第34話 ─刺客─ 通り魔
連日ドラマの撮影が続いている。
今日も早朝からスタジオにある教室のセットで撮影をしており、最近は自分なりの演技が出来てきたのか、回を重ねるごとに監督からOKが早く出るようになった。
撮影終わりスタッフたちが後片付けしてると、ドラマプロデューサーが手をすり合わせてやってくる。
「いやぁ~アリスちゃん人気は飛ぶ鳥を落とす勢いだね~」
三日月みたいな目でニヤけていて典型的なゴマすりだ。
「えぇ、そんな事ないですよ……」
「視聴率もうなぎ登りで今期のドラマの中でトップだし。映画化の話もでてるからこの勢いで頼むよ~」
プロデューサーは満面の笑みでわたしの肩をポンポンと叩くと去っていった。
映画かぁ。ドラマが人気になってくれるのはありがたいんだけど……
ここまでトントン拍子で進むと逆に怖くなっちゃうなぁ……
外見や存在するだけでイジメられたり、理不尽な事の連続だったせいか、良い事が続くと怖じ気づいてしまうようだ。
「アリスさん。お疲れ様でーす」
笑顔で頭を下げながら通り過ぎたのは、初めての撮影の際にわたしを演技で圧倒したGTに所属するあの少女だ。
少女がティエルという名前なのをあの後知り、見た目も純日本人っぽいけど北欧の血が混ざったクォーターらしい。
「……お疲れ様」
ちなみにティエルはドラマの中でわたし演じるヒロインの恋路を邪魔するライバル役を担ってる。
通路に並べられた差し入れのお弁当を手に取り、自分の楽屋に戻った。
割り箸を口に咥えてテレビを点けるとニュースが流れた。
『今朝、女子高校生が登校中何者かに刺される事件が発生しました。女子高校生は病院に搬送されましたが死亡を確認。近くの防犯カメラに映っていたのは、中肉中背で鳥のようなお面を被った黒のジャンパー姿の人物。都内では同様の事件が今月に入って十数件発生しており、関連があるか捜査中です──』
テレビには犯人を斜め上から映した白黒の粗い映像が映る。
ニュースで語られてた通り黒のジャンパー姿で、鳥のお面はフクロウのようだ。
……通り魔?
場所、事務所のすぐ近くだし気を付けよう。
寄り道をせず、日が暮れる前に帰宅した。
部屋で酢昆布を食べながら台本を読む。
実際の演技のときと同じ環境にする為、指輪で姿を変えた状態にする。
早速、セリフを発しようとしたらテレビにニュースが流れた。
『速報です。ついさきほど帰宅中の女子高校生が何者かに刺され──』
口を開けたままテレビに目を奪われた。
まただ……
今日だけで二件も。
ニュースを読み上げるキャスターにデヴィーが被さる。
「被害者ニハアル共通ノ特徴ガアルラシイ……ククッ」
デヴィーは体を震わせ、笑うのを我慢しているように見える。
「共通のとくちょう?」
「ウム。面白イコトニナ。揃イモ揃ッテ金髪デピンクノリボンヲ頭頂部ニ留メテイルラシイ……ククッ」
頭の中にイメージしたのは、金髪の縦ロールをリボンで二つ結びにした、ちょっぴり古くさいお姫様みたいな髪型。
「へぇ……かなり珍しいそう、犯人の好みなのかな?」
パチッとテレビが切れる。
暗くなった画面にぼんやりと、二つの金色のバナナみたいなものにピンクのリボンが乗っかったものが映る。
それは、指輪で姿を変えるときのわたしの髪型だ。
グループでのイメージカラーがピンクで正統なアイドルキャラっていうのもあって、テレビ出演する際は自動的にこの髪型に変わっていた。
デヴィーが言ってた被害者の特徴、それこの姿のわたしだったんだ……
テレビが点き、上目遣いのデヴィーが映る。
「ヤット分カッタカ。コイツハオマエヲ捜シテイルンダ……殺ス為ニナ」
「……ちょ、ちょっと待って!? わたしに恨みをもってる人がいるってこと?」
恨まれるような事してたのか考えを巡らせるとデヴィーが鼻で笑う。
「フッ。ベシュテルガ送リ込ンダ刺客ダ。名ハアウルス。殺人ヲ行ウノガ得意ナ天使トハ思エナイ特徴ヲモツ。装飾品ヲ奪ウ為ニ似テル人物ヲ見ツケ次第襲ッテイルンダロウ」
「えぇ……」
被害者たちがどうして同じ髪型をしてるのか分かった。
実は最近、十代の若い女の子の間でわたしの髪型や服装を真似るのがブームになってると、後輩の梶と肥後から聞いたばかりだったのだ。
わたしに憧れてくれたファンの子たちをこんな目に遭わすなんて……
ライブでいつもコールを送ってくれるファンの顔ひとつひとつが思い出される。
「でもなんで、狙ってるなら直接わたしのとこまで来ないの?」
「フッ簡単ナコトサ」
デヴィーはわたしの左耳を黒い指で差す。
左耳に付けているのは、ラビエルからもらった装飾品の緑の羽根のイヤリングだ。
「ソノイヤリングガ奴ヲ近付ケナイヨウニシテイルノサ」
そうだったんだ、自分で発動させなくても知らないところでわたしを守ってくれていたんだ……
だけど、これ以上ファンの子たちに被害を及ばせたくない。
耳からイヤリングを外して座卓の上に置いた。
「あのフクロウ人間、今すぐ倒しに行ってやる」
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