第22話 キミ……自分の能力に気が付いてるよね?


※前回1話分抜け落ちておりました。申し訳ありません。



 ――やっぱりな。


 彼女の〝隠しスキル〟がサイラスの弱点を補ってた。


 ……というか凄くないか、コレ?


 絶対的な魔術量の減少の代わりに、物理攻撃を3回まで無効化して、永続回復が付いて、しかも仲間を魔術攻撃や状態異常から守るって……


 確かに魔術量が少なければ攻撃の回数は減るかもしれないが、だからといってこの能力は替えが効かない。


 デメリットを鑑みても、超が付くほど有能だ。


 さっきも魔力量が少ないとか言ってたし、この〝隠しスキル〟が発動してたのは間違いない。


 サイラスは完全に思い違いをしているのだ。


 マイカのバフを自らの能力と思い込むとは――愚かな。


「サイラス、話を聞いてよ! アタシがいなきゃ、アンタは――!」


「ん? なんだ、魔術攻撃からパーティを守るのは、魔術師の役目だと言うつもりか? お前だって、俺の盾が何度も魔術を弾いているのを見ただろう。今更そんなことを言ってまですがり付くのは見苦しいぞ、マイカ」


「っ! そ、それは……」


 ……おや?


 なんだか含みのある言い方だったな?


 これはもしかして――彼女自身、自分のスキルに気付いてる?


 だとしたら、何故申告しないんだ?


 自分の有用性を証明すれば、必ずまたパーティに必要とされるだろうに。


 ……ともかく、自覚があるなら話が早い。


 俺はさっそく話しかけてみることにする。


「あの~……すみません、ちょっといいですか?」


「なによ! こっちは取り込んでるの! 後にして!」


 おうふ、スカウトしようと思っている追放者マイカから威嚇されてしまった。


 だが、めげるんじゃないぞアイゼン・テスラー。


 彼女は『追放者ギルド』に絶対必要な人材だ。


「いや、失礼。ただ言わせてほしいんだけど――マイカちゃん? キミ……自分の能力に気が付いてるよね?」


 俺がしょっぱなから切り込むと、マイカはギクッとして面食らった様子を見せる。


「な……なんの話よ……。アンタ、何者?」


「俺はアイゼン・テスラー。『追放者ギルド』っていう新興ギルドのギルドマスターをやってるんだ。よければ、少し話をしたい」


「『追放者ギルド』……? 聞かぬ名だな」


 クレイは訝し気に眉をひそめる。


 聞いたことがないのは当然だ。


 今日創設申請したくらいだし。


「そりゃ、できたてホヤホヤのギルドだからね。それで話を聞かせてもらったけど、アンタたち『アイギス』はマイカちゃんを追放するんだよな? だったらウチが雇ってもいいか?」


 俺の言葉に、クレイたち『アイギス』のメンバーは一瞬顔を見合わせる。


 多少なりとも面食らったのだろう。


 ヴィリーネの時と同じだ。


 しかしクレイはすぐに俺を見て、


「ふん、好きにするがいい。どうせ我らにはもう関係のない話だ。それにできたばかりのギルドならば、弱者でも役に立つかもしれんな! ハハハ!」


 その言い様は、あからさまに新興ギルドの『追放者ギルド』も見下した感じである。


 正直、ちょっとカチンとくる。


 まったく、どうしてSランクパーティのリーダーって奴はこういう性格が多いんだろうな。


「ちょっと、勝手に決めないでよ! アタシは追放なんて認めないって言ってんでしょうが!」


 話題の主を無視するなとばかりに、シャー!と耳の毛を逆立ててマイカが怒る。


 小動物っぽくてちょっとかわいい、なんて思ったり。


「愚か者が、これは決定事項だと言っているだろう。それとも、ギルドマスターであるヴォルク様に意見しに行くか? 命令に背いた罰で、冒険者ギルド連盟から永久追放されねばよいがな」


「ぐ……ぅ……!」


 もはや言い返すこともままならないマイカ。


 冒険者にとって、ギルドマスターの決定は絶対。


 逆らうことなどできないのだ。


 とはいえ、ギルドマスターが1人の冒険者を名指しすることは稀なはず。


 おそらくこのクレイという男は、ギルドマスターヴォルクのお気に入りなのだろう。


 ヴォルクって言えば、確か大手冒険者ギルドの1つである『ヘカトンケイル』のギルドマスターにして〝四大星帝クアッド・マスターズ〟の1人だ。


 冒険者ギルドの界隈じゃ、超が付くほどの大物。


 それに噂だと、気性が荒く弱肉強食を好むとか。


 そんな雲の上の人物に、追放されそうな冒険者が直談判しに行くなんて――もう自殺行為に近しい。


 文字通り、マイカは所属ギルドからも見捨てられたのだ。


 彼女の怒りと絶望は、察するに余りある。


 だが――言い方は悪いが、これは彼女にとっても転機だろう。


「……マイカちゃんは、ギルドマスターから追放のお墨付きをもらった、で間違いないか?」


「フっ、先程からそうだと言っているが」


「そうかい、そりゃマイカちゃんは幸せ者だ。だって節穴な目を持つパーティリーダーとギルドのボスから、離れることができるんだからな」


「え……?」


 驚くマイカ。


 同時に――俺の言葉に、クレイの様子が一変する。


「……なんだと?」


「節穴だって言ったんだよ、アンタとヴォルクの目は。大層な身分になるまで冒険して、それでもステータスしか見れないなんて。オマケに、マイカちゃんの貢献を自分たちの力だと勘違いしてるアンタたちは……もうボンクラとしか言いようがないな」


 俺はハッキリと言ってやる。


 こうでも言ってやらないと、マイカがあまりにも気の毒だったからだ。



 そして次の瞬間、クレイの腰の剣が抜き放たれ、俺の首目掛けて飛んできた。

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