Ver 2.24 依頼主は誰だ?
翌日 ケラウノス 執務室
トールに呼ばれ、執務室のソファで今後の対策について聞かれた
「イズル様、当面の脅威は去りましたが今後護衛が必要になりますな」
「あぁ…昨日逃がした奴もいるんだけど、また来たりしないかな」
「撃退した者たちはもう来ないでしょう、新たに依頼されれば話しは別ですが。決して安くはないのでそう何度も仕掛けてはきますまい」
そうか、ならいいんだが
「護衛とは具体的にどうすればいい?」
「ギルドの人員も多くなってまいりましたのでクラン内に依頼を出しましょう。人数とランクを限定し、侵入者が受けてしまうリスクを減らしつつ」
「なるほど…その辺はトールの方が知識ありそうだし任せる」
「承知しました」
そうなると今度は依頼主が気になってくるな
イズルは腕を組んで考える
トールが気を利かせて話し出した
「依頼主はおそらく、ドリアルトではないでしょうか」
またあいつか…だがあいつならやりかねない
「どうしてそう思う?」
「カルラが商団を指揮して鉱石、貴金属を取り出しておりますので、手に入らなくなり邪魔になったと思われます」
たしかにな…この事業が成功すれば大打撃を受けるのが目に見えている
どうにかして止めたくなるのもわかる
「ちょっと行き過ぎてるな、どうしたらいいと思う?」
「悪名高く、貴族とのつながりも多いドリアルトなら暗殺も視野に入るのでしょうが我々は同じ手段を取れません。一刻も早く事業を成功させ経済的な打撃を与えるのがよいかと」
あちらは直接的な手段に出るというのに俺たちが何もできないのは気に入らないが
同じことをすればドリアルトと同じ人種になってしまう
それは嫌だな
「わかった。当面は護衛を増やして対応しよう、だがこのままでは終われない。ドリアルトの扱っている商品の流通は全て奪ってやろう」
「そうですな、それくらいしたほうがよいでしょう。早速手を打っておきます。イズル様はカルラを慰めてやってください」
イズルが頷くとトールは席を立ち、部屋を出ていった
◆ ◆ ◆
カルラの部屋
コンコン
「カルラ、起きているか?」
「はい、お入りください」
カルラの部屋に入ると既にリタが居り、紅茶を注いでいた
「リタも来てたか」
「そりゃね、同じイズルの奥さんだもの」
「…気を使わせてしまって申し訳ありません」
カルラは頭を下げ、うつむいた
「気にしないでくれ、それより大丈夫か?」
「刺客ですか?もちろんです!きっとドリアルトの手先でしょう、あいつには窓の修理費も含めてたっぷり請求してやります!」
意外と大丈夫そうだな
「そうか、あんなことがあったんだ。落ち込んでるんじゃないかと思ったが」
「たしかにショックでしたけど、商人同士ではよくある事ですよ。父上も何度か襲われております」
思ってたより商人怖いな
なんか当たり前のように言う
「まっとうに商売している人もいますがそうでない人もいますので、当然こういった事も起こるんです。商売が軌道に乗り始めたらまず護衛を雇えは鉄則ですよ」
「そうだったのか…すまないな」
「いえ、本来私が注意するべきだったんですが…完全に抜けておりました」
リタが紅茶を啜りながら話す
「それにしてもクランに攻め込むなんて大胆だねー、これまで一度もなかったからびっくりしたよ」
そうなんだよな、それもあって護衛という発想もなかった
「確かに、クランハウスに住んでいる人を攻撃するというのは聞かないですね。貴金属の抽出が始まってからは私があまり動かないのでしびれをきらしたのかもしれません」
「それだけドリアルトが焦っているという事か」
「そうでしょうね。それだけこの事業の効果が高いという事です。絶対に成功させましょう」
強いな
これなら落ち込む心配はなさそうだ
「そうだね、とりあえず護衛についてはトールが手配してくれている。まだ余ってる部屋はあったかな?窓が割れたままでは不便だろう」
リタがイズルを見る
「それならあたしの部屋に来てもらう事になってるよ。大丈夫」
「そうか、ありがとう」
「いいってことよー、イズルはやる事やっちゃって。忙しいでしょ」
「そうだな…新拠点の方はこういった侵入について考えてなかったしそっちもやらなきゃいけないな」
「うんうん、こっちは任せて」
「わかった」
◆ ◆ ◆
その後、1週間ほどすると珍しい客がケラウノスに現れた
応接室に通してあるというので向かうと、リタ、カルラ、クリス、トールが既に席についている
何事かと思い、客を見るとドリアルトが座っていた
護衛を5人ほど連れて偉そうにふんぞり返っている
「おお、盟主様がいらっしゃいましたな。お初にお目にかかります、ドリアルトと申します」
白々しい挨拶だ
何しに来たんだろうか
「イズルだ。何の用だ?」
イズルが席に着くとドリアルトも腰を下ろした
「今回は商談に参りました。ケラウノスで取り扱っている貴金属類を私共にも扱わせていただけないでしょうか?我々は全ての貴族と取引があり、商品を卸すところに困ることはありません。新たに貴族と近づく費用の事を考えれば安い投資になると思います」
「将来の事を考えれば当然俺たちがやったほうが利益が見込める事業だ、お前を仲介する利点としては弱いな」
「くっ…しかしワシをないがしろにすれば貴族との取引は困難を極めますぞ?仲良くしておいた方がよほどスムーズに事が進みます」
事業の中止ができないと見て貴族経由で圧力をかけてくるつもりだな
「トール、どう思う?」
「問題ありませんな。貴金属の抽出には多少人手はかかっておりますがドリアルト商会が提供する品物より品質も高く、安く提供可能です。すぐに貴族の方から接触してくるでしょう」
さぁ、どうでる?ドリアルト
「うぐぐ…ワシを敵に回すとどうなるか思い知ることになるぞ」
「カルラに刺客を放った時のようにか?」
「………はて?存じ上げませんな」
腹芸も一流か、顔色一つ変えないな
「御身を大事になさってください。利益を独り占めしようとすれば恨みを買うのも当然です、その手の荒事でしたら私にもお手伝い出来る事はあります。そこの小娘では対応できない事もございましょう。是非、ドリアルト商会を取り立ててください」
「断る、そもそもお前たちの利益を損なわせるために始めた事業だ、恨みを買うというならお前も同様だろう」
「なんと…ワシが恨みを…?いったい何の事でしょうか」
「クーラーの開発をしたのが俺だからだよ」
初めてドリアルトの表情に変化が見られた
わずかだが眉がほんの少し上を向く
「あれはクリスの店に開発を依頼し、正規の金額で買い取りました。ワシが恨まれるようなことなどありますまい」
「そのクリスの店で働いていたのが俺だ。当時は俺も知識がなかったからな、高い勉強代だと思って譲ってやるよ。貴金属取引は諦めろ」
「なんと…腕のいい魔道具士が来たというのはイズル様でございましたか…わかりました。この場は引き下がりましょう、ですが…ワシを敵に回したことは後悔されるとよろしい」
クリスが声を荒げ、ドリアルトに怒号を飛ばす
「イズルが作ってるって話はしたじゃない!とぼけたって無駄よ!」
「はて…物忘れが激しい歳で申し訳ない。そのような契約がまとめられた書類等はございますかな」
「くっ…」
ドリアルトは冷静にクリスを見据え、まるで哀れみを誘うような表情で言い返す
クリスが拳を握りしめてうつむき、座った
「クーラーの件についてはこれが真実です。お解りいただけましたかな」
「そうか、技術類を全てお前たちのモノにするという記載はあったか?クリスも相当私財を投資している、そのような場合は売上を折半するなどしてもよいと思うが」
「正規の金額で買い取ったと申しました。それ以上の事は話すだけ無駄です。失礼します」
ドリアルトは護衛と共に応接室を出ていった
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