Ver 2.29 聖女の歴史と呪物

一週間も経つとトールが屠龍隊の行方について報告してきた


ケラウノス 執務室


執務室で雑多な書類を片付けているとトールが入ってくる


「イズル様、屠龍隊の行方について報告がございます」

「教えてくれ」

「はい、結論から言うと消えました」

「帰ったのか?」

「わかりません。帰る方法も不明ですが帰ったという動きもないそうです」


神殿の中にある鏡から出るとかそういうのでも無い限り静かに出るなんて事はできないだろうな

そもそも召喚するときはどうなったんだ?


「召喚するときは動きはあるのか?」

「はい、大神官が集まり見た事もない魔法陣に向かって祈りを捧げるそうです。女神教の祈りは女神教を抱き行われますが、その時ばかりは違う何かを抱いていたと報告されておりますな」


トールは羊皮紙をイズルの前に差し出した


「そちらが報告内容です、かいつまんで申し上げますと___」


トールの話しでは屠龍隊は神殿ではなく、ルフリアン家の屋敷に案内されたそうだ

その後小さな宴が開かれ、前回同様今回も何か口論のようなものを行っていた

屠龍隊が大司祭を問い詰める姿が目撃されている

その後、屠龍隊は各々の部屋へ帰り、翌日から一切部屋から出ていない

外から窓を覗く限り部屋にも姿がない

ルフリアン家の者を買収し話しを聞く限り帰る方法は存在しない


「___以上となります」


ルフリアン家の者は買収が可能なのか

女神教の信徒ではないのか?


「買収が可能なのか?大神官なら妄信的な信者で囲ってたりするものかと思っていたが」

「神殿ではそのようになっておりますな、ですがルフリアン含めグラウゼン、ハーメルンという3人の大神官は昔タイフーンによって滅びた国より亡命してきた王族の末裔です」


屋敷にいる人間は信徒ではないという事か?


「亡命の際、女神教に恭順を約束しているので表向きは女神教信者でございますが、家に帰れば女神を特に信仰するような素振りはないそうです」


形だけの信徒という事か、それなら買収もできそうだな


イズルは腕を組み、天井を仰ぎ見る


「トールの私見でいいんだけど。屠龍隊の者たちはどうなったと思う?」


イズルが視線をトールに戻すと、腕を組んで考えを整理している


「口論の痕跡を聞く限り帰る方法は無い可能性が濃厚です。前回も同様の口論を行っているならば今回も同様になるのは予想できることです。返す方法があるなら早々に返すべきでしょう。部屋に帰ったという報告がありながら姿を見ないという事は既に存在しない可能性の方が高いでしょうな」

「それらしき痕跡はあるか?」

「神殿が処理している死体の数など調査しておりますが成果はあがっておりません」


つまり行方不明か、帰ったのか死んだのかはわからないままだな


「召喚をやめさせる方法はあるか?」

「現状判明しておりません。ですが気になる事はございます」

「教えてくれ」

「ルフリアン家を調べていたのですが、どうやら竜を殺した聖女と関りがあるようです」


元王族と聖女か、重要そうだな


「何があったんだ?」

「順を追って説明いたします。まず竜を殺した聖女の事ですが___」


ある女は竜を殺す際、各国と約束を交わし竜を殺すに足る力を得た

強大な力を得る代わりに女の力をいつでも抑制できるよう呪物の呪いを受ける

竜が死んだあと、女は神となった

女の力を恐れた各国は呪物を使い女の力を吸い上げ、無力化した


「___という内容が記された文献が残っておりました」


神の力を吸い上げる呪物か


「これは完全に私の推論ではございますが…おそらくこの呪物をルフリアン家などの元王族が所有している可能性が高いですな。そして神の力にも等しき異界からの召喚の儀式、女神の力を吸い上げる呪物の力を利用していると考える事が可能ではないでしょうか?」

「飛躍している気がするけど…かといって全否定できるわけでもないな」


かなりこの世界の謎に近づいた気がする

そろそろビアスに贈る船も完成するしルトラを呼んで聞いてみるか


「わかった。その呪物については引き続き調べてほしい、手に入れる方法があればなおよい」

「承知いたしました」


◆ ◆ ◆


ケラウノス 盟主の館 イズルの自室


”チリーン”


イズルはいつものように自室のテーブルに座って女神を呼ぶ

ルトラはどこからともなく現れ、イズルの座るテーブルに着いた


「お困りかしら?迷える子羊よ」

「いくつか質問したいことがある」

「なに?」

「貪欲の罪を浄化する竜が主に作られたと言っていたんだが」


ルトラは小さく頷き、答えた


「その通りよ」


多くを語らないという事は…これも世界の根幹に関わるってやつか


「次に、聖女が呪物に呪われているという情報を得たんだ」

「なるほど、それも正しいわ。竜は呪物によって作られているのよ」


情報が増えたな

つまり呪物が竜を作っていて、呪物は聖女の力を吸い上げている


「竜の主とは聖女の事か」

「そうよ」


なぜルトラは聖女を魔女と呼ぶのだろうか?


「なぜルトラは魔女と呼ぶんだ?」

「職業よ、大昔女の魔導士は魔女と呼ばれていたの」


そういう事か、それほど大きな意味を持つ話しじゃなかったな


ルトラは腕を組んで考える


「そこまで知ってるのならそろそろこの世界を救う正しい方法を教えるわ」

「わかった」

「竜を殺してダンジョンを閉じた後、呪物を集めなさい。呪いを解呪しないとまたダンジョンが生成されるわよ」


なるほど…呪物がダンジョンを作っているのだから当然か

屠龍隊の事も聞いてみよう


「わかった。最後の質問だが屠龍隊と呼ばれる者たちを召喚しているのは呪物の力か?」

「そこまではわからないわ。でも本来神にしか行使しえない異界との通行を可能にするのは神に等しい力を蓄えた呪物の力を利用していると考えてもいいわね」


ルトラでもわからない事か、俺を介してしか介入できないなら知るはずもないか


「じゃあ、召喚された屠龍隊が竜のスキルを身に着けていたんだが…これはわかるか?」


ルトラはうつむいた


「それは…たぶん…竜の魔力に触れているからよ。神にも等しい力、呪物に蓄えられているのは竜の魔力なの」


ん??って事は…


「聖女は竜になったのか?神になったんじゃないのか?」

「女神教が信仰を得やすいように事実を自分たちに都合のいい形で伝えてるんでしょ、魔女は竜の血を浴び、不死となり、竜の魔力を身に着けたわ」


不死…?


「まだ生きてるのか??」

「生きてるわ」


女神だから知って当然だと思っていたが…ルトラは遣わした人間を介してしか介入できないと言っていたな

なぜこんなに詳しいんだ


「もしかして…その魔女はルトラが…?」

「………」


ルトラは黙り込み、テーブルの隅をじっと見つめている


「この先は呪物を集めたらすぐにわかるわ。一応…この世界も私の管轄だから救える事なら救いたいの。あんたをひどい目に合わせたのは謝るわ」


ルトラは目を閉じ、深々と頭を下げる


「ここまで来たならこの世界を救うのに協力して欲しい」


手のひら返しとはこの事だが…既に竜を2匹も倒したんだ

救える事なら救いたい


「わかった、できる範囲で」

「ありがとう」

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