第23話 ─集結─ 秘密

 待って!──


 手を前に出して飛び起きた。

 横を見るとひかるが珍しく真剣な顔で座っていて、その後ろには失踪したはずの百合亜が立っていた。


 ……どうしてここに。


 立ち上がろうとすると体が持ち上がらなかった。

 指輪でアイドルの姿に変えてるときは、いつもスッと立てるのに何でか体全体が重い。

 まるで家にいるときのような感覚だ。


 二人の静かな様子も相まって急に額と背中に汗が垂れてくる。

 恐る恐る下に目をやると、やはり膨れたお腹がそこにはあった。


 えぇ、寝てる間に指輪とペンダントの効果が切れたってこと……?


 この醜い本当の姿をバッチリ二人に見られていた。

 慌ててポケットから取り出したハンカチで顔を隠そうとすると、百合亜が声を発した。


「隠さなくていいよ」


 ハンカチをずらすと百合亜が優しく笑みを浮かべていた。


「さっき私たちもラビエルから話を聞いたの」


「えっ」


 首を横に向けるとひかるがうん、と頷いていた。


「私、姿を消してから弱ったベルゼブと一緒に家に閉じこもってたの……そしたらさっきね、突然部屋にラビエルが現れて、天界の事や装飾品の事とか色々見せてもらって、ここに連れてきてもらったの」


 百合亜の手の上でハエみたいなベルゼブがぴょんぴょん跳んでる。


 それで二人とも、わたしが指輪で姿を変えているのを知ったの……


 ひかるがパンッと背中を叩いた。


「いーじゃんよ別に!」


「……へっ?」


「だって、アリスだけじゃないじゃん。アタシだって歩けないの隠してるし、百合亜にだって言いたくない過去があるわけだしさ」


 ひかるの言葉にハッとした。

 たしかに理由は違えど、わたしたちは人には言えないものを抱えてる共通点がある。

 それに、あっけらかんとしてるひかると優しい百合亜になら……本当の姿を見られてもいいや、と思えた。


 百合亜がひかるの横に来てしゃがむ。


「私ね、一部の事務所の人や睦やシオリたちに、過去の両親とかに酷いことをされた事を噂されてて許せなかったの……だけど、ラビエルの話を聞いてたら、されたこと全てを許すっていうのは難しいけど、やっぱり呪うのって良くないなって思った。だから、事故に遭わせてしまった人たちへ罪滅ぼしをしたいの」


 百合亜は以前よりもくだけた表情で語っていて、心を開いてくれた気がした。


「……うん。最後に三人で装飾品を取り戻して欲しいってラビエルに言われたし、それにきっとあの天使たちは、デヴィーたちだと思うから、天界を戻すついでに天使に戻してあげよう!」


 そう言うとひかると百合亜は笑顔で頷く。


 二人に手を借りて起こしてもらうと、モデウスとエルがいた突き当たりに緑色に輝く破片が浮いていた。


 モデウスも指輪に封印されてた悪魔だったんだ。


 破片が飛んでくると指輪の宝石に溶け込み輝きがまた少し強まる。

 左に宝石を回すと美しく引き締まった体に変わり、体が動かなくなるほど具合が悪くなった毒ガスの呪いも、ラビエルがくれたイヤリングで解かれたのかすっかり体調も良くなった。


 耳から外すと、エメラルドグリーンに色づいた小さな羽根が光っていた。

 百合亜が眼鏡を指で押しながらイヤリングを覗き込む。


「これで破片はあと4つ。装飾品は私たちのも含めるとあと2つ探せばいいのね」


 百合亜はベルゼブやラビエルに詳しく聞いたのか、わたしより把握しているようだ。


「ラビエルの話だと、エルっていう悪魔を倒すには真の名が記された魔導書が必要らしいよ」


「魔導書?」


 何となくファンタジー映画に出てきそうな分厚くてデカイ本をイメージした。


 分厚い本か……

 それも探さないとなぁ。



 次の日。相変わらずテレビ番組のチェックには抜かりないデヴィーに、昨晩のことを話してみることにした。


「昨日、実は前に倒した悪魔の毒ガスで動けなくなっちゃったんだけどさ、そこにラビエルっていう天使が現れて、助けてもらったんだ……」


 ラビエルと言った途端、横に揺れていたデヴィーの動きが止まった。


「クッ……余計ナ話シヤガッテ……アイツモ裏切リ者ナンダ」


 背を向けたままそう呟いた。

 デヴィーの言葉の端から、何か勘違いしてるんじゃないかと思えた。


「ラビエルはきっと、自分だけでも天界に残って、そこからデヴィーたちを救おうとしてるんじゃない?」


 説得を試みるもデヴィーは決して振り向かなかった。



 わたしは大晦日に行われる生放送の歌番組に出る為、一旦事務所へ向かった後メンバー全員でバスに乗り、明星テレビへ移動した。


 本番まで楽屋で待機してると、今日から早速復帰した百合亜にシオリが近付く。


「あ、すべっちゃったー」


 座ってる百合亜の足の上にシオリがジュースをこぼした。

 足に乗せていたブランケットがびちょびちょに濡れる。


「ごめ~んシミになっちゃったね~」


 シオリが謝ると百合亜が席を立つ。


「それ、ここにあった物なんで」


 シオリはブランケットを確認する。

 どうやらそれは、シオリの高価なブランド物のブランケットだったらしく悲鳴を上げた。


 あのメガネ、心を読んだりも出来るらしいからそれで先回りしたのかも……


 眼鏡を掛け直しながらシオリを見てる百合亜に、若干恐怖を感じる。


 そして、そんなこともありつつ生放送が始まった。


 まさか毎年いつもママと観ていた番組に出るなんて、一年前には予想もしてなかったから緊張で足がガクガクしてくる。


 だけど、ひかると百合亜と一緒にこのステージに立つんだ、と思うと不思議と震えがおさまっていき、大勢のお客さんに見られながら歌とダンスを披露した。


 歌えた……

 こんな大舞台で歌って踊るなんて、わたしじゃないみたい。


 わたしたちミスレクはトップバッターで、早朝の元旦の生番組もあって途中で会場を抜けた。

 中学生以下のメンバーは帰され、別のテレビ局へ移動中車内でみんな睡眠を取る。


 シオリとかはアイマスクしてたり、ひかるはイビキをかいて爆睡しているけど、わたしはさっきの歌番組の光景がまだ引きずっていて寝付けなかった。


 あくびしながら座席にもたれてると、斜め前にいる睦がコンパクトを開いていた。

 化粧をしている様子もなく、周りの寝息が聞こえる中、目を凝らしてみると、コンパクトのミラーに包帯がぐるぐる巻きのミイラが映った。


 んんっ! な、何あれっ……!?


 驚いて持ってたペットボトルを落としてしまうと、睦はすぐにコンパクトをポーチに隠した。

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