Ver 1.05 脳筋チョモランマ
リタは軽快なリズムを刻みながら腹筋を始めた
「はぐれて迷うも魔力無し!」
「ウッハッ」
「はぐれて迷うもスキル無し!」
「フンッフンッ」
「はぐれて迷うも体力無し!」
「ウッハッ」
「身体鍛えて空回り~」
「フンッフンッ」
「残った部位は~頭部だけ~」
「ウッハッ」
「これぞ脳筋チョモランマ~」
最後だけすごい気になる
脳筋チョモランマってどういう状態だろう
頭が縦に伸びるのか?
横か?
いやどうでもいい、そうじゃない
仕事仕上げなきゃ
3回くらい同じ歌を歌い続け次のトレーニング項目に入るリタ
「次はスクワット~」
さすがに気になって仕方ないので静止する事にした
「ちょっと待って落ち着いて」
「え?」
両腕を頭に乗せスクワットを始めるリタ
「手伝うって言ったけどすることなくてさ~せめて応援しようと思って」
「お、おう。ありがとな、ちょっと黙っててくれる?」
「えーお手伝いしたい」
「いや…このままだと頭が伸びる術式が完成しそう。頼むからクリスと遊んでて欲しい」
イズルは目頭を押さえながら優しくリタを諭す
リタはジト目で俺を睨み、頬を膨らませそっぽを向いた
「わかったー、静かに筋トレする」
「筋トレは辞めないのね。わかったそれでいいから静かにしてて」
◆ ◆ ◆
夕方
作業を始めてようやく術式のプロトタイプが完成した
この世界にはまだ空調が存在しない
夏や冬も存在するそうだが丁度今が夏の終わり頃
夏は部屋にいるだけでうだるような暑さに嫌気がさしたのがキッカケだ
都市は湖の近くにありそのせいで夏はジメジメと蒸し暑い
「風と氷を出す術式、温度調節の術式、風の強度を調整する術式、これでいいはず」
イズルは完成させた術式を眺め、さっそく魔石に付与して確かめるべく振り返った
リタが静かに今もトレーニングを続けている
鎧は脱ぎ捨て、汗に濡れた肌が露出し衣服が張り付き異常にエロい
イズルの目はリタに釘付けになった
なにこれクリスとは違っていい意味で目に毒っていうか眼福っていうか
汗に濡れた姿ってなんかこう…すごい、美しい
リタは釘付けになるイズルを見て微笑みかける
「ふふ、イズルも一緒にやる?」
リタは杖を10本ほど担いでスクワットを続けている
「鍛えても意味ないって言っただろ。やんないよ」
「身体動かすとキモチイイよ~?脳トレは終わったんでしょ?」
脳トレ…仕事なんだが…
だいたいリタが今担いでるの商品だからな
汗まみれにしたらダメでしょ
……でもまぁ、眼福だから許す
ちょうどいいから空調の試験に付き合ってもらうか
「これから試験運転するからもうちょっと待ってて、そこにいてね」
「?……いいけど」
トレーニングを辞め、立ち尽くすリタを横目にイズルは魔石を手に取った
組み上げた術式を早速魔石に付与し、配置する
3つの魔石を並べ、それぞれに起動用の魔石をくっつけていくと魔石に刻まれた術式が反応し、氷の礫を伴った生ぬるい風が勢いよく吹き出した
無数に発生し続ける氷の礫は風に乗って勢いよくイズルに叩きつけられる
「あばばばばば」
慌てて装置を止めるとリタが腹を抱えて笑っていた
「あっははは!何してんの!?アイシング?筋肉痛の予防にいいらしいね~」
「ただの失敗だよ。氷はいらなかったな。あともうちょい風は弱めでいいな、あとは温度もちょっと下げよう」
氷の属性を除いた術式を付与した魔石に取り替え、風の強さを弱め、温度設定を下げると生ぬるい風は涼しい風に変化していく
風の温度変化を感じたリタがイズルを見る
「涼しくなった」
「よしよし、成功だ」
リタがイズルの側へ寄ってくると身を乗り出して魔石を覗き込む
「よくこんな親指程度の魔石に細かい式書けるね」
「慣れだな」
あと、近い
ドキドキする
リタの汗ばんだ身体が今にもイズルの頬に触れそうだ
無意味に深呼吸したくなる、このままだと変態呼ばわりされそうだ
クリス呼びに行こう
「クリス呼んでくるよ」
「あ、あたしも行く~」
リタと一緒にクリスを呼び、試験結果を見せるとクリスは泣いて喜んだ
「あは~ん!イズルちゃんおめでとう!そしてありがとう!」
泣きながらイズルに抱きつき、頬ずりを始めるクリス
ついでにリタも便乗して抱き着く
「これなら絶対明日だいじょうぶよぉぉぉぉぉありがとおぉぉぉぉぉ」
「うんうん、頑張ったねイズル!」
「うおぉぉぉぉぉ!!天国と!地獄が!ここにある!!」
泣きじゃくるクリスをなだめ、使い方を説明する
ようやく落ち着いたクリスは真剣に説明を聞き、おもむろに紙へ絵を書き始めた
「これならこんな形なんてどうかしら?」
風を出す魔石を頂上に据え、調整用の魔石は加工してツマミ風にしたデザインを見せられた
元の世界で例えるなら扇風機のようなデザインだ
リモコンみたいな術式があればマンションとかにある空調っぽくできそうだけど
今はこれでいいか
「いいと思う。これで納得してくれるといいけど」
「絶対大丈夫よ。夏と冬の気温を抑えられるならそれだけで死者を減らせる、お望み通り世界を変える発明になったわ。あとは私がやっとくから、イズルちゃんはもう休んで。もう3日は寝てないでしょ」
仮眠は取ってるけどな、納期が近くなると緊張で胃が痛くなるしどうせ眠れない
とりあえず形になってよかった
これでぐっすり眠れそうだ
「ありがとう。じゃあ今日は寝るよ、冒険者ギルドは明日でいいよなリタ」
「もちろん。明日迎えに来るね」
「あら、イズルちゃん冒険者になるの?」
あ、そうかクリスにはまだ話してない
「まぁ、流れで…どうせ断られるだろうから気にしないで」
「いいのよ、陰でトレーニングしてたのは知ってるの、みんな一度は憧れるものよ。店の事は気にしないで行ってらっしゃい」
こういうとこは包み込むような優しさというのだろうか
クリスは心が広いというか、心に響く言葉をよく選ぶ
ありがとう
「まぁ、まだわからないさ。とりあえず明日は行ってくるよ、ありがとうクリス」
「行ってらっしゃい。リタちゃんイズルちゃんをよろしくね」
「うん」
冒険者になれるかどうかはわからないが
ようやく異世界らしい冒険ができるのかと思うと胸が膨らむ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます