Ver 1.02 何もない男の生活
目が覚めると街の近くの草原で寝ていた
長大な壁、門から覗く大通りには大きな建物が並び人がたくさん往来しており、なだらかな丘の上に建つ城は街の入り口から数キロは離れた場所に見える
かなり巨大な街だ
「よかった、さすがに街の近くじゃなかったら詰んでたな」
女神にも良心があるのか?
俺はほっとし、気持ちを切り替えて街へ歩き始めた
そういえば言葉が通じるのだろうか?
ラノベじゃだいたいなんとかなるんだが俺は前代未聞のスキル、魔力、体力無し
持ち物を確認すると農民のような服以外何も所持品がない
腹も減っているしお金もないし武器も何もない
パッと見身体だけは若くなっている気がする
腰痛と肩こりが無いのだけは助かった
数秒固まって考えたがすぐに考えるのを辞めた
まぁ考えたってどうしようもない、どうせこのままじゃ生き残れもしない
当たって砕けるしかないな
てくてくと歩いて門まで行くと門の内側には門衛がいる
黙って通してくれるのかと思っていたがさすがに呼び止められた
「まて、お前どこから来た?」
「いや、すぐそこから」
「ん?はぐれか?………魔物じゃなさそうだな」
門番は怪しげな石を取り出し俺に押し付けるとそう言った
よかった
話しは理解できるし通じているようだ
「魔物じゃないと思う、はぐれとはなんだ?」
「はぐれってのはたまに街の外から来る人間だ。もうこの世界にはこの街しか残っていないのになぜか外から人間が来る、それをはぐれって呼んでるんだよ」
俺以外にも捨ててんのかあの女神、ほんとあいつの悪行に気づけ上司
「気をつけろよ。はぐれは特殊なスキルを備えていることが多い、質の悪い奴に目を付けられる前に街に馴染め」
ハァァァァ!?普通は特殊なスキル持ってんのかよ
スキル無しは俺だけか!あの女神地獄に落ちろ
みるみる紅潮するイズルの表情に驚き、門衛は引き気味に質問する
「おい…大丈夫か?」
「あ、いや。大丈夫です」
落ち着け俺、みんな事情を知らないのだ
「まずはその辺の店なり冒険者ギルドなり行って仕事を探せ、有用なスキルがあるならすぐに雇ってもらえるし守ってもらえる。頑張れよ」
「ありがとう」
有用なスキルね…
だいたいみんな持ってる風の話だったし無いって言わないほうがいいやつか?
チートスキルを隠す主人公の話なら良く読んだけどスキルが無いのを隠すのってなんか斬新、いや当然か…もうホント女神のやつ…はぁ…
だましだましやっていけるかな
門を抜け、大通りへ入ると往来の多さに驚いた
かなりの人数がいる街だ
結構栄えてるのか、最後の街だから人が集まってるのかわからんがこれだけ人がいれば需要もある、仕事は多いはずだ
スキルも魔力も体力もない俺が冒険者ギルドへ行くのはさすがに違う
ぶっちゃけ憧れてるがどう考えても死ぬ未来しかない
腹も減ってるのに金もない、まずは仕事を探そう
◆ ◆ ◆
武器屋
ここで働かせてもらいながらうまく自分の武器を作れる流れとかになっていつかは俺も異世界ライフを楽しめればいいんだが
店は入り口にカウンターがあり、奥に鉄を打つ金床、水桶、炉がある
店と鍛冶場が直結してるのか
金床の前には気難しそうな上半身をはだけたツナギの男がタバコをふかしている
白髪で図太い腕、発達した筋肉の塊のような肩を持ついかにもな姿だ
まずはカウンターにいる弟子らしきバンダナを巻いたツナギ姿の男に声をかけた
「あの、ここで働く人は雇ったりしてないか?」
「ん?そりゃ親方に聞け。親方ー!」
弟子が白髪の男を呼ぶと白髪の男は俺を睨みつけた
「聞こえてるよ、この辺じゃ見ねーな。はぐれか?行くとこねーならしばらく預かってやる。働けるならいいが役に立たねーなら追い出すからな」
意外とすんなりいけた
人類最後の街というだけあって人類には優しいのだろうか
1週間後
「てめぇ!何やらせてもダメじゃねーか!なんでここ来たんだ。鉱石の見分けはつかねーし金槌も1時間握ってらんねーし炉も冷やすし見込みがねーぞ!出ていけ!」
「ちょっと待って!もうちょっとしたらきっと役に立てるから!」
俺の話しに聞く耳持たず、追い出されるように店を出されてしまった
体力モブのデバフがかなり効いている
2日目からは筋肉痛でまともに動けなかった
肉体労働はダメだ、コンビニとかそういう感じのとこへ行こう
◆ ◆ ◆
道具屋
店は棚が並び薬品、包帯などの医療道具を中心に所狭しと物が並んでいる
扉をくぐるなりカウンターに座る小太りの中年が声をかけてくる
「いらっしゃい!どんな道具が入用ですか?」
「あ…俺ははぐれらしいんだが。仕事を探してるんだ」
小太りの男はあからさまにがっかりとした顔をしながら椅子に座りなおした
「なんだ、客じゃないのか…まぁはぐれなら追い出すのも可愛そうだしな。ちょっと仕事してけ」
「助かります」
1週間後
「なんで品出しすら出来ないのお前!品は間違える、落っことす!客の顔は覚えらんない!客商売する気あるの?出てけ!」
「いやあの反省してます!もう少しで慣れると思うんです!」
プログラマーというのは繰り返し行う仕事を効率よく行うための仕組みを作る職業だ
仕組みを作るのであって単調な作業が得意なわけではない
プログラマーだからエクセル得意だろ?みたいなのと似ている
仕組みを作ることが得意なのであってデータ入力が得意なのではない
エクセルで言えば関数を使った計算の自動化とかだ
単調な作業を繰り返していると集中力を保てず凡ミスが目立ちここも追い出されてしまった
別に客商売が単調というわけではないがきっと俺の興味が無さ過ぎてそう感じている
◆ ◆ ◆
魔道具屋
そんなこんなでいろんな仕事を転々としては追い出され
魔力無しには一番向かないだろうと思っていた魔道具屋へ来た
「もうここしか残ってない…魔力もないのに魔道具なんて作れるんだろうか…そもそも魔法の知識さえないんだが…しかしもう腹が減った、ダメ元で行くしかない」
意を決して扉をくぐるとオカマの男がカウンターに立っている
主張の強い顔をイズルに向けて上から下までじっくりと見る
「あら、役立たずのはぐれさんね?うちでも仕事してみる?」
世話になった先々で失敗を繰り返しイズルは噂になってしまっていた
もはや顔をみるだけでウチに仕事は無いぞと言われるほどだ
クリスの予想外の問いかけにイズルは戸惑った
「え?いいんですか…」
「もちろんよ。何事もやってみなきゃわからないわ」
この数週間で完全に自信を無くした俺は卑屈になり、元の性格を完全に忘れつつあった
見た目はアレだが優しい人なのかもしれない
魔力が無いのを知ったら追い出されるんだろうか…
でもせめて一食くらいはお世話になりたい…
最後にご飯食べたのは……昨日の昼だ
割と毎日奇跡的に食べれてたわ、そんな深刻でもなかった
まぁお腹空くのは仕方ない
グゥ、と店内に響き渡るお腹の音にクリスは微笑んだ
「うふふ、お腹空いてるのね。子猫みたいじゃない、ちょっと待ってなさい」
クリスはカウンターを立つと客を追い出し、店を閉めた
「ほら、聞いてたでしょあんた達!空気読みなさいな」
「え?あぁ、わかったよ。昼過ぎには開けてくれよ」
「はいはい、いいからさっさと出てって」
クリスにご飯を作ってもらい、一緒に食べ、夜には魔道具の基礎を習った
意外な事にここが一番合っており、魔道具に付与する魔法の術式がプログラムのようで解読と習熟に集中力を発揮し、半年くらいで店に並ぶものなら大体の付与はできるようになった
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