Ver 2.07 偏食家の指名依頼

大蛇を倒して数日後


ケラウノス 執務室


クランの受付にギルドの男が現れ、イズル宛の手紙を置いて帰って行ったそうだ

受付として雇った女性はヒルデ、褐色肌の女性だ


「イズル様。ムフリッツ家から指名依頼が届きました」

「ムフリッツ?」

「はい、トロメンス、ムフリッツ、アンハイム。ゲルマニアの領土を統治している3大貴族のひとつです」


なんでそんな大貴族が俺に??


「わかった、見てみる」


指名依頼の内容は先日倒した大蛇の毒牙を更にもう2匹分欲しいと言う内容だった

大蛇を狩る人は少なく、次のダンジョンに向かえるランクに達したら向かってしまう事が原因だそうだ

毒を含む魔物が多く、心身のケアもしなければならない上に道が変わるため需要はあるが冒険者には不人気なのが原因らしい


「倒し方は覚えたし道もレーダーに記憶させたから何とかなると思うけど…」


隣に座るリタが一緒に内容を見る


「いいんじゃない?もうバルムンクもいないだろうし」


ヒルデが更に話しを続ける


「せっかくのご依頼ですし危険性が低いのであればムフリッツ家と友好を築くよい機会になると思います」


トロメンス家はビアスに出資してるし、ビアスからは既に受け取ってばかりだし頼りづらい

もしかしたらクランの後ろ盾になってくれるかもしれないしやってみるか


「わかった。ありがとうヒルデ、受けてみるよ」

「はい、いってらっしゃいませ」


じっくりと準備をし、リタと二人で7日かけて討伐した

残念ながら前回と同等の大きさのものはみつからず、小ぶりだったが問題ないだろうか


◆ ◆ ◆


ムフリッツ家


屋敷へ案内され、応接室で待っていると依頼主と思わしき丸々と太った男が現れた

髪は白く、50代を超えているだろうか?人当たりの良さそうな優しい顔をしている


「やぁやぁ、この度はご苦労様。礼儀なんて気にせず楽に喋ってくれ」

「ありがたい、あまりそういう知識が無くて」

「いいよいいよ、冒険者なんてみんなそんなもんさ」


優しそうな人だな


「おっと、ワシはゴットゥム=ムフリッツ。ムフリッツ家の当主だ」

「イズルです。ケラウノス盟主を務めております」

「リタです。イズルのパーティメンバーです」

「うん、うん、よろしくね。今日はどのような用かな?準備資金が足りなかったかい?」

「いえ、討伐したので納品に来ました」


ゴットゥムは驚いた様子でイズルを見る

わざとなのか素なのかわからないほど大げさに


「えぇっ!?もう倒したのかい??すごいねぇ~。さっそく解体場で拝見したいんだがいいかい?」

「はい」


ゴットゥムに連れられ屋敷の地下へ案内されると巨大な空間に大量の解体用具が並び

巨大な食料品や香辛料などが保管されているまるで厨房のような空間についた


「ここは…」

「いいだろう?ここでワシが解体するんだ」

「え?当主が??」

「そうだよ。ここには厨房もある、ワシは珍しい魔物を調理して人が美味いと言える料理にする研究をしている」


リタが驚いて質問した


「魔物…食べるんですか?聞いたことがありませんが…」

「ワシは豪食というスキルを持っていてな。体内に取り込めばあらゆる毒素を無力化できる、それを活用してどんな危険な食材でも無害化する調理法を見つけるというわけだ」

「事情を知らずに聞いてしまうんですが…」

「うん、なんだい?」

「魔物を食べる必要性があるんですか?」

「無いと言えば無いがあると言えばある。ゲルマニアは大きな街だ、畜産もあるし街の外には一部農場もある。だが人口は増えているのに食料の収穫量は上がっておらん、畜産などは増やすにしても広い場所が必要だが魔物に食われるわけにはいかんので街の中で育てているため量が取れん。この街でベーコンが高価な理由だ」


なるほど、食肉の調達が難しいのか

野菜類もそのうち収穫量が足りなくなりそうだな

そもそも人類最後の街、外に土地は無限にあるが住めないし管理できないんじゃそうもなるか


「なるほど」

「野菜類の収穫量も足りなくなりつつあるため植物類の魔物もそのうち依頼するかもな。ワシは魔物を食料化することで街で飢える者たちへ手を差し伸べたいと思っていてな」


立派な事だな


「で、さっそく見てもよいかな?」

「あ、そうでした」


大蛇を2匹倉庫に並べるとゴットゥムは大興奮していた


「おぉ、おぉ、すごいねぇ…どちらも頭を一撃か。なるほど温度をさげて強制冬眠させてるんだね。腕のいい魔導士がいるんだな…報酬にはおまけして金貨100枚で買い取ろう」


さすが貴族、気前がいいな


「そんなにいいんですか?」

「もちろん、ビアスの坊やがお主らを自慢しておったぞ。後ろ盾もないんじゃろ?今回依頼したのもビアス坊やの紹介だからな」


あいつめ…いつになったら恩を返せるんだろうか


「それは…」

「で、それは手付金じゃ。ワシのために食材を集めてほしい、後ろ盾になら喜んでなろう」


イズルとリタは顔を見合わせた


「ですが…まだ冒険者は10人もいないクランですよ…」

「それなら今こそお買い得ではないか。より大きくなって高くなれば欲しがるものも増えるしな」


大きくなるかわからんというのに…投資とはそんなもんなんだろうか


「わかりました。人数が少ないためまだそれほど多くは集められないと思いますが…どのような物が必要ですか?」

「主に毒を持つ魔物なら全般、毒、石化、呪いでもなんでもじゃ。その他肉は基本全て買い取る、量は指定するがな。優先的にワシに回してほしい」

「はい、倉庫に何か変化がある度にお知らせすればよろしいでしょうか」

「それでよい」


ゴットゥムは何かを思い出したように奥へ行くとグラスを3つ持って戻って来た


「では祝いも兼ねて飲もう」

「ありがとうございます」

「いただきます」


ゴットゥムがグラスを空け、イズル、リタと続く


「スパークリングワインに近い感じだ…フルーティでパチパチと弾けるような飲み口」

「なにこれ、すごいおいしい」


ゴットゥムがニヤリと笑う


「うまいか?」


炭酸なんてこの世界にもあったんだな、二酸化炭素が原料だっけ?製法あるのか


「はい、すごく。ワインですか?炭酸はどうやって…」

「炭酸?それは知らんがその酒は今そこにある毒牙の森の大蛇から取れる毒が原料だ」


うっそ…毒飲まされてた


「え……」


リタが眉をよせゴットゥムを睨む


「ほっほっほ、ワシのサロンで何度も出しておる故安心せい。誰一人として腹を壊したものなどおらんぞ」

「でも面白いですね、こんなお酒が飲めるとは」

「そうじゃろ?ワシの研究の偉大さが解ってもらえたかな」


リタがグラスを眺めながら小さく頷いた


「たしかに…これだけおいしいなら…」


ゴットゥムは満足そうにリタに満面の笑みを浮かべる


「珍しい魔物ほど高く買い取るぞ、ダンジョンに居らぬような野外の魔物ならなおの事な」

「わかりました。今後ともよろしくお願いいたします」

「うんうん、いつかワシのサロンにもおいで。美味しい料理を振舞おう」

「はい、是非」


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