第36話 真打ち?登場


「それでそれで、その時はウチのハルバートでこう、ズバーッとマイコニドを倒したんスよ! あの時は最高に気持ちよかったっスね!」


 『ビウム』でジェラーク総代と謁見してから2日後――


 『デイトナ』に帰ってきた俺は、コレットと共に買い出しに出ていた。


 生活用品がパンパンに詰まった紙袋を抱え、彼女と一緒に街を歩いている。


 ちなみに、ヴィリーネとマイカはお留守番。


「しかし、コレットはよく喋るね。俺は楽しいけど、疲れない?」


「いーや全然! ウチは元気が取り柄なんで、コレをなくしたらなにも残らないっス!」


 うーん、以前はガッツと根性が取り柄って言ってた気がするなぁ。


 まあ取り柄が多いのはいいことだ。



 ――俺がコレットと2人で出掛けたのも、地味にワケがある。


 〝コレットという冒険者の意志を問うてみるがよい〟というジェラーク総代の助言を聞いて、実際に尋ねてみようと思ったのだ。


 しかし改まって部屋の中で面談するよりも、彼女みたいな性格の場合は買い物ついでに話した方がリラックスできるはず。


 リラックスした方が真意を打ち明けやすいだろう――と思って今に至る。


「ねぇコレット、キミはどうして冒険者になろうと思ったんだい?」


「へ? ウチっスか?」


 ん~……とコレットは考えた後、


「そりゃ、冒険者が好きだからっスよ!」


 ――えらいスッキリとした答えが返ってきた。


「……それだけ? なんかこう、やらなきゃいけない理由があるとか――」


「じゃあ逆にお聞きしますケド、マスターさんはどうして『追放者ギルド』のギルドマスターをやってるんでスか?」


「え、俺は……」


 そんなの、決まってる。


 俺は――


「……俺が『追放者ギルド』を創ったのは、ステータスだけを理由に追放される冒険者がいるのを許せなかったからだ。冒険者にとっての価値はステータスだけじゃない。それに追放者は誰しもが特別な能力を持っている。俺は、世の中にそれを示したいんだよ」


「カッコいいっス! 流石はマスターさん、尊敬しまス!」


 目を輝かせながら、こちらへ羨望の眼差しを向けてくるコレット。


 ――しかしすぐに前へ向き直ると、


「……正直ウチには、そういう大きなこころざしとか理想はないんスよ。でも、冒険者を辞めるつもりはありません。ウチは子供の頃から冒険者に憧れて、いろんな冒険者の話を聞いたり、冒険者を真似してチャンバラやったり……。冒険者になった今も、続けていられるようにそれなりの努力はしてきたつもりっス」


「……」


「ウチは冒険者になりたい。冒険者でいたい。冒険が好きで、だから冒険者をやるんだって……。それ以外の生き方を知らないんスよ。おかしな話っスけど、冒険者になった今でも冒険者に憧れてるんスよね」


「コレット、キミは――」


 堪らなくなって口を挟もうとした俺を、「マスターさん」とコレットが塞き止める。


「マスターさんは、他人の〝隠しスキル〟っていうのが見えるらしいっスね」


「! 誰からそれを……!」


「ヴィリーネさんが教えてくれました。なんていうか、ちょい口が滑った感じはありましたケド」


 ヴィリーネが――


 なるほど、お人好しな彼女のことだ。


 うっかり口が滑って、そんな彼女の口を察しのいいマイカが塞いでいる様子がありありと想像できる。


「マスターさん、もしかしたら……ウチは、そんなに強力な〝隠しスキル〟を持ってないんじゃないっスか?」


「ど、どうしてそう思うんだい? キミにはキミの良さが――」


「わかっちゃいまスよ。ヴィリーネさんやマイカさんは同じ追放者でもあんなに強いのに、ウチは全然……でスから」


 俺は、言葉を返せなかった。


 まさか彼女がそこまで感づいていたなんて。


 コレットは少し寂しそうな顔をしながら、


「マスターさんがウチをお傍に置いてくれるなら、なんでもしまス。どんなことだってやりまス。だけど……やっぱりウチがマスターさんや『追放者ギルド』の足を引っ張るようなら、どうか追い出してください。大丈夫! ウチは1人でも冒険者を続けまスから!」


 誤魔化すようにアハハと笑ってみせるコレット。


 ――確かに、彼女には〝隠しスキル〟がない。


 このままヴィリーネたちと一緒に冒険を続ければ……言いたくないが、足を引っ張ってしまう可能性は少なくない。



 だが――だがそもそも、〝隠しスキル〟が〝ない〟なんて、そんなのあり得るのだろうか?



 〝隠しスキル〟とは、言い換えればその人の能力、その人の才能だ。


 なんの才能もない、なんてフレーズはよく使われるが、そんな人はいないと俺個人は思っている。


 それはその人が能力を発揮できない、あるいは正当な評価をされない環境に身を置いているだけだ。


 かつてのヴィリーネがそうだったように。



 〝時には、目よりも耳が真実を――〟



 ジェラーク総代が教えてくれた言葉が、俺の頭の中で想起する。


 そしてこれまでコレットの口から出た言葉を、今一度心の中で噛み締める。



 もしかしたら――もしかしたら、彼女の〝なし〟という能力は――



 そう思った矢先――路地を進んでいた俺たちを、3人の男たちが取り囲んだ。


 格好から見て冒険者のようだが、どうにも穏やかな感じではない。


「……なんだ、アンタたち」


「よぉ、お前らだろ? 今噂になってる『追放者ギルド』ってのは?」


「ああ、そうだが。俺たちになにか用か?」


「しらばっくれんじゃねぇよ。アクア・ヒュドラを討伐したとか言われてるが、どうせ賞金欲しさにイカサマしたんだろ? 追放者風情が、舐めた真似しやがって!」


 やっぱり、そういう手合いか。


 追放者がアクア・ヒュドラなんて倒せるワケがない――そう思い込んでる冒険者は多い。


 少し脅かしてやれば口を割って、それをダシに金をくすねてやろうとでも思ってるんだろうな。


「ムカつくんだよなぁ、追放者の分際でチヤホヤされやがって。俺たちがいっぺんわからせてやるぜ」


「な、なんスかアンタら! 言い掛かりも甚だしいっス! そんなに喧嘩がしたいなら、ウチが相手してやるっスよ!」


 紙袋を地面に置き、拳を掲げて臨戦態勢を取るコレット。


 やれやれ、冒険者との揉め事は避けたいんだけどなぁ……


 そう思って、俺がため息を吐いた時――




「――おい待て、その人に用があるのは俺様の方なんだよ。雑魚はすっこんでろ」




 そんな男の声が、俺たちの間に割って入った。


「あぁ……? 誰が雑魚だって!? 邪魔すんならテメェも――ふ゛へ゛ら゛っ!」


 荒くれ者の冒険者が振り返った刹那、彼の顔面に拳がクリーンヒット。


 そのまま華麗に宙を舞い、顔を大きく凹ませたまま遠くのゴミ捨て場まで吹っ飛んでいった。


「ヒャハハ……このSランク冒険者の俺様を、どうするって? ステータスだけなら、テメェらみたいな格下よりずっと強いんだけどよ」


「え、Sランク!? やべえぞ、逃げろ!」


「ひ、ひええええ!」


 残った荒くれ者の冒険者たちも、我先にと逃げ出す。


 なんだか助けられてしまった。


「久しぶりだなぁ、探したぞ。お前に会うために……俺様は地獄のどん底から這い上がってきたぜ!」


 俺たちを助けてくれた冒険者は、騎士風の鎧を着た人相の悪い男だった。


 この顔は――見覚えがある。


「お前は……!」




「ヒャハハハ! そうだよ、俺様だ! 『銀狼団』の元リーダー、サルヴィオ様だよ!」


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