Ver 1.03 運命の出会い

クリスの魔道具屋に世話になるようになってしばらく経つと、とある豪商が世界を変えるような発明がしたいと言い出したらしく

豪商とただならぬ縁があるのかクリスが断り切れずしぶしぶ受けた


そして俺が元の世界にはあってこの世界にはないクーラーの提案をしたことでプロジェクトがスタートし、今に至る


ダンジョンへ向かう途中の道


1時間ほど歩き、街道沿いには茂みや森が目立つ

兎のような小さな魔獣もちらちらと見かけるようになる


どこか滅びた街に繋がっているであろう街道の石畳を頼りに歩き

手書きの地図を見ながらダンジョンへ向かう


「ダンジョンまであと半分くらいかな、入り口付近に狼が都合よくウロウロしてると楽でいいんだけどな」


街道沿いの森からガサガサと音がする


「ん…魔物か…?」


正直魔物はまだ見たことがない

緊張し、鼓動が早くなる


距離を取るように後ろに下がり、近づいてくる音の方向を凝視した


「いたた…あいつら…よくもこんな…」


森から出てきたのはちょっと筋肉質な女性だった

長い黒髪を束ね、剣士風の姿に片手剣を携えている


傷だらけの女性はイズルに気づき剣を構える


「誰…」


女性の足はブルブルと震え立っているのもやっとだ

俺は両手をあげた


「敵じゃない、傷だらけだが…大丈夫か?」


女性はしばらくイズルを見つめる


「軽装?商人?なんでこんなところまで来てるの?怪しすぎるよ」

「クリスの魔道具屋で働いてる、主に裏方で術式付与をしてるんだ。魔石が足りないから取りに来た」


女性は俺の話を聞くと、ため息をついて剣を下ろし、座り込んだ


「クリスの魔道具屋?いたた…一人で何しに来たの…護衛くらい雇いなよ」

「今はあまりお金がないんだ…ちょっとくらいなら戦える」


女性は結構辛そうに見えた

ダンジョンを探索するために持ってきたポーションだが彼女を助けてあげよう


イズルは女性に駆け寄り、ポーションを取り出すと女性はそっと俺の手を掴む


「あたしはリタ、施しはいらないよ」

「いいのか?つらそうだが…」

「あたしは治療士なの、今は魔力が尽きてるけど…少し休んだら自分で治療できる」

「そっか…じゃあ回復するまで付き合うよ」


プロジェクトのため急いではいるが俺も最初はいろんな人に助けてもらった

魔道具以外仕事はうまく行かなかったが…

それでも1週間は役に立たない俺を食わせてくれたんだ、俺も街の人たちに恩返しするべきだと思う


リタは小さく笑い、呆れたように俺を見る


「なんでそこまでしてくれるの?初対面じゃない」

「………俺ははぐれでさ、最初みんなに迷惑かけながら助けてもらったんだ。俺も街の人たちに恩返ししたい」


リタはイズルを見ながら数回頷いた


「あんたがちょっと前噂になってた役立たずのはぐれか、ほんとよくこんなとこきたね」


う…ちょっと仕事が合わなかっただけだ

そもそも魔力もスキルも体力もないんだ…大目に見てくれ


イズルはリタから目を反らしながらつぶやく


「俺はスキルも魔力も体力もないんだ、体を鍛えても育たない」


これまで少しでも強くなれればと思って自重トレーニングなどをしてみたが筋肉痛になるばかりで半年続けているにも関わらず一切体が育たなかった

本当にあの女神厄介な事をしてくれた


リタは目を丸くし、信じられないものを見るような目を向ける


「うっそ…ほんとなんでここにいるの。帰んなよ」

「クリスの魔道具屋でやってる大きな仕事の納期が明日なんだ、魔石を持って帰るまで帰れないよ」

「マジで…はぁ…じゃ、あたしも手伝うよ。クリスの魔道具屋にはお世話になってるし」


森の中からガサガサと音がし、獣の匂いが漂ってくる


「やばい、魔物だ。ダンジョンからあたしを追っかけてきたのかも」


イズルとリタは飛び起きて森から離れた

3匹の狼がグルルと喉を鳴らしながら森からゆっくりと姿を現し、左右に広がっていく


「3匹も…」

「俺が先制する」


イズルは魔石を取り出し、狼に向ける


魔力矢の術式、追跡の術式、火球の術式を付与した魔石を用意した

これに起動用の術式を付与した魔石を触れ合わせれば魔力が無くても術式を展開できる

術式を展開すれば空気中に漂う魔力を吸って魔法が発動する

こいつらなら魔力矢の術式に追跡の術式を合わせれば余裕で撃退できるはずだ


イズルは追跡の術式を展開し、狼に狙いを定め、魔力矢の術式を起動する


魔力矢の魔石から魔力の矢が放たれ、追跡の術式を通って勢いよく魔力矢が飛んでいく

狙われた狼は横に飛び退くが魔力矢は曲がり、狼の頭を貫いた


リタは驚き、イズルを見る


「なにそれ!すごくない?魔力無いんじゃないの??」

「術式を付与した魔道具を持ち歩いてるんだ、空気中に漂う魔力を吸って発動できる」

「なるほど、一人で来るわけだ」


さらにイズルは二匹目に照準を合わせ、魔力矢を発動すると二匹目も頭を貫き息絶えた


「よし、あと一匹」


狼は俺の動きを察知すると術式を発動する前に飛びかかってくる


「うわっ」


ギリギリで躱し素早く転がり、距離を取ろうとするも今度はリタに飛び掛かる

傷だらけで踏ん張りが効かないリタは狼を受け止め、剣で押しのける

狼はまた警戒するように距離を取ってイズル達を追い詰めるように移動しはじめた


「ごめん、あたしの方が足手まといだ」

「大丈夫、これが最後の一発だ」


術式を展開し、魔力矢を発動させる


………


何も起こらない!?周囲の魔力を吸いつくしたのか


「え?あれ!?………ごめん、このあたりの魔力を吸いつくしたみたいだ」

「え!?ど、どうすればいい??」


慌てるリタを見てイズルは考える


やばいやばい、俺はこの術式魔石が使えなければ無能だぞ

考えろ、魔力が周囲にないなら移動するか?

ダメだ、リタが走れない

どうやったら魔力を補給できる?

そもそも補給なんてできるのか?


どうする、どうする…


イズルは手持ちの魔石に目をやる

魔石は魔力の塊

もしかして砕けば一発分くらいは補給できたりするかもしれない


イズルは火球の魔石を強く握りしめる

ダメだ俺の体力で割れるはずがない、そもそも石のように硬い

噛んでみるがまったく魔石は割れる気配はない


「くそ…これが割れれば…」


苦戦するイズルを見てリタが声をかけた


「あたしに貸して!」

「え?」


イズルがおそるおそる火球の魔石をリタに渡すと右手で握り締め、ギリギリと音が鳴る

前腕に血管が浮き、拳にも浮く

魔石はミシミシと音を立てる


「おぉ!すごい」

「フンッ……!!」


ピキピキと音を立て、魔石にヒビが入る


「くぅぅぅぅぅぅ…」


顔を紅潮させ腕をくの字に曲げるリタ


「ふぅぅぅぅ!!」

「いけるか!いけるか!?」


バキンと大きな音を立て魔石が砕けると虹色の煙が当たりに立ち込めるような気がした


「うおぉぉぉぉぉぉ!」

「いったー!!!」


リタは魔石を握りしめ天高く拳を突き上げる


よしこれで魔力矢が使えるはずだ


術式を展開し、魔力矢を発動させて最後の狼を倒すとイズルとリタは安堵してゆっくりとその場に座り込んだ


「はぁぁぁ…あぶなかった」

「助かったよ、役立たずなんていってごめんね」

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