第38話 ─牢獄─ 天界からの救出

 街中がカボチャのランタンやアニメキャラのコスプレなどでハロウィンムード一色に包まれた夜。


 突然デヴィーに三人に話があると言われ、ママが眠りについた夜中わたしの部屋にひかると百合亜が集まった。

 

 座卓を囲むように座ると、デヴィーがテレビの画面に一枚の絵を表す。

 モノクロで、本とかで見掛ける天使の少年が二つの頭をもつ竜に跨がる様子が描かれてる。


「名ハヴァラク。コイツノ力ヲ借リレバ──ラビエルトエルノ居場所ヲ突キ止メラレル」


「えっ、居場所を!?」


 行方が分からずにいるラビエルとエルの居場所が見つけられる、と思うとつい大きな声が出てしまった。


 ヤバ……ママが起きちゃう。

 

「……それで、そのヴァラクっていうのはどこにいるの?」


 囁くように居場所を訊ねるとデヴィーが指で画面の図をスライドさせた。

 立体的になった図が映し出され、高層階のビルが二つそびえ立ってる。


「ヴァラクハコノ明星テレビノ最上階デイチ社員トシテ身ヲ潜メテイルヨウダ」


 いち社員?

 天使が人のフリをして働いてるんだ。


 しかも、明星テレビといえばわたしたちミスレクもよく番組へ呼ばれたりもする、年末の歌番組など国民的番組を放送するテレビ局。

 過去には悪魔を封印しに行ったり、ミスレクのオーディションでも密着していて、最近はティエルが所属するGTも誕生させている。


「ダガナァ……」


 デヴィーは顎に手を置いて目を細める。


「もしかして、問題でも?」


「ウム……奴ノ潜ム場所ヲ掴ンダノハイイガ……ドウモベシュテルノ手ガ及ンデナイトハ思エナクテナ」


 ベシュテルは天界のリーダーでありながら悪魔や天使を使い、わたしたち三人が身に付けてる装飾品を狙ってあらゆる手で陥れようと画策している。

 だからデヴィーが考え込むのも無理はない。


「でもさ、ソイツんとこ行くしか方法ないんでしょ? もー行っちゃおーよ!」


「うん、私もそれしか打開策はないと思う」


 ひかると百合亜は今すぐにでもヴァラクの元へ行く気満々だった。


「じゃ、二人がそう言うなら……」


 テレビに目をやるとデヴィーが頷いた。


 わたしの肩にひかると百合亜が手を置いて、明星テレビの最上階をイメージしてテレポートした──



 足音ひとつない静かな通路に着くと、背後から声を掛けられた。


「御待ちしていました」


 中性的な声で話してきたのは、チェック柄スーツを着た男性だった。

 大人だとは思うけど顔は子供のようで身長もわたしたちより頭一つ分低い。


 お待ちしてましたって……

 まさか、この人ヴァラク?


 何故ここに来ることも知っていたのか疑問を抱いてると、ヴァラクらしき男性は揃えた指先を前へ差し出す。

 ひかるはすぐに案内するヴァラクの後をついていき、百合亜とわたしも後を追った。


 案内された室内へ入ると扉が閉まる。

 ヴァラクの後ろの窓には、幾つものオフィスビルやライトアップされたタワーが煌々と輝いている。


「君たちが僕のところへやってきた理由は分かっています。ラビエルたちを救いたいのでしょう?」


 その発言でこの童顔の男性がヴァラクだと確信した。

 ヴァラクは壁に立ててある姿見の前に移動する。

 掛けられていたクロスを外すと鏡に波紋が広がっていた。


 あれは……前にデヴィーがテレビに映してたやつにソックリ。

 ということは、どこかに繋がってる?


「さぁ、この先にラビエルたちが幽閉されている牢獄に繋がっています。お行きなさい」


 ヴァラクはずいぶんと落ち着いた様子でそう話した。

 素直に従っていいのか少し不審に思ったけど、三人で波紋の広がる鏡の中へ飛び込んだ──



 鏡の先を通り抜けると湿った空気が充満していた。


 周りの壁や足下は蔦の絡まる石が積まれており、牢獄という名に相応しいただならぬ雰囲気を感じさせる。

 正面には頑丈な黒い鉄の柵でできた檻があって、何重にも巻かれた鎖に南京錠が掛けられていた。


「あれを見て!」


 百合亜が指差した先を見ると、柵から遠く離れた方向に人間が丁度収まりそうな二つのカプセルがある。

 立て掛けられたカプセルには緑色の液体がボコボコと泡を立て循環していて、中には目を閉じてるラビエルとエルが入っていた。


「よし、アタシに任せて!」


 ひかるがいきなり地面に炎の球を現して蹴り上げた。

 柵に炎の球がぶつかるが、南京錠がピカッと光ると何事も無かったように戻る。


「えぇー、なんでー!?」


「闇雲にやっても無理よ。人間界のとは違って特殊な何か強力なセキュリティがされてるんだわ……鍵を手に入れるしか方法は無さそう」


 掛けてるメガネが青く光ると、百合亜は敷き詰められた石の天井を見上げる。


「このずっと上の方、鎧を着て槍を持った天使が束になった鍵を持ってるみたい」


 心や物などから思いを読み取るメガネで、百合亜は鍵の在処を見たようだ。


 ブレスレットを擦り、三人で上の階へテレポートする。


「ここ?」


「ううん……もっと上」


 指示通りに上へ移動していく。

 似たような牢獄を通り過ぎると、百合亜が声を上げた。


「止まって」


 そこも最初にいた牢獄とそっくりな場所。


 百合亜が十字窓の付いたアーチ型のドアに近寄り、一緒に窓から覗こうとしたら、ガサッガサッと物が擦れる音が近付いてきた。


 慌ててドアの方向から死角になった出っ張った壁の方へ走る。

 背中を石の壁にピッタリ張り付けるとひんやりと冷たさを感じた。


 息を殺してると、ギーッと壊れそうなドアの開く音がする。


「ウッゥ、ハァ~」


 しゃっくりと酒ヤケでもしたような声でため息をつくと、ドアの横にあった小さな椅子にドスンと座る音がする。

 そっと壁から顔だけ出すと、椅子の上で大股を広げてイビキをかいて眠るオジサンみたいな人物がいた。

 顔は茹でダコのように赤く、左手には槍、右手にはお酒が入ってるヒョウタンを握ってる。


「ゲッ、まさかこんな奴も天使なワケ!?」


「う、うん……たぶん? 鎧を着てるけど後ろに羽らしきものもあるし……」


 ひかるとオジサン天使を観察してると、百合亜が腰の辺りから鍵の束を取り出した。


「見つけた、これでさっきの場所へ戻れば」


 笑顔を見せる百合亜の隣で、オジサン天使の目がカッと大きく見開いた。


「貴様ら何者だー!!」

 

 オジサン天使は立ち上がって二本の指を口に咥えピーーッと指笛を鳴らした。

 甲高く鳴ったその音は遠くの方まで響き渡っていくのが伝わる。


「急いで戻ろう!」


 ひかると百合亜が頷いて、わたしの腕を掴む。

 そして、最初にいたラビエルたちのいる牢獄の前へテレポートした。


 百合亜が持っている束の鍵のひとつひとつを南京錠に差し込んでいると、後ろのドアが叩き割られた。


「侵入者め! お前たちが装飾品を盗んだ悪魔の一味だなっ!!」


 剣や槍を突き出しながら大勢の天使たちが加勢してくる。


「こりゃ、ワケを説明しても聞く耳もたなそーだな!」


 ひかるがそう言いながら目で合図して、わたしは呪文を唱えた。


「アダマスルークス!」


 指先から放たれた光線とひかるが蹴った火の玉が鎧を着た天使たちに降りかかる。

 天使たちは喚きながら盾で頭を守ったり、剣を振り回し体制が崩れた。


「はっ、開いた!」


 百合亜の声を聞いて、ひかるとわたしも急いで檻の中へ足を踏み入れた。


 カプセルの方へ走ると目を閉じたラビエルとエルの姿がはっきり見えてくる。

 周辺には無数のボタンがある機械があって手当たり次第に押すと、緑色の液体が減っていきカプセルの蓋が開いた。


 よかった、これで二人とも助けられる。


 すると、背後から足音が迫ってきた。

 鎧を着た天使たちが槍の先端を向ける。


「お前たち全員この牢獄に閉じ込めてくれるわ!」


 百人は居そうな天使たちが入り口を塞いだ。


 どうしよう……

 ヴァラクの力が無くても、ブレスレットでわたしの部屋にテレポートできるかな?


 一か八か、眠ってるラビエルとエルと手を繋いだひかると百合亜を腕に掴ませて、ブレスレットを擦ってみた。

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