Ver 1.01 女神の不機嫌な理由

俺はゲームのし過ぎで寝落ちするクセがついていた

女神との出会いはよくあるラノベ転生だ


真っ白な空間に投げ出され、呆然と座り込んでいると露出の多い女がどこからともなく現れた


「はぁ?なんであんたいるのよ」


これがよくあるラノベ転生か?俺は勇者になるんだろうか?

そも、なんでこいつこんなに不機嫌なのか


勢いの強い女は正直苦手だ

しかも肉食系というかなんというかイケイケの美人が強い態度を取るとなんとなく、こう反論しにくい

何言っても超理論で押し切られるような気がする


俺は目を伏せて返事をした


「いや、なんでですかね…」

「ったく、ちょっと待ってなさい。えーと…」


女は俺の顔をじっと見つめて微動だにしない

数秒間その状態が続くと女は口を開いた


「あー、寝落ち?で死んだみたいよあなた」


仕事でデスマーチしてたけど長年やってたMMORPGのギルド長として仕事してたのまでは覚えてる、それだけやって寝ようと思ってたけど寝落ちした挙句死んだのか

まぁ、忙しかったし何度も鼻血出てたし心当たりは無くはない


「えー…ギルメン怒ってるだろうな」

「怒ってんのは私の方よ!なんなのあんたなんでここにいるのよ!」


めんどくさい女だ、うるさいしなんで現れるなりヒスってんだよ

俺がそんなの知るわけないだろ

だいたい勝手にここへ連れてこられて怒りたいのは俺の方だっての


「わかんねーよどうしろっての」

「はぁ…あんたも結局ちょっと前に送ってやった勇者候補と一緒でしょ!?チートスキル寄越せだのハーレムだの女神に向かって堕落を堂々と口にするのは何なの?あげく?私が美しいから?仕方ないけども。俺の女にならないかって!!?ゴミ共が調子に乗り過ぎでしょ地獄に落ちろ」


くっそ…

前のやつがナメた態度取ってたのかよ

俺完全にとばっちりだろ

どうにかしてなだめたいところだ

口ぶりからするとどうやらこいつが転生を司る女神で間違いないみたいだし


よし、ここは数々のプロジェクトで失態を帳消しにした俺の土下座スキルで…!!


「ほんとですよねー!こんなに美しい女神に恐れ多くも人間ごときがちょっかいかけるなんてとんでもないですよー!俺がそいつらの分まで土下座します!!」


俺は渾身の土下座をし、大きな声で申し訳ありませんと唱えた


ふ、これだけ大げさに謝れば多少は溜飲が下がる

どうだ?そこまで言うならと言いたくなっただろう

ニュースでも大物政治家がやってるようなチンケなものじゃない迫真の演技だ


俺は眉を寄せ、今にも涙を流しそうな表情を作り、唇を上向きに寄せて顔を上げた


「女神にそんな小細工通じるかボケー!」


女神のローキックが俺の顔を捕え

俺は顔をしならせて叩きつけられた


まぁ実際土下座ごときで許されねーんだけどな

土下座は会話を始めるための儀式でしかない

代案出して遅れを取り戻すプランを出すとかこれを残してこれを諦めましょうとかってトレードオフするんだけど

そもそも同じプロジェクトに携わってて成功させようってお互いの意思がないと取引なんてできないですよね、土下座するだけ無駄だったわ


女神が怒りに満ちた足音を鳴らしながら近づいてくる

俺は慌てて飛び起き抗議した


「ちょ!まって!!お怒りはごもっともだけど俺関係ないじゃん!」

「知ってる、これは八つ当たりよ」


女神はふんぞり返り腕を組んで俺を見下しながら言い放つ


ふざけんな!なんで俺にするんだよ

前のやつにやってこい


「いやいやいやいや、お前女神だろもうちょっとこう品位…」

「やかましい!なんで仕事とはいえ私があんなやつらのサポートしなきゃいけないのよ!」


あー、仕事なんだ

しかも切れないのか

そりゃめんどくさいな、合わない人間と仕事しないといけないストレスは半端ないもんな


「気持はわからんでもないがそれを俺に八つ当たりするのは違うだろ…上司に文句言えよ」

「うるっさいわね、神界は序列があって上の階位の者に逆らっちゃいけないのよ」


うーわブラック

元の世界のデスマの方がよっぽどマシかもしれんな

いや似たようなもんか、元の世界でもそんなやつはいるし


「えー?まぁ大変だねそれ、ビール飲む?あるか知らんけど」

「あら?付き合ってくれるの、優しいわね。なんて言うか!女神がそんなチョロいわけねーだろ!」


くっそダルい

これはあれか、言いたいだけ言わせてやればいいかと思ったが違うのか

もうめんどくさいからはよ転送してくれ


「んで俺も異世界行くの?スキルとか選べるんならうれしいんだけど」

「そうね!送るのが仕事ですから!スキルは…そうね、見て驚け」


女神は自分の背中に手を回し、どこからともなく出したプラカードを目の前に出す


”スキル なし”


「ハァァァア!?横暴だろ!お前上司に言いつけるぞ!!見知らぬ世界で何の力にも頼らず生きていけってのかよ!!」


慌てふためく俺を見て女神は小気味よさそうに笑う


「ふっ…ちょっと気分がいいわ」


最悪だなこいつ、なんで女神なんかやってんだ

完全に人選ミスだろ


「じゃ、次は魔力について」

「魔法があるのか?スキルが無くても魔法があればまぁ」


女神はプラカードを裏返す


”魔力 なし”


「ざっけんな!俺は断固抗議するぞ!お前じゃ話しにならん!上の者を呼べ!」


顔を赤くして怒り狂う俺を見て女神は邪悪な笑みを浮かべる


「ぷっ…ダッサ」


こいつぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!絶対許さん


「まぁまぁ、まだ体力が残ってるわよ」

「せめてそこだけはどうにかしてくれマジで!頼む!!!」


女神はプラカードをまた裏返す


”体力 モブ”


「もうやだぁぁぁぁぁぁぁ誰かこいつ解雇してぇぇぇぇぇ」


俺は体を投げ出し大の字になって寝転び叫んだ


「あっは!ちょっとすっきりしたわ。貴方にはこの世界に送ってあげる」

「世界?そうか俺でも生きていける世界ならいいが…」


俺は飛び起き、両手を合わせ女神を拝む

女神はプラカードを捨て、右手を宙に掲げると地球のような丸い惑星が映し出される


「行先は片道切符!終わりゆく世界ヴァルケンヘクセ。時代は地球で言う中世ってとこね。この世界はもうすぐ魔物が全ての人を喰いつくす世界よ、がんばって~」


女神は手をひらひらとさせながら笑顔で俺を見る


「は?…ちょまてぇぇぇ!待ってぇぇぇ!!」


床が抜けるように俺の体が落ちて行く

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