第9話 サルヴィオの受難②
「なんだ……!? 悲鳴……!?」
「い、行きましょうアイゼン様!」
これは――冒険者に危険が迫っている!
瞬時にそう判断した俺たちは、考えるよりも先に走り出した。
今この2人で、なにができるかなんてわからない。
でも、放っておくことなんてできるか――!
長い通路を駆け抜けると――開けた広い空間に出る。
そこには――
「た、助けてくれええええええええええッ!」
なんと、サルヴィオの姿があった。
俺と会った時は新品同様の小綺麗な鎧をまとっていたが、それはボロボロに破壊されて泥と血に塗れ、なんとも情けない姿になってしまっている。
剣も折れ、恐怖でカチカチと歯を鳴らし、とてもSランク冒険者の姿とは思えない。
そんなサルヴィオは巨大なロック・ゴーレムに襲われており、今にも岩の拳で叩き潰されそうになっていた。
「リーダー!? どうしてここに……! ――このっ……!」
ヴィリーネも大きく困惑した様子だったが、すぐに剣を構えてロック・ゴーレムへと向かう。
幸いにもロック・ゴーレムはこちらに背を向けており、すぐに振り向く様子はない。
そして間合いに入ったところで、ヴィリーネは大きく跳躍し――
「たあああああッ!」
ロック・ゴーレムの後ろ首、そのほんの僅かに空いた隙間へと、剣の切っ先を突き刺した。
直後、ロック・ゴーレムがまるで糸の切れた操り人形のように地面へと倒れる。
奴の弱点(コア)を破壊したのだ。
これが【第6超感】の〝モンスターの弱点を見極める〟能力か――!
あの巨大なロック・ゴーレムを一撃で――!
「ヴィリーネ! 凄いじゃないか! 大手柄だ!」
「あ……わ、私、身体が勝手に動いて……」
「これでわかったかい? キミは決して弱くなんかない。能力を上手く使えば、こんな大物を仕留めることだってできる。勿論仲間との連携も必須になるけど、それは追々考えればいいさ」
「はい……はい!」
ようやく少しだけ自分に自信がついたのか、大きく首を縦に振るヴィリーネ。
さて――俺たちは悲鳴の主を助けに来たワケなのだが――
「た、た、助かっ……!」
あわやサルヴィオも押し潰されたかと思ったが――どうやら無事のようだ。
完全に腰を抜かしてしまっているが。
ヴィリーネはそんな彼へ歩み寄ると、
「リーダー、大丈夫ですか? どうしてこんなところに……それに他の皆は……」
「ヴ、ヴヴヴィリーネ……? み、みみ皆やられちまった……もう残ったのは俺だけで……!」
――リーダーを残して全滅、か。
遅かれ早かれこうなる運命だろうとは思ったが、まさかヴィリーネを追放してすぐとは……
そもそもパーティの力が足りなかったのか、それともヴィリーネのスキルが有能すぎたのか……
サルヴィオはヴィリーネの足にしがみつき、
「た、たた助かったぞヴィリーネ! お前は命の恩人だ! つ、追放なんてしたのは間違いだったぜ! 今からでも戻ってきてくれるな!? Sランクパーティである『銀狼団』の、ナンバー2にしてやる!」
「リーダー……私はもう――」
「戻ってきてくれ! 頼む! お前は凄い能力を持ってるんだ、そうだろ!? 俺が存分に役立ててやる! なにが欲しい!? 金か!? それとも名誉――」
そこまで言いかけたサルヴィオは、ヴィリーネの顔を見上げて言葉を失った。
酷く残念で、がっかりする物を見た――ヴィリーネはそんな表情をしていたのだ。
……このサルヴィオという男は、本当に救えないな。
ここまで追い詰められて、彼女の重要性を理解しても、彼女の気持ちがわからない。
何故わからないのか――?
それは仲間を仲間として、仲間を〝1人の人間〟として見ていないからだ。
ステータスなどという数値でしか仲間を判断していなかった結果が、今なのである。
「リーダー……いえ、サルヴィオさん……私はアイゼン様と共に行きます。アイゼン様は私を1人の人間として、ちゃんと見てくれます。ちゃんと話を聞いて、ちゃんと理解しようとしてくれます。なのに……あなたはステータスとか能力でしか、私を見てくれません」
「そ……そ……それは……」
「私はお金なんていりません。名誉なんていりません。アイゼン様は、私が欲しかったモノを与えてくれました。アイゼン様は――あなたとは違うんです」
ヴィリーネは静かにサルヴィオから離れる。
しがみつく彼の手を、足から離す。
俺は近寄ってきたヴィリーネの肩に手を乗せ、サルヴィオを見据える。
「……結局、アンタは最後まで仲間を理解できなかったな。数値や能力ばかりに執着してパーティを全滅させるようじゃ、パーティリーダー失格だ。二度とやらない方がいい」
「――――」
茫然自失するサルヴィオ。
やや気の毒な気もするが――自業自得だな。
その時、他の冒険者パーティが駆け付けてくる。
どうやらダンジョン攻略をしていた別のパーティらしい。
「おい、大丈夫か! 叫び声が聞こえたが――!」
「ああ、この人がモンスターに襲われてたんだ。すまないが、彼を地上まで連れていってくれないか? 俺たち2人は深部に潜る必要があるんだ」
「そ、それは構わんが……しかし酷い怪我だな……」
冒険者パーティは手慣れた感じでサルヴィオの手当てを始める。
どうやら、この感じなら大丈夫そうだな。
「行こうヴィリーネ」
「……はい」
俺とヴィリーネはそんなサルヴィオたちを背後に、地下迷宮ダンジョンを奥へと進むのだった。
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