第31話 ─伝説─ 幽霊船
5万人が収容できるドームでドラマの主題歌でもあるミスレクの新曲を初披露した。
ステージ上から見ると客席は全て埋まってる。
「本日はお越しいただいてありがとうございます! 私とやよいはですね。今年で11年になるんですけど」
リーダーのシオリとやよいがドーム公演ができたことを感慨深くファンへ語っていると、突然後ろの巨大モニターにVTRが流れた。
『ミスレクのみんなドーム公演おめでとう!』
モニターに満面の笑みを浮かべる天津が映った。
『きっとみんなのことだから成功してるに違いない……そこで、いきなりだが、そんな君たちにはこの度海外公演やってもらいたいと思います!』
「ウオォーーーーー!!」
ファンの野太い歓声が会場に響く。
メンバー全員知らされていなくて驚きの表情を隠せなかった。
モニターには来月の7月に訪れる予定の国名と地名が出されてる。
プエルトリコ……
あっ、これデヴィーが行きたがってた場所──
一ヶ月後。他のメンバーが先に海外で公演してる中、わたしはドラマ撮影の合間を縫い遅れて参加することになった。
そろそろ家出ないと。
キャリーケースを持って階段を下りるとママが洗濯物が入ったカゴを運んでいた。
「あ、もう行くね」
ママに付いてきてもらって受け取ったパスポートを手の代わりに振る。
ママはカゴを置いて、洗濯物のタオルをパンパン音を立てシワを伸ばす。
「施設の関係で海外行くのよね」
何かしら外出するときは決まって自立支援の施設関係だとママは思っている。
「……も、もちろん。それ以外何があるのよ……」
苦笑いしながら言うとママは笑顔を見せる。
「そう。じゃ気を付けて行ってきてね」
玄関へ向かうと、洗濯物をパンパン叩く音が一段と強く聞こえた。
やっぱり、いつも施設に通ってるっていうのは流石にオカシイって思うよね……
もう、どっかで働いてることにしようかな……
空港でマネージャーの香背と落ち合い、一緒にメンバーが公演しているプエルトリコへ渡航した。
燦々と陽が降り注ぐビーチ沿いに建てられた舞台袖に辿り着くと、ファンは数百人ほど集まっており曲に合わせて歓声を上げてる。
わぁ、結構盛り上がってんだー。
みんなが歌い終わってから舞台裏に行こう。
野外ライブが終わり舞台裏に入ると、ひかるや百合亜、他のメンバーが気付いて近寄る。
「えぇ、いつ来たの!」
「ついさっきだよ、みんなのパフォーマンスもちょっと見てたけど」
明日のセットリストを教えてもらったり、地元のお土産話とかを聞いてると、隣にいる肥後が肩を叩いた。
「日野さん日野さん、ここ不思議な伝説があるんですよー!」
「でんせつ?」
肥後の隣にいる梶が話に割って入る。
「そーなんですー! なんかーこの先の海とどっかの海を三つのラインで結んだ場所が超ヤバいらしくてー。そこに行くと幽霊船が現れるんですー! しかもそれに乗ると人魚にも会えるらしいんですよー!」
「人魚って、下が魚で可愛い感じのあれ……?」
肥後が梶を押し退けて前に来る。
「でもでも、その人魚スッゴい怖いんですよ! なんか美しい歌を聴かせるんですけど、その歌声を聴くと魅了されて操られちゃうんです……そして会った人は最後。二度と戻って来れないんです!」
「へぇ、それはちょっと怖いね……」
もしかしてその伝説、デヴィーが言ってた不可思議な力っていうのと関係してるのかも。
他のメンバーが席を外して、ひかると百合亜と三人になったとき、デヴィーから聞いた話を説明した。
「……というわけなんだけど、二日しか滞在できないし、いつその海の場所へ行こう?」
わたしはドラマの撮影に戻る為みんなより早く帰国することになってる。
「そっかー。あっ、でもさ、それですぐに移動できんじゃ」
ひかるが指差す先に手首にはめたブレスレットがある。
……あ、テレポートすればいいんだ。
そうすれば帰国までギリギリ探せる!
それに、よく考えたら日本からでも飛んでこれたわ……
そうして、翌日。ファンの歓声を浴びながらパフォーマンスをした後、他のメンバーが滞在先のホテルへ向かう中、わたしたちは人目のない海岸へ移動した。
早速テレポートしようとブレスレットに触れると、オレンジ色に輝く海に向かって百合亜が目を瞑り両手を広げる。
海水がざわめきだし、波のように高く上がると船の形に変わった。
「海の上だもの。この方が動きやすいでしょ」
百合亜が笑顔で言うとひかるが走って海水でできた船に飛び乗る。
「スゲー! 百合亜こんなことできんの!」
わたしも百合亜とこの海水でできたクルーズ船のような船に乗り、三人で沖へ猛スピードで進む。
夕陽の映る海を眺めてると隣で百合亜が何かのパンフレットを開いた。
「何それ?」
「あ、これ地元の旅行ガイド。伝説の幽霊船が出る場所が描かれているんだけど……タイミングよく現れるものなのかな?」
たしかに、わたしたちが来たところで幽霊船が来てくれるとは限らないもんな……
船はそのガイドに描かれてる場所へ到着した。
動きが止まると百合亜が立ち上がる。
「そうだ! もしその幽霊船や人魚が破片や装飾品と関係してるなら、私たちが身に付けてる装飾品に気付くはず」
百合亜の提案で、幽霊船が現れるという場所へ向け装飾品を見えるように傾ける。
指輪とブレスレットをはめた手を前に出し、首から提げたペンダントと巻いたスカーフ、左耳に付けたイヤリングを見せびらかしながら数分待ち続けるも幽霊船は一向に現れない。
足首にはめたアンクレットを見せてるひかるの足が揺れ始める。
「まだー? ダルー。やっぱ幽霊船なんて都市伝説なんじゃねー? ……んんっ!?」
ひかるが首を前に伸ばす。
肌に冷気を感じてきて、周辺には霧が立ち込めてきた。
霧の奥から大きな黒い影が迫り、ギィーと音がすると目の前で止まる。
見上げると、霧の中からかすかに海賊船のような巨大な船が見えていた。
これが、伝説の幽霊船……
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