女神に捨てられた脳筋プログラマーの異世界転生記

どーん

Version 1 - ヴァルケンヘクセ

Ver 1.00 異世界デスマ

朝の木漏れ日、光る石が並ぶ木製の机

何度も書かれては荒っぽく消されたような跡の残るレンガ製の壁


木製の椅子に座る男は目にクマを作って眠そうな目を擦りながら壁に書きなぐられた未完成の魔法陣を眺めている


「イズルちゃ~ん、進捗いかが~?」


違和感のある女性の声を聞き、イズルと呼ばれた男は声のする方へ顔を向けると魔道具屋の主人がネグリジェ姿で男を見ていた

主人の名前はクリス、オカマだ

逞しく鍛え上げられた逆三角形の厚い胸板を持つ男

男を拾ってくれた恩人でもある


「あら、熱心ね。試作品の納品は明日よ、完成しそうかしら?」


問われた男は無表情なままチョークを片手に壁の術式を書き続ける


「目途は立ってる。あとは術式の出力調整がうまくいけば…」


男の返事を聞いたクリスは黙って二度ほど頷くと朝食の準備をするため厨房へ向かっていった


異世界へ転生してから約半年


元の世界でプログラマーだった俺は…

異世界に転生してもデスマーチを味わっている

今書いている未完成の魔法陣を作るために何か月もかけていて、納期が近くなりもう2週間近くまとまった睡眠を取っていない


俺の名前は環津 出流(わついずる)

この世界では『イズル』と呼ばれている


元の世界では40歳プログラマー、フリーランス

幼い頃からゲームが好きでゲーム制作によく携わっていた

当然プレイもする、徹夜してプレイしてたら寝落ちして死んだらしい

それからなぜか超が付くほど不機嫌な女神を名乗る女にこの中世の名残ある世界へ転生させられたのだが…


「イズルちゃ~ん。朝ごはんにしましょ、熱心なのはいいけど栄養も大事よ」


さすがに腹が減った、事の経緯は後ほど


クリスに呼ばれるまま厨房へ向かうとクリスがネグリジェのままパンとスープ、ベーコンとバターを食卓へ並べている姿を目にした


いつ見ても悪い意味で目に毒だ

肉体は美しいが心が乙女であるためどこを見ていいのか困る

ちょっとでも見つめようものならあっという間にすり寄ってくる

さすがに半年近く一緒に居れば扱いにも慣れたけれど

元の世界でいろんな人と話をしたがオカマと一緒に暮らしたのは初めてだ

最初は毎晩ケツを引き締めて寝たのを思い出す


イズルは席に座り、目を閉じて『いただきます』と両手を合わせパンをむしる


クリスもパンをむしり、スープに浸す


「イズルちゃん。何度も聞いて申し訳ないんだけれど、いつ頃完成するのかしら?」

「昼くらいには試作一号が完成すると思う。ただ…」

「ただ…?」


クリスはドキドキしながらイズルが口を開くのを待つ


「魔石の予備が足りないかな、あと3つほど狼から取れる程度のものが欲しいんだけど」


クリスは眉を寄せ、斜め上を見る


「ちょっと…困ったわね。ちょうど昨日の夜在庫を全部買ってったお客様がいて在庫が無いわ。急いで冒険者ギルドに依頼出すけど…きっと手に入ったとしても夜になるんじゃないかしら」


一発で成功すればいいが失敗した場合夜まで待ちか

必ず受諾され達成されるとも限らない

それだと明日に間に合わない可能性があるな


「じゃあ、俺がダンジョンで仕入れて来るよ」

「え?イズルちゃん戦えるの?」


イズルはポケットから3つほど魔石を取り出し、テーブルに並べた


「攻撃魔法の術式をいくつか組み込んだ魔石をずっと前に作ったんだ。これがあれば狼くらいなら」

「あら、ずっと前にお給料で買ったやつね。でも本当に大丈夫?」

「試験と調整は済んでる。近寄りさえしなければきっと大丈夫…なはず」

「そう…お手伝いしてあげたいけどアタシはお店留守にするわけには行かないし…ごめんね。こんな時に」

「今日を逃せば明日に間に合わないし、仕方ないよ」

「そう…ね…」

「研究費がずいぶんかかってるし、成功させたいから」

「わかったわ。本当にありがとう、でも絶対に無理しないでね」


クリスは目を閉じイズルに礼をする


実際このプロジェクトのためにクリスはイズルの研究にかなりの資金を投じていた

たまたまイズルの研究に興味を示した豪商がスポンサーとなったのだが明日、試作品をお披露目できなければ店ごと没収になってしまう事態になってしまっている


この世界に来て路頭に迷っていた俺を拾ってくれたクリスに恩を感じないわけがない

これは何としても成功させて恩に報いたかった


「行ってきます」


食事を済ませ、旅支度をして魔道具屋を出るとそこは大通り

冒険者ギルドや宿、武器、防具屋が並び冒険者たちがひっきりなしに歩く街の中心街

クリスが経営する魔道具屋もその一角に並ぶ

『冒険者になったらまずはコレ!』とファンシーな看板に書かれ

見た目以上にモノが入る魔力鞄が売れ筋の人気店だ


「今から行けば昼過ぎくらいには帰ってこれるかな」


眠い目を擦りながら街の門へ向かって歩を進めた

イズルは事情があり冒険者にはなれない

冒険者ギルドに目もくれず門番には薬草を取りに行くと嘘をついて街を出る


この世界はダンジョンから溢れる魔物に全ての街が滅ぼされており

今やゲルマニアというクリスが住んでいる街が人類最後の街となっている


人口はおよそ10万人を超える都市だが滅ぼされた国から逃れた人が集まっているのでそうなっているに過ぎない

今やダンジョンはこの世界に15か所、最初は7つだったらしいが勝手に増えるらしい

そのうち10か所はもはや手付かずで定期的に溢れた魔物が街を襲ってくる

世界中から集まった街の人間達により今のところ守られているがいつどうなるかは誰にもわからない状態だ


俺は不機嫌な女神にこの終わりゆく世界へ捨てるように投げ出された


◆ ◆ ◆


あとがき


最初からホモのネグリジェ姿を想像させるシーンで申し訳ありません

世界のあれこれを設定し、濃いキャラを…登場させなきゃ!という使命感の元に生まれました

初回から登場する予定はなかったのですがいろいろ書き直しているうちにこうなりました

なぜ初回からホモになったのか、私にもわからない

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