属してるわけじゃないんだな
「クランのノルマどうするよ~、あいつら蛇までもってっちまったぞ」
「めんどくせえな…だがここしか出口は無い。まだ中うろついてるだろ、やるぞ」
「へーい」
クラン…クランに所属していながらこれなのか
盟主に罰せられたりしないのか?
男たちが十分に離れたのを見てリタが小声で話しかけてくる
「イズル、あれたぶんバルムンクだよ」
「ん?住所不定のクランだっけ??」
「そう、殺人強盗窃盗なんでもあり。ならず者が最後に行きつくクラン」
マジかよ…最低だな
まぁでも…それなら手加減しなくてもいいよな
「どうする?」
「あたしは…やり過ごしたほうがいいと思う…」
イズルはそっと、男たちが来た扉を見る
一人残っており、腕を組んでぼーっと暗闇を眺めている
「一人なら不意をつけば…準備いい?」
「うん」
イズルは手を合わせた
「氷結球x5……行け」
直列に並べた小さな水色の球がまっすぐ扉の前の男に近づき振れると、爆発するような勢いで広がって男は氷漬けになった
そっとリタと立ち上がり、男を横目に扉をくぐった
「すまんな、仲間に処置してもらえ…」
洞窟を出て1時間ほど迷いながらやっとの思いで森に出た
「あー疲れた、入ってきたとことは違う気がするけど散々な目にあったな」
「もーほんと何なの。殺人集団までいるのは予想外」
本当にな…
「帰ろうか、ちょっと森の上まで飛んで方向確認してくる」
「え?飛…うん…」
イズルは反発術式を何度も展開し、森の上へたどり着くと足場を作り、ゲルマニアの街を確認する
浮遊の術式でゆっくりと降りてくるとリタが感動していた
「なにそれぇ!かっこいー」
「え?魔導士ならみんなできるんじゃないの?ヨハナがくれた魔導書に書いてあったよ」
「ヨハナ…ってのが気に入らないけど。飛べる魔導士なんてほんの一部だよ!」
「飛べるってほどじゃないんだけどね…反発する術式で弾かれてるだけだし」
「それでもすごいじゃん!へー、イズルホントに魔導士になっちゃったんだねぇ」
ベタ褒めされると気恥ずかしい…
「あ、ありがと。かえろ?」
「うんうん!すごいなーいつの間に」
たびたび様子を見ながら帰っていると遥か後ろから叫び声が聞こえてきた
「いたぞ!」
「絶対逃がすな、バルトの仇だ!」
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