Ver 1.04 ハズレスキル

イズルとリタは狼を解体し、イズルは魔石をもらい

リタは狼の毛皮と肉を受け取った


「あたしなんもしてないじゃん。貰っていいの?」

「いいよ。俺は何もなさすぎて冒険者になれないだろ、それ貰っても処分するとこに困るの」


リタは毛皮と肉を魔力鞄にしまい込む


「じゃあ…遠慮なく」


イズルが魔石の大きさを確かめているとリタがじっと見つめる


「ねぇ、あたしさ…イズルにも負けないくらいのハズレスキルなんだ」


イズルはリタを見た


俺に負けないくらい?スキル無しに勝てるハズレスキルなんてあるのか


「あたしのスキルって握力増強なんだ…このスキルをどう活かそうか迷いに迷っててさ…治療士やったり剣士やったりで自分の居場所が見つからなくて」


それで魔石を素手で割れるのか

それはそれですごいんだが、握力増強ね…俺も使い道がわからん


「さっきもパーティとモメてさ…追い出されたんだ」

「え?なんで??」

「治療士だけどそんなに頻繁に魔法使えないんだ。向いてる人だと魔力増強とかのスキルで何度も使えるんだけど…あたしじゃせいぜい数時間に1回、魔力不足を補うために剣を握って前に出るんだけど自分の治療で使い切っちゃったりして…」


空回りしてるな

俺も冒険者に憧れてこんな術式魔石なんか作ったりしてるんだし

スキルが弱いからって諦められない気持ちはわかる


「苦労してんだな」

「イズルほどではないけど」


イズルは他人に同情するほどの能力がない自分におかしくなって笑った


「ハハッ、俺もそうだな。苦労してるわ」

「ふふっイズルみたいな人初めて見たよ」

「俺も聞いたことないな」


リタはイズルの手を握って顔を覗き込む

筋肉質な女性だが美しい身体のライン、整った顔立ち

不意をついて接近してくるリタを見てイズルは鼓動が早くなった


「え?なに?」

「ね、冒険者やらない?狼が倒せるならきっとなれるよ。あたしが証人になる」


なんだ…ドキドキした…

そりゃあ、冒険者に憧れていないわけではないけど

異世界と言えば冒険、諦めきれなくてコツコツためたお給料で魔石に攻撃魔法の術式なんか付与してるくらいだ

でも俺は魔力も体力もスキルもない、そんなやつが冒険者になれるのか?


「いやでも…俺は戦力にならないだろ」

「狼倒せたのに?あたしを助けたのに?そんな事ないでしょ」

「まぁ…そうだとしても冒険者ギルドが俺を認めないだろ?それに他の冒険者だってきっと俺を馬鹿にする」

「そんなのどうだっていいじゃん。あたしと一緒にやろうよ。魔力が枯渇したら魔石を割るやつがいるだろ?」


そういう事か

でも確かに、そこはリタに救われた

そして俺一人で魔石は砕けない


「まぁ、その通りだけど」

「じゃ決まりね。今日からあたしとイズルはパーティだよ」


リタは俺の腕に抱き着き強く握りしめ、期待の眼差しを向けてくる


強引すぎるだろ

まだ俺には仕事が残ってるの


「ちょっと待ってくれ、まだクリスのとこの仕事がある」

「いいよ。待つから、あたしもクリスのとこ行くよ。お手伝いする、なんと無料で!」


もうダメだ、女神とは違う強引さがある

どこまでもついてくる気だな

冒険者ギルドで一蹴されれば諦めてくれるだろうか


「わかったわかった、落ち着いて。クリスの仕事終わってから冒険者ギルド行くでいいか?俺寝てないから明後日でいい?」

「おっけーおっけー、そろそろあたしの魔力も回復するし、ちょっと待っててね」


リタは手を合わせ目を閉じると意識を集中し、ぶつぶつと何かを唱え始めた

薄い緑色の光に包まれ、リタの手に光が集まっていく

光る手を自分自身にかざすとみるみる傷が消えてしまった


「よし、これでおっけー。魔石は足りた?まだ狼倒す?次はあたしの腕前を見せるよ!」

「あ、もう大丈夫。いったん帰りたいな、納期近いし」

「わかった。じゃあ一緒に帰ろう!」


◆ ◆ ◆


クリスの魔道具屋


魔道具屋の扉をくぐるとクリスがカウンター越しに俺の姿を見るや否や声をかけてきた


「あ、おかえり。大丈夫?怪我してない?」


俺に続いてリタが扉をくぐる


「あ、クリスおひさー」

「あら、リタちゃん?久しぶりね~魔力鞄役に立ってる?」

「もちろん」

「よかったわ。今日は何か買ってくの?」

「ううん、イズルのお手伝いに来たの」


何かを察したクリスがイズルに冷たい視線を送る


「ふぅん、恩知らずとはこの事かしら。アタシというものがありながら…」


やめてくれクリス、恩はあるし返すが俺はノンケだ


イズルは目を閉じ顔を背けた


「魔石は揃ったんだ、作業に戻っていいか?」


クリスは小さくため息をつく


「そうね、明日だもの。リタちゃんもどうぞ、中に入って。イズルちゃん手出しちゃだめよ」


余計な事言うな、仕事しづらいだろ


「クリス相変わらずだね~、イズルも恩があるなら一回くらい許してやったら?」


イズルはリタのとんでも発言に開いた口が塞がらない


「あっはは!面白い顔だね~、あれ?なんていうんだっけ…先っぽだけ?」


ふざけんなそれ全部行くやつだから

意味わかってんのか?クリスがその気になるだろ、勘弁してくれ


クリスはふっと鼻で笑い、カウンターから奥へ行く腰扉を開ける


「ちょっとリタちゃん。イズルちゃんにその気がない事くらいわかってるわよ。その辺にして早く仕事させてあげて」

「あはは!はーい!」


作業場に戻り、術式の続きを書いていると暇を持て余したリタが歌い出す

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