第24話 ─砂漠─ ミイラ
おめでたい紅白のセットと袴や晴れ着に包まれた出演者が集まる中、わたしはゲストに呼ばれたのにもかかわらず一人仏頂面で座っていた。
睦のコンパクトに映ったあの不気味なミイラが脳裏にこびりついて、とてもニコニコしてトークする余裕なんてなかったのだ。
番組が終わった後、いの一番に百合亜に睦のコンパクトの事を伝えに向かった。
「ミイラ?」
「そう! ミイラが睦のコンパクトに映ってて、とにかくそのメガネで見てほしいの!」
百合亜は押され気味に承諾した。
人通りのない隅の廊下へ移動して、百合亜は目を閉じる。
メガネに触れると縁にある宝石が青く光った。
「どう?」
「今、心の中を覗いてみたんだけど……どうも睦はそのミイラにだいぶ心酔してるみたい」
百合亜は、睦が四六時中コンパクトを肌身離さず持って隙さえあればラミー様、と呼びそのミイラを慕っている光景を見たという。
「ラミーさま……そのミイラと睦は一体何を?」
「たぶん悩みを聞いてもらってるみたいなんだけど、ラミーの目的は別にあって、信頼を積みながら徐々に生気を吸い取り、いずれコンパクトの中へ引きずり込むのが真の目的みたい……」
「コ、コンパクトの中に!?」
ひかるにもミイラの事を伝えようと楽屋に向かおうとしたら、睦が前を横切った。
その手にはコンパクトを持ってる。
まさか、今ラミーと会うんじゃ?
睦は局のトイレに入る。
入り口からそーっと百合亜と覗くと、他に誰も居ないようで洗面所の前で睦がコンパクトを開いていた。
「……もうこのまま続けていいのか分かんなくて……」
睦が何かボソボソ話すと、コンパクトのミラーに映ってるラミーは無言でただ頷く。
何にも話さないけど、睦はこれで満足なのかな?
眺めてるとギロッと包帯の中にある赤いラミーの目が動き、目が合った。
バレた……! と思った瞬間、コンパクトのミラーから包帯が伸びてきて睦を掴んだ。
睦はミイラみたいに全身を巻かれ、咄嗟に制止しようと、包帯を掴むとわたしもコンパクトの中へ引きずり込まれた──
眩しい光の中、睦の体は遠くへ引っ張られていき、わたしは両手を伸ばした状態で顔から落下した。
指にサラサラした砂のような感触がする。
起き上がると、周りが一面金色の砂で覆われ、正面には黄金のピラミッドが建ってる砂漠の上だった。
何ここ、エジプト?
ピラミッドの前でラミーが睦を包帯で宙に浮かせている。
「アト少シダ。儀式ヲ行エバコノ女ノ肉体ハ完全ニ……」
包帯が巻かれた指先で逆になった星印を
……ヒョウッ!?
ラミーは睦をピラミッドの奥へ運んでいき、二頭の豹はわたしに飛び掛かってきた。
腕で頭を隠すとバシャーーンッと水の音がする。
顔を上げると、空から流れてている激しい水流が豹を飲み込み消滅させていた。
「この水流は……」
空から百合亜の声が聞こえてくる。
「アリスちゃん、今のうちに睦を!」
どうやら白く光る空の上はコンパクトの外に繋がっているようで、そこから助けてくれたようだ。
百合亜に言われた通りピラミッドの入り口へ走った。
入り口の扉は閉じようとしているのか動きはじめていて慌てて飛び込んだ。
ギリギリ中に入ると扉は完全に塞がった。
ふぅ、なんとか……
ピラミッドの内部はぼんやり灯る
冷や汗をかきながら歩みを進めると、進むごとに呻き声が響いてくる。
「ウゥ……ウゥ……」
最深部と思われる部屋に辿り着き、いつでも攻撃できるよう指を差しながら覗いた。
「……ウゥ……コノ女ノ肉体ヲ我ニ……」
巨大な松明に照らされた、人型の棺の中に目をやると睦が入っていた。
ラミーはその前で声を上げながら謎の踊りをしている。
そして踊りを止めると、懐に手を忍ばせナイフを取り出した。
「はっ、アダマスルークス!」
呪文を唱え、指先から出た光線がラミーの手に当たる。
ナイフを吹き飛ばした衝撃でラミーは後ろの松明の中へ落ちた。
倒された?
棺から睦の体を起こしに行く。
包帯を引きちぎると、睦は怪我もなく気を失ってるだけのようだった。
よかった、何もされてないみたい。
睦が起きないうちにテレポートして元の世界へ戻ろう。
睦の腕を組み、ブレスレットに触れる。
すると首もとを締め付ける強い力で引っ張られた。
背中から床に倒れ、上を見ると炎に包まれたラミーが松明の中から包帯を伸ばしていた。
「……逃ガスモノカ……」
炎で包帯が焼かれたラミーは真っ赤に焼き焦げた肌が露わになっている。
首と手足を包帯に縛られ、テレポートも攻撃もできない。
ヤバい……あの松明の中にわたしも引きずり込むつもりだ。
松明の熱を感じる距離まで迫ると、ピカッと緑色の光が現れた。
その光はわたしを縛っている包帯を消し去る。
ラミーは包帯が切れたことで、松明の中へ再び落ちた。
「ギヤァーーーーーーッ!!」
ラミーの叫ぶ声がすると松明から黒煙が上がり、今度こそ消滅したみたいだ。
緑色の光の先をふと見ると、左耳に付けてるイヤリングから放たれていた。
ラビエルが言ってた通り本当に守ってくれるようだ。
ホッと胸を撫で下ろすと、周りが揺れだして砂ボコリが落ちてくる。
大変、崩れる!
砂漠の空間から睦と一緒にテレポートした。
元のトイレに帰ってくると百合亜が安心した表情を浮かべる。
「よかったぁ、無事で」
コンパクトが黒く変色し砂のように崩れると、睦が目を覚ました。
起き上がると周りをぐるっと見渡す。
「……あれ、私なんかここで何かと話してた気が……」
睦はラミーの事を覚えてない様子。
数秒ポカンとしていたが、正気を取り戻したのか「フンッ」と首を横に振って睦はトイレから出ていった──
後日、事務所で次のシングルがバレンタインデーに発売するとメンバー全員に知らされてると、天津が急に席を立った。
「実は、このシングルで安斉が卒業することになった」
……えっ、睦が卒業!?
シオリたちも知らなかったらしく天津が出ていった後、理由を聞きに問い詰める。
「なんで今なの!?」
「……まぁ、色々あんのよ」
睦は渋い顔でそう言いながらシオリや他のメンバーと部屋を出ていった。
ひかるが荷物を持ちながら話す。
「ビックリだね。あの睦が辞めるとは」
「うん……」
たしかにビックリだ。
睦なんて、自分のリーダーに誇りもってるし、10年やってやっと売れてきたっていうのにこのタイミングで辞める?
疑問に感じながら、ひかると百合亜と部屋を出ようと扉を開けると、睦が壁にもたれて立っていた。
「睦、帰ったんじゃ……」
そう言うと、睦はこわばった顔をしてわたしたちの前に来る。
「あ、あのさ……私、なんっていうか、結構あんたたちに今まで強くあたっちゃったりして、一応言っといた方がいいかなって思って……」
思わず三人で「え?」と同時に言うと、睦がモジモジしながら口を開いた。
「……ゴメン……」
睦はその一言だけ残しそそくさと去っていった。
あのプライドの高い睦が謝った……
百合亜が睦の後ろ姿を見ながら話す。
「睦、あのミイラに悩みを聞いてもらってたって言ったでしょ」
「あ、うん」
「実はそれ、実家のお父さんが病気で独り暮らしさせてたのがずっと気掛かりだったみたいで、大好きなミスレクとどっちを選ぶか不安定になってたみたいね」
え、そうだったんだ、それでいつもイライラして……
もしかして、そんなに根っこは悪くなかったのかな。
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