第10話 『追放者ギルド』結成


 地下迷宮ダンジョンをさらに深くへと進む俺とヴィリーネ。


 自分の能力に確信を持ったヴィリーネの足取りは軽く、迷うことなく奥へ奥へと進んでいく。

 そうして――俺たちはようやく、深部の広場へと辿り着いた。


 そこは天井に穴が開いて遥か上の地上と繋がっており、日光が差し込んでくる。

 お陰でこれまでの石壁と石畳だけの殺風景な道程とは異なり、所々に草木が生い茂っている。

 地下迷宮ダンジョンの中にこんな場所があったとは、驚きだ。


「ここが依頼にあった目的地か……。ヴィリーネ、周囲にモンスターの気配はあるか?」


「いえ、ありません。でも……長居はしない方がいいかも」


 気配はないと言うが、彼女は周りを警戒し続ける。

 どうやら広場は複数の道と繋がっているらしく、他のルートを通ってもここに着くようだ。


 ……なるほど、雰囲気的にもここはモンスター共の通り道ってことか。

 そりゃ長居はできないな。


「しかし、この中から目的の物を探し出すとなると……そう短時間で済むかどうか……」


「――大丈夫です。ペンダントは、あそこにあります」


 「え?」と俺が聞き返すのよりも早く彼女は歩き出し、生い茂る草の中へ入っていく。

 そしてガサガサと草をかきわけると――泥で汚れた錆びだらけのペンダントを拾い上げた。


「それは――!? そのペンダントが依頼の物なのか……?」


「たぶん、そうかと。私のスキルは、こういう物の探索にも役立つみたいです」


 フフっと笑うヴィリーネ。

 どうやら、自分の能力を試してみたらしい。


 ――驚きだ、まさか【第6超感】にこんな力まであるとは。

 確かに優れた直感を持つとは書いてあったが、隠しアイテムの発見にまで転用できるなんて便利過ぎるだろう。


 ともかく、探す手間が省けたのは好都合だ。

 最後に念のため――


「一応、ペンダントの中を確認しておこう。どうやら開閉するらしくて、中には――」


「あ……これ……」


 錆び付いたペンダントを開いて中を見たヴィリーネは、少し驚いたようだった。

 俺も彼女の横から、その中身を覗き見る。

 すると、そこにあったのは――


「小さく文字が掘ってあります……。〝我ら『ダイダロス』は永遠の絆で結ばれる〟〝ジェラーク〟〝アロイヴ〟〝アレクラス〟〝シャロレッタ〟……」


「これは……冒険者パーティが仲間の証を彫ったんだな。依頼書によると、元冒険者の依頼主はダンジョン攻略の最中に味方を全員失ったらしい。当人も酷い怪我を負って引退。最後の冒険で落としたこのペンダントが忘れられないから、拾ってきてほしいってことだったが……」


 なるほど……これは大事な物なのだろう。


 仲間との絆の証――

 仲間たちと一緒に冒険した証――

 そして、仲間たちが確かに生きていた証――


 依頼主は、よほどパーティメンバー想いだったに違いない。

 だから多額の報酬を用意してまで、このペンダントを探してきてほしかったのだ。

 この――大事な仲間との思い出を。


「……世の中の冒険者はいい奴ばかりじゃない。サルヴィオみたいに仲間を大事にしない奴もいる。だけど……心の底から仲間を大事にして、最後まで覚えていてくれる人もいるんだ。まだまだ……世の中捨てたもんじゃないな」


「ええ……そうですね、本当に……」


 ヴィリーネは、ペンダントを大事にポーチにしまう。


 そして無事依頼品を回収した俺たちは、そそくさと地下迷宮ダンジョンから脱出したのだった。


 ◇  ◇   ◇


「……信じらんない、本当に依頼品を持って帰ってくるなんて……」


 冒険者ギルド『アバロン』まで戻った俺たちを見て、カガリナは天変地異でも目撃したような顔で出迎えてくれた。


「だから言ったろ、大丈夫だって。学友の言うことは信じるもんだ」


「ち、調子に乗んじゃないわよ! こっちはどれだけ心配したと思って――っ!」


「心配してくれてたのか、優しいなカガリナは」


「――っ! 死ね! 死ね! この唐変木!」


 紙の束を丸めた物でポカポカと殴ってくるカガリナ。

 いやはや、俺はいい友人を持ったものだ。


「それより確認してくれよ、本当にこのペンダントなのか?」


「確かに間違いないみたいだけど……はぁ、本当にこんな無茶はこれっきりにしてよね。冒険者でもないアンタの死亡届けを出すのなんてゴメンよ。はい、報酬。これだけあれば、ヴィリーネちゃんと分けてもしばらく楽できるでしょ」


「ああ、ありがとう。……でも楽する気はないよ。むしろこれからギルド活動を本格化させていくつもりだ。俺の取り分は、その資金にする」


 俺は報酬の入った袋を受け取ると、鞄にしまい込む。


「俺のギルドの名前、決めたよ。その名も――『追放者ギルド』。追放者を集めて、彼らが存分に本領を発揮できる環境を作る。追放者による追放者のための組合を作るんだ。どうだ、いいだろ?」


「いいだろ、って……『追放者ギルド』ってそれ、そもそもギルド名なの? はいはい、いいと思うわ。もう好きにしなさいよ」


「そうするよ。それじゃあな、カガリナ。また顔を出すよ」


 そう言い残して、俺は扉を開けて外へ向かう。

 そして1歩外へ出ると、


「お疲れ様です、アイゼン様! ど、どうでしたか……?」


 そこには、やや不安そうな表情で報告を待つヴィリーネの姿があった。


「ああ、あのペンダントで合ってたよ。報酬もたんまりだ」


 報酬で受け取った袋の入った鞄をパンパンと叩く俺。

 とはいえ、この大量の金貨はヴィリーネの手柄だ。

 分け前は、まあ――


「それじゃ、宿を取ったらさっそく分けようか。分け前は8:2でどうだろう。ヴィリーネが8割、俺が2割だ」


「!? は、8:2……!? お、おかしいですよ! 私が8割なんて……そんなに頂けません!」


「いや、これでも少ないくらいだ。実際、俺はただヴィリーネの後にくっ付いていただけだしな。ダンジョンを踏破したのも、ロック・ゴーレムを倒したのも、ペンダントを見つけたのも、全部キミの手柄だろう。もし断るなら、分け前を9:1に変えて9割を力づくで渡すぞ」


「ふえぇ!? ど、どんな脅しですかそれ!」


 こうでも言わなきゃ、奥手な彼女は報酬を受け取ってくれないだろう。

 だが、それはダメだ。

 彼女も冒険者なら、その実力と成果に見合った報酬を受け取るべきなのだ。

 あまり金銭に執着しない性格なのかもしれないが、俺はそういう部分はできるだけしっかりしていきたい。


 ヴィリーネはしばし悩んだが、


「……わかりました、その報酬はありがたく頂きます。ですが――それをどう使うかは、持ち主の自由ですよね?」


「え? そりゃまあ……そうだが……」


「でしたら、私の報酬は全て〝アイゼン様が築くギルドの創設費〟に使います。断りなんて聞きません」


「は――はぁ!? そんなのダメに決まって――」


「もし断るなら全額アイゼン様の口座に振り込んで、アイゼン様を〝女の子に多額の金貨を貢がせたギルドマスター〟にしちゃいます」


 ――怖い。

 そんなことされたら冒険者ギルド連盟から干されるどころか、一般の人々からも白い目で見られてしまう。

 いやはや、1本取られてしまった。


「ハ、ハハ……ヴィリーネ、キミって実は、結構したたかなところあるよね……」


「勿論です! 私はアイゼン様に認めてもらった、初めての追放者なんですから! これからもずっと、あなた様のお役に立ってみせますね♪」

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