第20話 ─予言─ 占い師
あれから百合亜は姿を現さなくなった。
療養中の睦とシオリもまだ復帰に時間が掛かるようで、マネージャーの香背から追加メンバーを入れることになった、と事務所で聞かされた。
はぁ、どこ行っちゃったんだろう……
あのとき水流でわたしたちを襲ってきたけど、きっと本気じゃなかったはず。
百合亜の事を思い浮かべていたら香背が紙を渡してきた。
「これ、占いの番組なんだけど西水の代わりに頼める?」
紙にはマダム・アスタルテという占い師の名前と内容が書かれてる。
実は占いとか不思議なものの類いが好きなわたしは「はい!」と前のめりに仕事を引き受けた──
家に帰り、どのくらい当たるのかマダム・アスタルテの評判を調べてみた。
最近メディアに出てきたようでカーテンで身を隠し謎に包まれてるけど、今のところ番組に来たゲストを百発百中で的中させ、離婚や不倫、時には地震や災害等の天変地異まで予言するらしい。
へぇ、未来がわかるのか……
『あなた、超人気アイドルになって世界中を席巻しますよ!』なんて言われないかなぁ。
収録が待ち遠しくなって「はぁ、占い楽しみ」と思わずぽろっと口にしたら、テレビの中にいるデヴィーが振り向いた。
「クッ。占イナンテクダラン」
デヴィーは腕を組み、そんなもの信じるのはアホだ、みたいな眼差しを向ける。
「で、でも結構当ててスゴいんだから!」
「ソンナモン。タダノ人間ニワカルワケガナイ! 大体アーユーノハダナ……」
「悪魔なのに占い信じないの? 大体、悪魔がいるんだから占いだって──」
この日、意地になって何故かマダム・アスタルテの肩を持ち、寝るまで占いを信じる信じないで言い合いし続けた。
そして、占い番組の収録日がやってきた。
ついに……なんて言われるんだろう。
それにしてもデヴィーの奴、ありゃ人間だったら絶対ガンコ親父とかになってるな。
中心を見下ろす形の丸く囲まれたセットの上の席に座ると収録が始まった。
照明が暗くなりド派手なBGMが流れると、スーツ姿の大男たちに担がれた
紫のカーテンで隠された中にマダム・アスタルテが座ってると思われるが、上からも見られないようしっかりガードされていた。
二十歳そこそこぐらいのイケメン俳優がはじめに占われると、カーテンの中からかなり高齢だと思われる老婆のような声がしてくる。
「……足元ニ……災イガ迫ッテイル……」
その予言にイケメン俳優が怯えると、カーテンの下から骨と皮が浮き出た褐色の手が出てきた。
「……肌身離サズ身ニ付ケレバ……災イハ最小限ニ抑エラレヨウ……」
イケメン俳優は黒い数珠のブレスレットをマダム・アスタルテから受け取ると深々と頭を下げる。
その後もモデルやコンビ芸人などが占われ、予言は離婚や病気など様々だったが最終的にブレスレットを渡すのは共通していた。
今のところひとつも良い予言ないな。
わたしも、怖い予言されてあのブレスレット貰うことになったりして……
前半の収録が終わり、セット裏で休憩してると、さっき占われてたあのイケメン俳優が話し掛けてきた。
「ねー、キミ可愛いねー」
ナンパだ……されたことないけど勘でそう直感した。
俳優はニヤニヤしながら胸元からスマホを取り出す。
そして「れ……」とたぶん連絡先と言おうとしたら、後ろから香背がやってきた。
わたしのマネージャーだとすぐ気付いたのか、俳優はスマホをしまうと舌打ちして去っていく。
「ああいうのいるから気を付けてね」
香背にそう言われ黙って頷く。
……あっぶなー、あんな風に誘われたの初めてだったからちょっとドキドキしちゃった。
するとスタジオの外から「わーーっ!」と叫び声が聞こえた。
他の共演者とスタッフと共に声のした方へ向かう。
階段の下を見ると、あのイケメン俳優が足を抱えながら倒れていた。
……占いが当たった!?
苦痛に顔を歪ませる俳優を見て、他の出演者も同じことを思っているのかみんな不安そうな表情を浮かべる。
ふと視線を感じ、後ろを見るとカーテンで隠れたマダム・アスタルテを乗せた駕籠を付き人たちが運んでいた。
もしや、この光景を見に来てた?
姿を頑なに現さない事やあの黒い数珠のブレスレット、それに当たりすぎる予言……何だか全てが怪しく思えてくる。
まだ次の収録まで時間があるし、マダム・アスタルテの楽屋に行ってみることにした。
だけど、楽屋の前には付き人たちが番犬のように立っていてとても入れる状況ではない。
やっぱり怪しすぎるマダム・アスタルテ……
でも、こっちにはコレがあるからね。
わたしがはめてる紫のブレスレットを使い、楽屋の中へテレポートした。
目を開けると周りは真っ暗。
だけど目線の高さの部分にだけ穴が数個あり、そこから光が差してる。
恐らくロッカーの中だ。
穴を覗くと楽屋の中央にポツンと駕籠が置かれてる。
「……フフフ……アト少シダ……順調ニアノブレスレットガ広マレバ……装飾品ノブレスレットト同等ノ力ヲ得ラレルワ……」
駕籠の中からそう声が聞こえた。
装飾品のブレスレット……
そんなの知ってるなんて、マダム・アスタルテの正体は悪魔!?
正体に気付くと、突然目の前のロッカーの扉が真っ二つに割れた。
倒れた扉にはタロットカードが刺さっていて、隠れていたのがバレてしまった。
扉がバンッと開くと、付き人たちが入ってくる。
え、この人たち撃っていいの?
一見すると普通の人間だけど、怪しいマダム・アスタルテを守っていることから、指を差して呪文を唱えた。
「アダマスルークス!」
光線が付き人二人の胸を貫通する。
すると黒煙が立ち込め、姿が人間から黒い蛇に変化した。
付き人も人間じゃなかったんだ。
付き人が消え去ると、カーテンがビリビリッと破れる音がした。
駕籠の中からマダム・アスタルテが手をつきながら這い出ている。
その姿はグレーのドレスを纏い、派手な貴金属を身に付けたヨボヨボの老婆だった。
マダム・アスタルテはおぼつかない手でドレスの中から水晶を取り出す。
「……オノレェーッ」
叫びながら水晶を撫でると黒い光線をこちらへ飛ばしてきた。
慌ててしゃがむと、後ろの壁が溶けるように崩れる。
ひえぇ……
でも、あの水晶を壊せばいいのかも!
再び呪文を唱え、水晶に向かって光線が伸びるとマダム・アスタルテは自らを盾にする。
しかし、体を貫いた光線は水晶まで届き「バリーーンッ」と割れる音が響いた。
その場で倒れたマダム・アスタルテにも黒煙が漂い、姿が変わる。
付き人たちと同様、マダム・アスタルテも蛇だったようだが、サイズが一回り大きくまさに大蛇のようだった。
すると上にキラキラ光る黄色い破片が浮かび上がる。
これは、指輪の破片。
一度テレビ局で見た指輪の破片にそっくりなその黄色い破片は指輪に自然と近寄る。
宝石の中に溶け込むと指輪がまた少し輝きが強くなった。
よかったー、まさかマダム・アスタルテが指輪から逃げ出した悪魔の一人だったなんて。
帰ったらデヴィーに知らせてあげよ。
立ち上がろうとしたら「シャァーーッ!」と大蛇になったマダム・アスタルテが大きく口を開け、毒ガスのような息を噴射してきた。
「ゴホッ、ゴホッ」
生ゴミを腐らせたようなとてつもない悪臭が顔面にあたり、咳き込みながらうずくまるとマダム・アスタルテが横たわりながら呟いた。
「……イズレオマエハ……地獄ノ業火ニ焼カレ死ヌデアロウ……」
最期にそう告げると完全に姿は消滅した。
今の……まさか、わたしの未来を予言?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます