Ver 1.11 デスマと手柄泥棒
クリスの指名依頼3日目
魔道具屋の扉をくぐるとクリスが今にも泣き出しそうな顔をしながらカウンターに座っていた
「あれ?どうしたの」
「ごめんねイズルちゃん…納期が不当に縮められちゃって…明日のお昼になっちゃったの」
うーわ、誰だ依頼してるやつ
元の世界にもいたわそういうの、デスマ決定じゃねーか
「精一杯抵抗したんだけどどうしても折れてくれなくて…」
「まぁ受ける側は仕方ないからな…材料費もあるし、断ったら投資した金額回収できるかわからないんでしょ?」
「そう…本当にごめんなさい。今日は店を閉めてあたしも手伝うわ」
「わかった。頑張ろう」
◆ ◆ ◆
翌朝
何とか朝には全ての魔力鞄が出来上がった
「休憩なしはマジできつい…仮眠取りながら毎日20時間働く方がよっぽどマシだ…」
イズルは全ての力を使い果たし、疲れ切っているが不思議と眠くならなかった
「気を張り詰めてるからかまったく眠れる気がしないな」
「そんな時はご飯食べて身体に休憩するって教えてあげるのよ。ちょっと待ってて」
「あ、あたしが作るよ!二人とも休んでて」
「あら、ホントに?お言葉に甘えちゃうわ」
「うん。任せて」
リタが代わりに台所に立ち、手間取りながらも朝食の準備を進めていく
「そういえばリタってご飯作れるのかな、見たことないけど」
「できると思うわよ?冒険者だったら野営する事だってあるんだし」
「なるほど、確かに」
しばらくしてリタに呼ばれ
食卓に着くと手間取っていたとは思えないほど立派な朝食がテーブルに並んでいた
「うわぁ、スープにパンにベーコン、目玉焼きまで…ありがたや」
「これくらいなら、そんなに手間のかかるものではないよ…」
「リタちゃんありがとう。助かったわ」
食事を終えるとクリスの言う通り、緊張が解けたのか眠気が少しずつ強くなってくる
「イズルちゃんとリタちゃんはもう休んで、アタシはこれから準備して依頼主に納品してくるわ」
え?あぁそうか…クリスはまだ仕事が残ってるのか…
「あ、手伝うよ…」
「ダメよ、ここから先はアタシの仕事。任せてちょうだい」
ごめんクリス、眠気が…
「Zzzz……」
◆ ◆ ◆
厨房で目を覚ますと隣でリタが寝ていた
二人で机にうつ伏せに寝ていたようだ
よだれを拭いてクリスの様子を伺うため店の中を探すと店のカウンターでボロボロと大きな涙を流すクリスがいた
「え…なに…」
「イズルちゃん…アタシ悔しい…ごめんなさい」
気丈なクリスが涙を流すのは初めて見る
イズルは戸惑いながら席に着いた
「どうしたの?」
「あいつ…あたしたちの足止めの為にわざと納期を縮めたのよ!」
机を叩き、うつむきながら涙を流すクリス
「よっぽどだな…何されたんだ?」
「イズルちゃんが開発した空調の…技術が奪われたの…」
は?
「どういうことなの?」
ざわざわする、目が一気に覚めた
「あたし達が忙しくしている間に、腕のいい魔道具屋を雇って解析させたみたい。今は形がちょっと違う空調が商品化されて、開発者がドリアルトになってるわ」
「………」
「ごめんなさい。アタシがもっと気を使っていれば…」
別にクリスのせいじゃないだろうし
模倣されたならよりよい物を作ればもしかしないか
「いやまぁ模倣した商品がどんなものかは知らんがさらにいいもの作れば対抗できないかな」
「それがダメなの…ドリアルトが開発者として申請し、複製を禁じているから似たようなもの作ると罰せられるのはアタシたちになっちゃったの」
イズルは気が遠くなるような気がして頭を振る
「おいおいマジかよ…そんなの堂々とやるやついるのか…」
「事情を知らない人からしたら完全にドリアルトのモノよ。本当にごめんなさい」
「いや、クリスの責任じゃないだろ…ドリアルトって言うんだな」
「そう、でもこの街の豪商よ。貴族たちとも繋がりがたくさんあるから下手な真似はしないでちょうだい。かなり歴史の古い商会で人脈が多く性格が悪くて有名なんだけど逆らえない人が多いのよ」
最悪だ
「腕のいい冒険者を護衛としていつも雇ってるわ、多少の悪事ならもみ消してしまえるくらいの力はある。今回の事もきっとあちこちに手を回してあるわ」
元の世界ではこんなことは経験したことが無かった
さすがにこんなことすればせっかく優秀な製品を産みだせる人物との人脈が傷つくからだ
だが俺ははぐれで人脈なんてさしてない
俺に味方するのは今のところリタとクリスだけ
完全に確信犯だろう
やってくれたな…
まぁまだ元の世界のアイデアをこっちに持ってくるような感じでいろいろと開発できると思うがさすがに今回は腹が立つ
人が何か月もかけて研究した成果、クリスが投資した金額がどれほどだと…
高い授業料になった
いずれ機会が巡ってきたらお仕置きしてやらないといけないな
この世界に俺を送った女神にも腹が立つがドリアルトはそれ以上だ
女神はまだ八つ当たりだっただけ可愛げがある
だがドリアルトはダメだ、他人の成果を否定するやつは絶対許さん
「はぁ…今回は高い授業料になったな…いずれ機会が巡ってきたらお仕置きしよう」
「ごめんなさい。本当に…」
「いいよ。クリスのせいじゃない」
「そう言ってくれるのはうれしいけど。アタシの気が済まないわ…」
クリスはしばらく沈黙した後、意を決したような顔をしてイズルを見た
「ねぇイズルちゃん、クラン作る気はない?」
「クラン?」
「そう、クランは冒険者や商人達の集団よ。クランハウスというものを持って経営するの。平たく言えば冒険者ギルドのようなものね。ギルドとは別に人と商品を管理してる、独自の商品を持っていたりするわ、そのクランでしか狩れないような魔物の素材を使っていたりするのよ」
なるほど、元の世界で言うと会社みたいなものか
「クランになって力をつければ貴族とも繋がりを持てたりするわ。いずれ仕返しするなら今後そういった力が絶対に必要になるわよ」
一理ある
少なくとも相手と対等以上の力をもっていないと躱されるか踏みつぶされるかしていつまでもあしらわれ続けるだろう
権力と金と集団を操る人物は一筋縄ではいかない
「イズルちゃんがクランを作ったら必ずアタシを呼んでちょうだい。店の中の物は全てイズルちゃんに差し上げるわ、汚名返上のチャンスをちょうだい」
「いやさすがにそれはやりすぎだろ…店を手放すまではしなくていいんじゃないか」
「いいのよ。ドリアルトに貸しを作ってまで借りた店だし、お陰でこんな目に合わされたんだもの。未練は無いわ」
そりゃ捨てたくもなるな
「わかった。でもまだ人も情報も足りない、少し待ってくれよ」
「いつまででも待つわ。その代わり必ず呼んでちょうだい、絶対に損はさせないわ」
クリスの力強い決意に満ちた目を見てイズルは頼もしく思えた
クリスは恩人だ、そんな頼み方しなくたってクラン作るなんてことになったら呼ぶけど
今は気の済むようにさせてあげよう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます