第8話 ─休息─ 破片
倒れた人々から現れた謎の白いモヤを飲み込んだ事から、この男が普通の人間ではないと確信した。
ドアを押して室内へ入ると、男はペロッと口の周りを舌舐めずりする。
「……あ、あなた、あ、あ、悪魔でしょ!」
震えた声でそう言うと男はギョロッと睨んだ。
顎を上げ首から提げた社員証を突き出す。
「ふっ、お嬢さん。ここ関係者以外立ち入り禁止だよ。これ見えるぅ? 私は正真正銘ここのプロデューサーです」
男は笑いながら前髪をかきあげた。
あまりの余裕な態度に、もしかしたら早とちりしたかも……? と自分の判断が正しかったのか気持ちが揺らいだ。
だけど右側のモニター画面に人が倒れる様子が見えた。
番組の準備中だったのか、インカムを付けた人や丸めた本を握ったまま倒れた人の姿が複数映し出されている。
まさか、これもこの男が!?
男はそのモニターを観ながら口をピクピク痙攣させている。
堪えきれなくなったのか噴き出した。
「ゥプッッ!! ワッハハハハッ!!」
壁に手をつきお腹を抱えながら笑っている。
「……な、何がそんなに面白いのよ?」
単純にどこがそんなツボなのか気になった。
「だ、だってさぁ。プッ、人間が休み無く必死に働いて消耗していくのってさぁ、チョー面白いじゃん。クッ、ワッハッハ!」
笑いの止まらない男に恐怖すら感じてくる。
でもある意味今がチャンスかも! と思い、指輪をはめた指を向けた。
そして、いざ攻撃しようとしたら、男は突然笑いが止まりこちらを振り返る。
「ソレハ……」
真顔になった男は二、三歩後ろへ下がってモニターに手をあてると姿をくらました。
「ちょっ、まっ……」
どこへ消えたのか、前後左右を見回してると全てのモニター画面が切り替わった。
不敵な笑みを浮かべる男の姿が映し出されている。
「フフフ。ソノ指輪ニ私ヲ再ビ封ジ込メニ来タノカ⋯⋯私ノ名ハ悪魔クエル。人間ノ休息ヲ奪イ美味シク頂クノガ私ノ生キ甲斐。ソレヲ阻ム者ハ生キテハ帰サナイ」
クエルは宣戦布告するとドアを施錠し、モニターや周辺の機械からバチバチ火花を散り始めさせた。
あ、あの電気浴びせる気!?
モニターに映るクエルに向かって呪文を唱える。
「アダマスルークス!」
前にも見た白い光線が一直線に放出された。
しかし、クエルは目にも止まらぬ速さで別のモニターへ移動し攻撃が当たらない。
は……はやい……
「サァ今度ハコチラノ番! ハハッ!」
クエルは電流をボール状に一つに集めると、ビリヤードの球のように室内を跳ね返らせる。
大急ぎで手前のイスをどかしてデスクの下に逃げ込んだ。
あの電気の玉が当たったらどうなっちゃうんだろ……
倒れてる人たちに当たる前に止めたいけど。
反撃する隙がなく、電気の玉が天井や床にぶつかりながら移動するのを体を小さく丸めてただ眺めていると、上から「オイ、オイ」とかすかに声が聞こえた。
ひょっとしたら、デヴィーがデスクの上にあった小さなモニターに来てくれたのかもと思った。
「デ、デヴィー?」
問い掛けるとやはりデヴィーの声がした。
「俺ガアイツヲ中央ヘ追イ込ム。ソノ隙ニ封ジロ」
「え……わ、わかった、け、けどどのタイミングで? ⋯⋯んっ、聞こえてる?」
聞き返しても返事がない。
やむを得ずそっと頭だけ出すと、正面のモニター画面の中でデヴィーがクエルに追い回されていた。
「ソンナ小サクナッタ体デコノ私ヲ倒セルトデモ思ッテイルノカ。アッハッハハ」
デヴィーより五十倍以上大きな体を持つクエルは嘲笑い、両手から青白い電撃を放っていた。
ぐるぐる二人がモニターの中を飛び回っていると、通った場所がショートして黒い煙が上がっている。
そっか……モニターが壊れれば移動できないんだ。
そうとも知らず夢中で電撃を放つクエルは中央に段々おびき寄せられている。
そして、一足早く中央へ飛んできたデヴィーは動きを止めると姿を消した。
今だ!
指を向けて呪文を唱えようとしたら、天井を跳ねていた電気の玉がこちらめがけ飛んできた。
咄嗟に電気の玉へ指をずらすと、光線が電気と混ざり合い、巨大な電流の玉になって正面のモニターへ跳ね返る。
クエルは察知し回避しようとしたが、すでに周りのモニターが壊れて移動できずそのまま直撃を受けた。
「ナニッ!! ウワーーーッ!!」
叫び声と同時にモニターは爆発。
ガラスや部品が飛び散り、クエルは恐らく消滅した。
破壊されたモニターの跡を眺めてると、白いモヤが続々と出てきて、その中にオレンジ色に煌めく光が見える。
その光はこちらに近付くにつれ、ステンドグラスのような小さな破片だと分かった。
指輪のもとまで飛んでくると、ヒビが入って輝きを失った宝石の中へ溶け込んだ。
ほんの一部、指輪が青く光りだす。
指輪が少し戻ったということは、クエルは封印されてた悪魔の一人だったの⋯⋯
白いモヤは倒れていた人々の体の中へ消えていき、徐々に目を覚まし始める。
「うぅ⋯⋯あれ、今まで何を」
「……た、大変だーっ!! 全部真っ黒焦げだぞーっ!!」
室内の荒れに荒れた有り様に騒がしくなってくる。
みんなモニターがあった方向に注目していて、気付かれないうちに部屋から全速力で逃げた。
ふぅ無事なんとか。弁償とか言われても払えないしねぇ。
あ、そういえばデヴィー……もしかしたら最初の場所にいるのかな。
うろ覚えで来た道を戻っていき最初の部屋へ着いた。
誰もいないことを確かめて室内へ入ると、隅のモニターの中でデヴィーが頭の下に手を入れ寝そべっていた。
「もしかして、待っててくれたの!」
「フッ」
デヴィーは目も合わせず鼻で笑うと姿を消した。
素直に言うわけないか。
モニターの中に手を伸ばしテレビの枠を掴んで潜り抜ける。
無事帰宅できてベッドに倒れ込んだ。
「やっぱ自分の部屋がいちばん落ち着くわぁ」
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