Ver 1.12 脳筋は簡単に止まれない

リタも起き、二人で宿に戻ったがどうしても腸が煮えくり返る思いだ

宿のベッドに二人で並んで座り、事情を説明するとリタも激怒していた


「ほんっとヤな奴だね!許せない!」

「そうだなぁ、どんな顔してるのかちょっと気になるよな」

「見に行く?」

「見れるの?ついでに殴れる?」

「さすが話しが早い」


宿の扉を開け、クリスが入って来た


「ちょっと待ちなさいよ」

「「うわっ」」


目にクマを作り、ピンクのローブに身を包んだ姿でクリスは現れた


「脳筋が二人きりになったらそうなるんじゃないかと思って来てみたら案の定じゃない」

「失敬な、リタはともかく俺は違うだろ」

「え…?」


リタが驚いた顔でイズルを見る


「冒険者証もらえなかったのにダンジョン行くような子が脳筋じゃないわけないでしょ」

「………そっすね」

「ふっ…」


リタはニヤけながら鼻で笑う


「そこまで知ってたんだな」

「アタシの情報網ナメないで欲しいわね。どうせ行くならアタシもいくから一回寝かせて。お願い、お肌が荒れちゃうわ。明日なら場所も教えてあげるから」


リタとイズルは顔を見合わせる


「そっか、クリスも行くなら待つよ」

「そうだね。お金もいっぱいになったしもうちょっと広い宿探しに行こっか」


そうだな、さすがにここは狭い

宿のランクアップしてもいいかもな


「そうするか、じゃあクリス寝ておいでよ。心配かけてごめんね」

「ホントよ。じゃあ寝てくるわ、絶対先走っちゃだめよ」

「「はーい」」


◆ ◆ ◆


リタと一緒に新しい宿を探し、一緒に宿を取った

前回の安宿は10日で銀貨500枚だったが今回は10日で金貨2枚

朝食、夜食もついている

部屋の広さはセミダブルのベッドひとつとテーブル、椅子がある

元の世界で言えばビジネスホテルよりちょっと広いくらいかな


早速リタは俺の部屋へ来て紅茶を淹れる

テーブルにカップをひとつ置き、淹れた紅茶を注ぎ始めた


あ、俺の分は無いのね


「あたし紅茶好きでさ~、部屋に備えてある紅茶って量が少ないじゃん?すぐ飲み切っちゃうよ」


だから俺の部屋の紅茶飲んでるのね

まぁ毎日ここに来てくれるなら呼ぶ手間も省けていいか、好きなだけ飲んでくれ


◆ ◆ ◆


日が落ちる頃、クリスと新しい宿で合流した


クリスはイズルの部屋へ入ると鞄から3人分の黒いフードを取り出した


「さ、あんたたちもこれを羽織りなさい」

「ありがとう。それにしてもよくここがわかったね」

「あんた達目立つのよ。そんなことも知らずに侵入なんてしようとしたらどうなるか…アタシの心配もちょっとは理解してほしいわね」

「えぇ、そんなに目立つことしてないと思うけど…」

「役立たずのはぐれがギルドで暴動起こして変異スライムまで倒したのに目立たないわけないじゃない」


………反論の余地なし


「あはは!魔力無しなのに魔法使っちゃうからねー仕方ない」


必死で模索した結果だからな

女神のやつめ…次会う事があったらひどい目にあわせてやる


まぁ…とりあえず今はドリアルトだ


「ドリアルトはどこにいるんだ?」

「ここからなら1時間ほどかかるわ、この街は広いのよ」

「わかった。もう少し暗くなったら行こう」


◆ ◆ ◆


ドリアルト邸


街の貴族街にある外側の一角に大きな屋敷と巨大な倉庫を持つ屋敷

高い外壁に囲まれた牢獄のような場所がドリアルト邸宅だ

門には夜中なのに警備の人間が立っている


「なんだこりゃ…街の中なのに厳重すぎないか?」

「性格悪いから敵も多いのよ。中には番犬もいるわよ」

「徹底してるな…」


たぶん俺たちのようなことを考えるやつがいっぱいいるんだろうな


「ちなみに侵入したら確実にバレるわよ。護衛に腕のいい魔導士もいるの、周りの建物の屋上まで登って遠視の魔道具で顔見るだけにしてちょうだい」


ここまで厳重だと仕方ないか…直接懲らしめられたらいいが

失敗してバレたらクリスが報復対象になっても困る


「わかった」

「これだけ厳重だと中にも兵隊いるんだろうし…仕方ないねー」


リタとクリスが2人で一番高い建物の屋上へよじ登り

体力のない俺はロープで引き上げられる

ようやく壁越しにドリアルト邸の中を見る事ができた


クリスが遠視の魔道具を目に当てて建物の窓をひとつひとつ確認する


「いたわ、2階の左から三番目の窓に映るジジイがドリアルトよ」


クリスが長い筒状の魔道具をイズルに渡す


元の世界で言う望遠鏡のようなものか、それなら使い方はわかりそうだ

イズルがクリスに言われた場所を魔道具で確認すると丸々と太った50代くらいの白髪男が椅子に座り、若い女を隣に座らせ機嫌よく笑っている


「くっ…俺たちの手柄をかすめ取っておいて楽しんでやがる…」

「イズル、あたしも見たい」


リタに魔道具を渡し、ドリアルトを確認すると険しい顔でイズルを見る


「なんか腹立ってきた」

「このまま帰るのも癪だな…」


クリスが驚いた顔でイズルを見る


「ちょっと…」

「追跡、魔力矢x10……展開」

「ちょっとぉぉぉぉぉ!!」


リタが空高く打ち上げられた魔力矢を見上げて言う


「いってらっしゃーい」


直列に並んだ魔力矢の術式に束ねられた魔力矢が空高く打ち上げられると、追跡を始め一直線にドリアルトのところへ向かっていく


魔力矢は屋敷の外壁を超えることなく大きな波紋が遮り、魔力矢は消えてしまった


「何やってんのよ!腕のいい魔導士がいるって言ったでしょ!打ち消されたわ、早く離れるわよ!」

「ぐぬぬぬぬ…」

「早くしなさい!!」


クリスに引っ張られ、急いで宿に戻った


イズルの部屋でフードを脱ぐとクリスがテーブルに座る


「はぁ…惜しかったわね」

「あれ?怒られるかと思ってた」

「あのまま当たって永遠に眠っててほしかったわ」


クリスも悔しいんだもんな

しかし思っていたよりずっと厳重だった

警備の厳重さにかまけてずいぶん横暴を通しているんだな


「でもこれでわかったでしょ。力が必要なのよ」

「そうだな…」

「あれじゃ正攻法は難しいねー」


3人でしょんぼりしながら現実を噛み締めた

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