第3話 それでもSランク冒険者か?


「ふぇ……?」


 俺の言葉を聞いたヴィリーネな泣き止み、キョトンとした表情でこちらを見る。

 同様に、サルヴィオを始めとした『銀狼団』のメンバーも面食らった感じで、呆然とする。

 俺の登場が、あまりにも予想外だったのだろう。


 俺はもう1度口を開き、


「その子の脱退届けは、もうギルドに出したんですよね? じゃあヴィリーネちゃん?はウチで預かるので。文句は聞きません」

「な……な……なんだぁ!?  てめぇ、どこのパーティのモンだ!?」

「どこのパーティの者でもありません。なんなら冒険者でもない。俺は新興のギルドを立ち上げたばかりで、団員のスカウトをしているんですよ。とても有能な冒険者がフリーになったようなので、声をかけたんです」


 ――そう、俺は決めた。


 俺は冒険者ギルドには入らない。

 俺は、俺自身の手でギルドを作る。


 大勢の追放者を集めて、追放者による追放者のための組織を作り上げるんだ。

 そして追放者は無能なんかじゃないってことを、世界に知らしめてみせる。

 

 これは、その決意の表れ。

 まだ名もない新興ギルドの第1歩だ。


「新興のギルド……だとぉ……?」


 俺の発言を聞いて、面食らっていたサルヴィオは不敵な笑みを浮かべる。


「ヒャハハ……やめとけやめとけ、人集めで手当たり次第に声をかけてんのかもしれねぇが、優しい俺様が忠告しといてやるよ」


 彼は肩をすくめると、ヴィリーネを指差した。


「コイツは〝ビリのヴィリーネ〟つってな、俺たちパーティの中でもダントツにステータスが低いんだわ。攻撃力も防御力も体力もスタミナも、全ステータスが最低値。オマケに臆病なせいで戦闘じゃとんと役に立たねぇ。雇ってもお荷物になるだけだぜ? おいヴィリーネ! お前のステータスを見せてやれよ!」

「うぅ……はい……」


 従う必要もないのに、命令されるがままステータスを表示するヴィリーネ。

 素直な性格なのだろうが、彼女の場合他人に従順すぎるかもしれない。


 そしてヴィリーネが手首に巻いた〈ステータス・スカウター〉を起動させると、空中に光の文字が浮かび上がる。


===============


ヴィリーネ・アプリリア


体力:763

スタミナ:612

魔力:215


攻撃力:596

防御力:588

素早さ:843


===============


 これが彼女のステータス……

 なるほど、確かにSランクパーティの冒険者としてはお世辞にも高いとは言えない。


 世間一般では、Sランクともなると各ステータスが4桁なのが普通。

 全て3桁を超えないのでは、せいぜいAランクが限界だろう。


 それにしても――見れば見るほど、意味のない数値だ。


「見ろよ、どれも3桁超えないんだぜ? 他のメンバーは全員4桁だってのにさぁ。ちなみに、パーティリーダーである俺様のステータスはこんなに――」


 サルヴィオは嘲笑しながら、比較のために自らの〈ステータス・スカウター〉を操作してステータスを表示する。


 対して、もう聞くにも見るにも堪えないとため息を吐いた俺は、ヴィリーネに手を差し伸べる。


「もう消していいよ、ヴィリーネちゃん。さ、手を出して」

「え? は、はい……」


 ステータス表示を消したヴィリーネの手を取ると、俺は彼女の手首から〈ステータス・スカウター〉を外し、ポイっと投げ捨てた。


「はえっ!?」

「これでキミは、もう数値に縛られることもない。俺がヴィリーネちゃんの本当の価値を教えよう。一緒に来てくれるかい?」

「え、あ、あの……はい……! こ、心の整理がつかないですけど、ご一緒させて頂きます!」


 ヴィリーネは一瞬戸戸惑いを見せたが、すぐに力強く首を縦に振ってくれた。


 そんな光景を見たサルヴィオたちは開いた口が塞がらないといった顔で、


「んなっ……お前、頭イカレてんのか!? 〈ステータス・スカウター〉を捨てるなんざ……!」

「俺の頭はイカレてないし、アンタらみたいに目が曇ってもいない。仲間を数値でしか判断できないなんて、それでもSランク冒険者か? それにサルヴィオさん、アンタはそもそもパーティリーダーに向いてないよ」

「――ッ! てンめぇっ……!」


 激昂した様子で、顔を真っ赤に染め上げるサルヴィオ。


 ……これ以上言うと、刃傷沙汰になりそうだな。

 スカウトは上手くいったんだ、ここいらで撤収しておくか。


「さ、行こうかヴィリーネちゃん」

「は、はい!」


 俺は彼女の背中を押し、冒険者ギルドから出て行こうとする。

 ……ああ、でも最後に1つだけ確認しておくか。


 俺はサルヴィオたちの方へ振り向くと、


「なあ、アンタらはヴィリーネちゃんをトラップ避けにしてたらしいが……これまで1度でも、この子をダンジョンに連れていかない時があったか?」

「ああ!? そんなの何度……も……――――」


 サルヴィオの怒鳴り声が淀む。

 記憶を辿った結果――そういうことだったのだろう。


 言葉を続けられなかったサルヴィオを尻目に、俺とヴィリーネは冒険者ギルドを後にした。


 そして外に出た直後、冒険者ギルドの中からサルヴィオの悔しそうな大声と、暴れて家具などを壊す音が響いたのだった。

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