ようこそ『追放者ギルド』へ ~隠しスキル、そして弱者と呼ばれた冒険者たちと共に~

メソポ・たみあ

第1話 冒険者の価値はステータスでは決まらないと思います


「脱退届けをギルドに出してきてやったぞ! これで、晴れてお前も追放者だなぁ! ヒャハハハ!」

「いやあぁ~! 捨てないでくださいぃ~!」


 ――こんな光景を目にするのは、もう何度目だろう。


 〝追放ブーム〟。

 巷では、そんな言葉が流行っている。


 SランクやAランクなんかの高位ランクパーティが、次々と仲間を追放するようになったからだ。

 追放する理由は単純明快、〝ステータスが低い〟から。


 今まさに追放されようとしている冒険者も、同様の理由らしい。

 泣き崩れる彼女を見て、パーティメンバーたちはゲラゲラと下品な笑い声を上げている。


 それを見た俺は彼らに近付き、開口一番に言った。


「その子を追放するんですか? じゃあウチが貰いますね」



◇ ◇ ◇



〝アイゼン・テスラー〟〝不採用〟


「またかぁ~……これで10回目だよ……」


 採用可否書に書かれた文字を見て、俺はがっくりと頭を垂れる。

 

 俺の名前はアイゼン・テスラー。

 これでもギルドマスター育成学校を卒業した学士である。


 言うまでもなく、ギルドマスターは人気の職業である。

 特に荒くれ者が多く在籍する冒険者ギルドは花形職業であり、そのギルドマスターになりたいと願う若者は多い。


 俺もそんなギルドマスターに憧れて、育成学校を卒業したのだが……


「どうしたもんか……このままじゃギルドマスターどころか、冒険者ギルドで働くことも厳しいぞ……」


 既に俺は、就職面接に行った冒険者ギルドを10ヵ所連続で落とされていた。

 現実は厳しい……


 一応言っておくと、冒険者ギルドはどこも常に人手を欲している。

 今や冒険者は人気職だし、その冒険者を支える冒険者ギルド連盟も隆盛を迎えていると言っていい。

 様々な冒険者ギルドが起ち上っては職員募集の張り紙を出しているので、決して不景気だとかそんな話ではない。


 にも関わらず、俺が採用されない理由。

 それは――


「だっておかしいだろ、〝冒険者はステータスが全て〟なんて、そんなの……」


 ハッキリ言って、俺の考え――つまり思想が、今の冒険者ギルドが求める人材とは全く異なるからなのだ。


 遡ること1年前、商業ギルドから〈ステータス・スカウター〉というアイテムが発売された。

 冒険者――というよりも着用者のステータスを数値にし、わかりやすく視覚化してくれる便利な物である。


 その数値化はかなり精確で、自分の具体的な能力を知ることができると冒険者の間で瞬く間に普及。

 現在では冒険者にとって必須とすら言えるアイテムとなっている。


 実際、高位ランクパーティに所属する冒険者は軒並みステータスが高いし、逆にステータスが低い冒険者は下位ランクに甘んじていることも多い。


 新規に冒険者を雇ったり、彼らをランクアップさせる役割を担う冒険者ギルドからしても、具体的な数値というのは大きな指標になるのだ。


 数値は嘘を吐かない――ステータスこそが評価の基準――

 それが今の冒険者、ひいては冒険者ギルド全体の考え方なのだ。


 だけど……俺は冒険者ギルドの面接で、必ず同じことを言う。



〝冒険者の価値は、数値ステータスでは決まらないと思います〟



 この言葉を聞いた面接官は、決まって怪訝な顔をする。

 そりゃそうだろう、俺の考えは時代に逆行しているのだから。


 でも、俺にも俺なりの根拠があって言っていることなのだ。

 だから意志を曲げるつもりはないのだが――


「それにしたって、このままじゃ飯にも在り付けなくなるぞ……背に腹は代えられないしなぁ……」


 このままでは、無職金なし一直線。

 貧乏なのは構わないが、流石に道端で野垂れ死ぬのは勘弁したい。


 ――そんなことを考えながら『デイトナ』の街の中を歩いていると、視界の端に〝職員募集〟の張り紙が映った。

 顔を上げると、そこには冒険者ギルドの建物があった。


「……行くだけ行ってみるか。ここでダメなら、もう別なギルドの面接も受けよう……」


 俺はいい加減冒険者ギルドのギルドマスターへの道を諦め、他の生き方を考え始めていた。


 もしかしたら、俺は生まれる時代を間違えたのかもな……

 ひと昔前だったら、俺の言うことは全然おかしくなかったはずなのに……


 はぁ、とため息をもらしながら俺は両開きの扉を開け、冒険者ギルドの中へと入っていく。

 すると――


「おい〝ビリのヴィリーネ〟! 喜べ、いい報せを持って来てやったからよ!」


 嘲りが混じった怒鳴り声が、待合広場の中に木霊した。


 その声に釣られて顔を上げると、そこには身なりの整った冒険者パーティの一団――と、やはり冒険者の格好をした1人の少女の姿。


「い、いい報せ……? いったい、なんでしょうか……?」


 長い金髪と剣士の装い、年齢はおそらく17歳前後。

 美人でカワイイ系だが、その顔からは不安と恐怖が見て取れ、プルプルと小さく肩を震わせている。


 そんなあどけない冒険者少女を見て、騎士風の鎧を着た人相の悪い男が笑みを浮かべた。


「脱退届けをギルドに出してきてやったぞ! これで、晴れてお前も追放者だなぁ! ヒャハハハ!」


 その言葉を聞いた瞬間、少女の表情は凍り付いた。

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