Ver 2.28 屠龍隊とギルリと名乗る竜

焦るマキを見て見かねたビアスが割って入る


「落ち着いてくれ、僕たちも屠龍隊と会うのは初めてなんだ。前の屠龍隊がどうなったのかは街の人間でさえ姿も見ていない」

「どういうこと…?竜はこの世界の悪じゃないの?倒したのに誰も知らないなんておかしくない?」


確かに怪しい

捕えているのではないかと思ったけど強大な力を持つ彼らをどこに捕えるのだろうか

竜魔力を封じる特殊な力でもあるんだろうか

最悪…もうこの世にいないかもしれない


マキは立ち上がり、ビアスにつかみかかる


「黙ってないでなんか言ってよ!その人たちどうなったの??」

「すまない、わからないんだ。本当に」

「そう…ですか…ごめんなさい」


マキはうつむき、静かに席に戻った


ちょっと邪推しすぎたかな

帰れる方法が本当にあるかもしれない

呼び出すことができたくらいだ


「まぁ帰っていないと決まったわけでもない。俺たちでも調べてみるよ、気を落とさないで」

「そう…ですよね…お母さん心配してるだろうな」


彼女たちは俺と違って全員未成年だ

高校生くらいだろうか

不安になるのも仕方ない


「ビアス、女神教についてどこまで調べられる?」

「帰ったらトールに聞け。僕は判断はするが集めるのは他の者たちにやらせる」


その方がよさそうだ


「わかった。まずは竜をどうにかするか」

「そうだな」


◆ ◆ ◆


砂の海


飛空艇で10日かけてたどり着いた


砂の海は開放型のダンジョンで広大な砂漠が広がる場所だった

遮るものは何もなく、地平線が見えるほどの広さ

砂を水のように泳ぐ魔物たちが生息している

魚型の魔物が多い


ダンジョンの上空に着くとビアスが語り掛けてきた


「ここにある竜の足跡については情報がない。そもそもあるのだろうか」

「確かに砂しかないしな…ちょっと上空を飛んで見て回るか」

「そうしよう」


道中はマリンに竜脈を展開してもらい、気候条件を緩和してもらいながら広大な砂漠を上空から眺め続けた


砂漠の中央らしき場所に大きな石板があり、竜の足跡を発見

ヤモリ?か何かのような大きな爬虫類の足跡だった

5本の指に指先が丸く膨らんでいる


「降りよう、前回と同じならこの周辺の魔物の魔石を捧げれば出てくるはずだ」


飛空艇の高度を落とし、浮遊の術式でみんなに降りてもらった

降りるや否や周りの魔物たちが反応し、周りをぐるぐると囲むように砂を泳ぐ


魚って事は音とかにも弱いのかな?ダイナマイト漁みたいな事ができるだろうか


「皆ちょっと下がっててくれ、爆発で砂上に引きずり出せないか試してみる」


イズルが指示すると全員が距離を取る


「収束、増幅、爆破x6…合成術式の簡易版だ、皆耳を塞げ!」


大きな音と共に砂が跳ね上がる

さらに砂に波紋のような波が起こり広がっていくと次々と魚たちが砂上に跳ねあがってきた

ムラクモがすかさず魔物たちを仕留めていく


ムラクモが仕留めた魔物の魔石を取り出し、足跡に並べていくとファウルの時と同じく魔石が光を失った


ビアスが皆に注意を促す


「離れろ!竜が出るぞ」


足跡から離れ、皆固まって移動を開始すると巨大な石板が割れ

渦潮のように砂が飲み込まれていく


大きな口が渦潮の中央から現れるとオオサンショウウオのような形をした竜が砂の中から姿を現した

大きさはファウルほどではないが飛空艇よりもはるかに大きい

家でさえ丸呑みにしてしまえるほど巨大だった


竜はファウルと同様一直線にゲルマニアに頭を向け進み始める


ビアスが剣を構える


「逃がすか!シルフェ!」


巨大な竜巻が巻き起こり、竜の進行を阻害する

竜は上半身を無理やり起こされ、ひっくり返ると


砂に潜り、竜巻の中央から飛び出し風が消えていく

竜はイズル達に頭を向け、語り始めた


『我が名はギルリ、罪を浄化する竜だ』


ファウルも似たような事を言っていたな

会話は可能なのか?


「俺たちは竜を殺しに来た。お前は何のために街を目指す」


『罪を裁かねばならん。主は人の貪欲を裁くために我を作った』


作った?


イズルとビアスは顔を見合わせた


ビアスが竜に語り掛ける


「貪欲とはどういう意味だ!?なぜ人が裁かれねばならん」


『お前らも裁かねばならん。邪魔をするな』


ギルリは口を大きく開け、砂が集まっていく


「くっ…ブレスだ」

「マリン!」

「うん!」


ビアスが警告するとケイスケがマリンに合図をし、マリンが竜脈を広く展開していく


「竜鱗!」


巨大なうろこ状の壁が現れ、ギルリのブレスを受け止める

ブレスは砂を高速で飛ばし、周りで死んでいる魔物たちに無数の小さな穴をあけていった


凄まじい威力だな…食らえばあっという間にハチの巣だ


「竜剣!」

「竜鱗剥奪!」


屠龍隊の連携が決まり、ギルリはブレスの途中で巨大な光の剣により真っ二つに分断された


「やった!」


マキが喜び、釣られるように屠龍隊が集まっていく


「やった!倒せたよ!」

「やったな!帰れる!」

「うん!うん!」

「俺帰ったらドラマ見たい」

「あたしも!何見てるの?」


こうしてみていると本当にただの高校生だ

帰れるのかどうかはわからないが、今は女神教を信じるしかない

無事帰れるといいんだが


◆ ◆ ◆


屠龍隊の活躍により竜ギルリは討伐され、飛空艇に積めるだけ素材を収納し帰路についた


ギルリは主が作ったと言っていた

誰が作ったのだろうか

罪とはなんだろうか

貪欲…ファンタジー的なキーワードであれば人の七つの大罪のうちのひとつだ


飛空艇がクランハウスに到着すると女神教の使いがやってきて屠龍隊を連れて帰った


「トール」

「はい、ここに」


イズルがトールを呼ぶとどこからともなくトールは現れた


「驚いた、いつからそこに?」

「飛空艇が見えた時からここにおりました」


トールと呼べば現れる、召喚魔法だったりするのだろうか


「そっか…女神教の動向を探ってくれ。彼女たちが無事帰れたかどうか知りたい」

「承知致しました。すぐに取り掛かりましょう」


トールはカルラに素材の収納を任せ、足早に去っていく

ビアスがイズルに語り掛ける


「今回は僕たちほとんど何もしてないな。屠龍隊とは名ばかりではなかったか」

「はぐれだったのも衝撃だ。意図的に呼びだせるとはな」

「そうだな…だが見たところ成人はしているようだが…あまりにも幼い」


それは文化の違いですね

日本の成人は20歳です、異世界ファンタジーは成人が早いからな


「元の世界では成人は20歳なんだよ、彼らも同じ世界から来てるからきっとそうだろう」

「なるほどな…呼ぶ方法があるのだ、彼らが帰れることを祈ろう」

「そうだね、うまく行くといいけど」


ビアスが飛空艇に視線を移し、イズルを見た


「素材は全てお前たちが貰え、飛空艇なしでは成しえない成果だった」

「いいのか?」

「僕はお金に困ってはいない、それに飛空艇を作るなら竜の素材はまだ使うんだろ?」


たしかに

ちょっと今回のは質が違うが


「わかった。次のはビアスに贈る船に使うよ」

「そうか…楽しみにしておく。ではな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る