第26話 そして仲間がまた1人


※前回またも1話分抜け落ちておりました。申し訳ありません……!



「マ――マイカ!」


「決めたわよ、マスター。アタシは『追放者ギルド』に入る。『ビウム』での借り、返させてもらうわ」


 入り口に立っていた獣人族の少女――それは見紛うことなく、俺がスカウトしたマイカ・トライアンフその人だった。


 マイカはスタスタとこちらに歩み寄ってくると、


「ちょっとだけ話を聞かせてもらったわ。アクア・ヒュドラを狩るんですって? 面白い、やってやろうじゃない」


 俺の隣に立ってテーブルに手を置き、フフンと不敵に笑って見せる。


「信じてたよ、絶対来てくれるってな」


「……この一件が終わったら。アンタにはアタシの秘密を背負ってもらうわ。その代り、アタシの能力を使っていいから。勿論、他言無用の絶対禁句って約束でね」


「え、えっと、どちら様……?」


 突然現れた彼女に、カガリナは困惑気味に尋ねる。


 まあ、この場で彼女の顔を知っているのは俺だけなのだから無理もない。


「彼女はマイカ・トライアンフ。俺が『ビウム』でスカウトした追放者だよ」


「どうも、初めまして。魔術師兼追放者のマイカよ。これからはナンパ上手なマスターの下で働かせてもらうから、よろしくね」


 気さくに挨拶するマイカ。


 どうやら、自身がSランクパーティを追放されたことは心の整理がついたみたいだ。


 ……何故か「ナンパだぁ……?」とカガリナが凄い目でこっちを睨んでくるが、目を合わせないようにしよう。


 仕方ないじゃん、だってスカウトも仕事の内だし。


「それで、『追放者ギルド』で戦えるのはアタシを含めて2人なんでしょ? 相棒になってくれるのは誰?」


 マイカはテーブルに座るカガリナやライドウさんを見渡す。


 だが、彼らは一様に同じ方向を指差した。


「ふ……ふぇあ……」


 まだ気絶したまま床に倒れ、目をグルグルと回すヴィリーネ。


 よほどアクア・ヒュドラと戦う未来が恐ろしかったんだろうな……


 マイカは不安気にヴィリーネの頬をツンツンと触り、


「……この子が最初の団員で、アタシの相棒なの? なんていうか……少し頼りないわね……」


「ア、アハハ……彼女はヴィリーネっていって、強力な〝隠しスキル〟を持ってるのは間違いないから……」


「ふうん……マスターがそう言うなら、信じるわ。ホラ先輩、起きて」


「ふぁ……? あ、あなたは……?」


「アタシはマイカ・トライアンフ。新しく『追放者ギルド』に加入した新人追放者よ。よろしくね、ヴィリーネ先輩」


「新人……先輩…………せ、先輩ぃ!? ど、どういうことですかぁ!?」


 起きた途端に情報過多になっている状態に、激しく狼狽するヴィリーネ。


 相変わらず可愛らしい反応をしてくれるなぁ。


 そんな俺たちのやり取りをみたライドウさんは、愉快そうにフッと笑った。



「いやはや、コイツぁ……やっぱり、あのジジイの勘は外れねぇってかい」



   ◇ ◇ ◇



 アイゼンたちの『追放者ギルド』に、マイカが加入する数時間ほど前――


「フン……アクア・ヒュドラか、このクレイ様と『アイギス』の相手として、不足はない」


 マイカを追放し、ヒルダという死霊使いネクロマンサーをパーティメンバーにした『アイギス』は件の洞窟ダンジョンへ踏み込んでいた。


 ヴォルクがアクア・ヒュドラ討伐を準備させていたSランクパーティ、それこそがクレイをパーティリーダーとする『アイギス』だったのだ。


「ヴォルク様が『アイギス』の実力を見込んで任せて下さったこの依頼……手早く終わらせて、我らが力を証明して見せねば。なぁ、サイラス?」


「ああ、勿論だ。なぁに、この俺がいればアクア・ヒュドラの攻撃なんぞ簡単に無力化できるんだ。多頭の蛇など、雑魚も同じよ」


 まるで余裕の態度を崩さず、洞窟を奥へと進む2人。


 ――もっとも、この余裕は新メンバーを前にカッコつけたいだけなのだが。


「頼もしいわぁ、2人とも♪ もしかすると、私の出番はないかしらぁ……」


「そんなことはないぞ、美しいヒルダよ。お前の恐ろしき死霊術、存分に振るうがいい」


 まるで警戒する様子もなく、いつも通りの仕事だとばかりに彼らは進む。


 そして――洞窟を抜け、巨大な地底湖のある開けた場所へ出た。


 湖は一見すると静まり返っており、静寂そのもの。


 だが、その静寂は偽りであると3人はすぐに見抜いた。



『シュルル…………ショオオオアアアアアアアアアアッ!!!』



 クレイたちの気配を察知したのか――湖の水面の下から甲高い鳴き声と共に巨大な蛇の頭が出現する。


 それも1つ、2つ、3つ――合計7つの頭を持つ巨大な多頭の怪物が、その全貌を露わにした。


「ほう……ヒュドラは9つの首を持つはずだが、アクア・ヒュドラは7つなのだな」


「そりゃ楽でいい、潰す頭の数が減るからな」


『ショアアアアア!』


 アクア・ヒュドラの首の1つが大きく口を開け、魔力で水を圧縮する。


 大型モンスターがよく使う、ブレス系の魔術を使う気だ。


 それを見たサイラスが前へ出て、大きな盾を構える。


「よし、2人共下がってろ! あんな攻撃いつも通り、この俺の盾で――ッ!」


 次の瞬間、アクア・ヒュドラの口からウォーター・ブレスが放たれる。



 その刃の如く鋭いブレスは――大きな盾ごと、サイラスの身体を真っ二つに両断した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る