第50話 サルヴィオの背中②
1番地区――街の中央付近までやって来たコレットとサルヴィオ。
すぐ近くでは激しい戦闘が繰り広げられており、今尚ヴィリーネたちが戦線を支えているのがわかる。
「サリアちゃーん! どこにいるっスかー! いたら返事してくださーい!」
「うおーい! とっとと出てこいや、このクソガキー! テメエのお袋さんが泣いてんぞコラァー!」
大声で名前を呼び、娘を探す2人。
「どこにいるんでしょうか……? 早く見つけないと……!」
「クソッタレめ、あの骨のドラゴンがこっちまで来たら、もう探すのなんて無理だぞ!」
もう戦場は目と鼻の先。
あの巨体が、いつこっちに突っ込んで来てもおかしくない。
一度巻き込まれれば、もう捜索など不可能だ。
手遅れになる前に、一刻も早く見つけなければ――2人がそう思った時、とある民家の扉が少しだけ開く。
「……」
扉の隙間からチラリと見えたのは、人形を抱えた黒髪の少女の姿だった。
「! サリアちゃん、サリアちゃんっスよね!」
コレットは急ぎ
彼女は恐怖で震えており、手足が言うことを聞いてくれない様子だった。
「ご、ごめんなさい……わたし、こわくて……ママはどこ……?」
「お母さんはもう避難してますよ! ウチらはキミを助けに来たんでス! さあ、行きましょう!」
コレットはサリアの頭を撫でると、その小さな身体を抱きかかえる。
そしてそのまま離脱しようとした――その矢先、
「――ッ! 家の中に隠れろ! 早く!」
サルヴィオが叫んだ。
直後、向かい側の家を破壊して
おそらくヴィリーネたちに吹っ飛ばされたのだろう。
急いで3人は中へ回避するが、勢いを殺し切れなかった
「うひゃあッ!」
サリアを守るようにうずくまるコレット。
同時に、巨大な骨の口先がコレットたちへと向く。
『ォォォゴオオオ……』
動きこそ一瞬止まったが、どうやら
今にも喰らい付こうと、頭を動かし始める。
「こンの――ッ! こっち見んじゃねぇよ骨ヤロウが! 喰らえや必殺、〈衝撃・俺様斬り〉ッ!」
サルヴィオは鞘ごと腰の剣を取ると、棍棒を扱うように勢いよく振り抜く。
彼が繰り出したのは鋭い斬撃技ではなく、鈍く重い打撃技。
その一撃の威力は凄まじく、
「ヒャハハハァ! 見ぃたかぁ、この俺様の力ァ! これが特訓の成果だぜぇッ!」
「す、凄い……! 流石っス、サルヴィオの兄貴!」
「ぃよし、俺様はこのままアイツの注意を逸らす。テメエらは隙を見て、避難場所まで走れ」
「え? で、でもそれじゃ――!」
「バッカお前、こういう時は攻めに出た方がいい結果になンだよ! 今の一撃は合図にはなったろうが、ヴィリーネたちはこっちの居場所までは把握してねぇはずだ。だったら俺様が動いた方が間違いない。だろォ?」
――いつものように、下品な笑みを見せるサルヴィオ。
そんな普段通りの彼を見て、コレットは任せることを決めた。
「……わかりました、頼みまスよ兄貴。でも絶対に……死んだりしちゃイヤでスからね!」
「あぁ? 誰に対して言ってんだお前。俺様は最強のSランク冒険者、サルヴィオ様だぞ? 最強で無敵のヒーローが死ぬワケねぇだろうが。そんなくだらねぇこと考えるより、テメエは自分の心配でもするんだなぁ、ヒャハハ!」
そう言い残し、サルヴィオは飛び出して行く。
残されたコレットは、見えなくなるその瞬間までサルヴィオの背中を目で追った。
「兄貴……」
――陽動のために飛び出したサルヴィオは大きく跳躍し、家屋の屋根の上に飛び乗った。
さっき吹っ飛ばした
遅からずヴィリーネやマイカも到着し、すぐに戦いに加わってくれるだろう。
それまで存分に暴れて、注意を引けばいい。
「ヒャハハ……さぁて、十二分に俺様の力を見せつけてやるかぁ。見てろよクソドラゴン、Sランク冒険者の恐ろしさ、たっぷりと味わわせて――」
サルヴィオは自らを鼓舞するように笑い、今度こそ鞘から剣を抜き取ろうとする。
すると、ふと背後に人の気配を感じ取った。
彼はすぐに気付く、これは同じ冒険者だと。
「あん? なんだ、同業者か? お前も加勢に――」
来てくれたのか、と振り向きざまに言おうとした刹那――――
刃の一閃が、彼を襲った。
「え……?」
サルヴィオの身体から、鮮血が飛び散る。
その一太刀は、鎧ごと彼を斬り捨てたのだ。
「……」
「て、テメエ……よくも――」
サルヴィオは反撃の暇もなく、屋根の上から転落する。
そんな彼を狂気に呑まれた瞳で見下ろす、赤茶色の髪を持つ端正な顔の男――
サルヴィオを斬り捨てたのは『アイギス』のパーティリーダー、クレイだった。
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