Ver 2.27 屠龍隊の正体

飛空艇のお披露目から1ヵ月ほど経った

以前ゴットゥムのサロンで会ったヴィアーノがクランハウスに訪れる


ヴィアーノ=ルフリアン、女神教の大神官だ

クランハウスの応接室へ通し、話を聞く事になった


「お久しぶりですな、イズル殿」

「ご無沙汰しております、ヴィアーノ殿」


ヴィアーノは大神官らしく荘厳な顔つきでイズルに語り掛ける


「この度屠龍隊の組成が決定されました。行き先ははるか南に位置する原初のダンジョン、砂の海でございます。先日拝見した飛空艇なるものの性能であれば旅に不慣れな屠龍隊を安全に護衛できましょう、お力添えを頂きたく本日は参上いたしました」


とうとう来たな

飛空艇をお披露目した日からいつかこうなることは予想できていた


「以前ムフリッツ家のサロンでそんなお話をしておりましたね。ご協力しましょう」

「おお、助かります。ダンジョンは世界を滅ぼした元凶、共に世界を救いましょう」


ヴィアーノは首に下げた女神像を両手で握りしめ、天に向かって拳を突き出し祈る


そういえばあの女神、ルトラは魔女と言っていたな

いい機会だから聞いてみよう


「その、失礼かもしれませんが。俺はこの世界に疎く…女神について教えて頂けませんか?」


ヴィアーノは祈りを中断し、微笑みながらイズルに語り掛ける


「もちろんです。布教も大神官の務め、ご説明いたします」


女神教とは2,000年前、竜を殺した聖女を崇め称えるために興された信仰だった


聖女は竜を殺した後、竜の血を浴び神の力に目覚め女神となり

この世界に多大なる恩恵と平和をもたらしたそうだ

それから数百年経ち、ダンジョンが現れ世界中の国が魔物たちに食われていく中新たな聖女の再来を願って女神教が発足した


大昔から伝わる方法で儀式を執り行い、祈りを捧げると竜を殺す者たちが現れる

屠龍隊はそうやって呼び出された者たちで組成されているそうだ


「女神教はこの世界に救いを求め、祈る者たちの集団です。ご興味が湧きましたら是非神殿へお越しください」


ヴィアーノは説明を終え、神殿の規則や教義が書かれた羊皮紙を俺に渡すと帰って行った


「結局何が魔女なのかわからなかったな…世界の救いを求める集団か」


イズルは羊皮紙を眺めながら考えた


女神教の魔女についてはわからなかったが、屠龍隊と接触できるのはいい機会だな

竜の討伐に行くならビアスも連れて行こう

あいつの巨大な力はきっと役に立つ


◆ ◆ ◆


ヴィアーノが訪れてから1週間経ち、屠龍隊がクランハウスに到着した


女神教の使いの者たちと一緒に現れ、引き渡された


「イズル様、こちらが屠龍隊の者たちです。護衛をよろしくお願いいたします」

「わかった。早速出発する、飛空艇に乗ってくれ」


屠龍隊の者たちは皆一様にフードを深く被り、頷いて飛空艇に乗り込んだ


船を浮かせ、クランの人たちに見送られながら砂の海を目指す


今回のメンバーは以下

イズル、リタ、ムラクモ

ビアス、グングニルの魔導士4人


屠龍隊の者たちは以下======================

名前:マキ イズミ (泉 真紀)

スキル:竜剣 竜の鱗をものともしない巨大な剣を作り出す


名前:ミコト ガヅマ (我妻 美琴)

スキル:竜鱗剥奪 竜鱗を無力化する


名前:ケイスケ ナカムラ (中村 啓介)

スキル:竜鱗 巨大な障壁を作ることができる


名前:マリン クリハラ (栗原 真論)

スキル:龍脈 あらゆる状態異常への耐性を獲得し竜魔力を生産する

========================================


自己紹介が終わり、それぞれと話した


注目すべきは全ての屠龍隊が竜魔力を利用するスキルを使える事だ

ルトラの言っていたことは正しかった

竜鱗を無効化するスキルまである

さらに彼らは全て日本人、強制召喚されたのに日本人だけで構成されているのも不思議だ


「マリン、もしかして君のスキルは常時発動できる?」

「え?あ、はい」


マキが話しに入って来た


「あたしたちはスキルを一日一回しか使えないんだけど、マリンがいれば何度でも使えるの。戦闘ではマリンとケイスケを優先して守って欲しい」


やっぱりな、竜魔石に刻んであった効果とほぼ同じだ

マリンが竜魔力を生成して他のメンバーはそれらを利用して戦っているという事か


「そうなんだ、戦闘になったらそうさせてもらうよ」

「お願い」


マキはスキルからしておそらくアタッカーだろう

矢面に立つことになるためか表情が暗い


「もしかしてだけど、いやもしかしなくても君たち日本人だろ?」

「「「「え?」」」」


屠龍隊の全員が反応した


「どうしてわかるの?」


マキが興味深そうに聞いてくる


「俺もそうだからだよ。君たちとは違う方法でここに呼ばれたんだ」

「ほんとに!?ねぇ、帰る方法知ってる?」


俺は寝落ちで死んだらしいからな…気にしたこともなかった


「あー…残念ながら…俺はここに呼ばれたとき元の体は死んだらしい」

「あぁ…そうなんだ…ごめん」

「いや、いいよ。俺こそ力になれなくてすまん」

「ううん、女神教って言ってる人たちからは竜を倒せば戻してやるって言われてるんだけど…正直急に呼ばれて竜と戦えなんて無茶だよ。剣さえ握ったことなかったのに」


そりゃそうだな

訓練とかしたんだろうか


「訓練とかはしたの?」

「1週間くらい…ほんとは20人くらい呼ばれてさ、クラス丸ごと転移したみたいな。よくあるラノベの転移モノだと思ってたんだけど…」


そうだな、俺もそう思った

ルトラのせいで最初は地獄みたけどな

今やいい思い出だ


「今いる4人以外はどこいったかわからないんだ」


それは…どういうことだ


「いついなくなったんだ?」

「2日目からはあたしたちしかいなかった」


ケイスケが話しに入る


「帰ったと思う?」


マキが諦めたような顔でケイスケに返答する


「どうだろ…なら行方を聞いても教えてくれないのおかしくない?」


怪しさ満点だな

20人もいて4人しか残らなかったのもおかしい

他の人たちはどこ行ったんだろうか

そもそもヴィアーノは屠龍隊を犯罪者たちのように扱っていた

とてもそうは見えない


「なぁ、君たちがファウルを倒したんだろ?」

「ファウル?」


マキは不思議そうにイズルを見る


「山のように大きい亀だよ」

「知らない、あたし達が来たのは2週間くらい前だよ」


イズルはビアスに視線を送った

ビアスは静かに首を振る


余計な事は言わないほうがいいな

前の屠龍隊じゃないとしたら前任者たちはどこへ行ったんだ

この子たちの話しぶりだと帰る方法が明確になっていないぞ

ヴィアーノは犯罪者のように扱っていた

もしかしていう事を聞かないから捕えているのか?


「そうか、知らないならいいよ」

「ちょっと待ってよ。あたし達の前にも竜を殺した人たちがいたって事でしょ?その人たちどうなったの??」


勘づかれてしまった

やはり俺は嘘が下手だ

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