第19話 運命の出会い


「…………どうしよう、誰でも通る申請に落ちたなんて、気まずくてヴィリーネに言えないぞ……」


 俺はガックリと肩を落とし、ヴィリーネへの言い訳を考える。


 まさかこんな場面で追放者への迫害を受けるとは思わなかった。


 ギルドの名前を理由に頭のおかしい奴呼ばわりされたなんてヴィリーネが知ったら、今の彼女なら絶対に怒るだろう。


 ギルドの申請に行くと言ったら、あんなに喜んでくれたのだから。


 最悪、頭に血が上って抗議しに来る可能性だってある。


 そんなことをすれば、今度こそ間違いなくお縄だ。


 どうしよう……ホントどうしよう……


 顔面蒼白で歩く俺。


 だがうっかり前方を見ておらず――誰かとぶつかってしまう。


 オマケに、相手を転倒させてしまった。


「痛っ! す、すみません、大丈夫ですか!? 少し考え事をしてて……」


 俺は慌てて尻餅をついた相手へ近寄る。


 その人は――長い白髪の初老の男性だった。


 足が悪いのか杖を持っており、なんというか不思議なオーラがある人だ。


「いや、こちらこそスマンな。ワシも避けるべきだった」


「そんな、悪いのは俺の方で……立てますか?」


 俺は彼が落とした杖を拾い、次いで手を差し伸べる。


 初老の男性は俺の手を取ると、よろめきながら立ち上がった。


「お怪我はありませんか? 杖をどうぞ」


「うむ、ありがとう。お主は……冒険者、ではないようだな」


「え? わかります? 一応ダンジョンに潜ったことはあるんですが……」


「ハッハッハ、わかるとも。まず、肩をぶつけて謝ってくる冒険者は少ないからな」


 初老の男性は軽快に笑い飛ばす。


 ――そういうこの人は、たぶん元冒険者だ。


 痩せ細ってこそいるが骨格はがっしりしてるし、笑っていても独特の凄みが溢れ出ている。


 もしかしたら、昔はさぞ高名な冒険者だったのだろうか?


「それで、お主はなにゆえこの場所に? これから冒険者になるつもりでもあるまい」


「ああ、それは……ギルド創設の申請をしに来たんですけど、断られてしまって……あはは……」


 そう答えると、初老の男性は「ほう?」と興味深そうに顎を撫でる。


「申請は手続きと入会金を払えば基本的に通るはずだが……なにかあったのか?」


「実は、俺は『追放者ギルド』っていう追放者を集めるギルドを創るつもりなんですけど、受付の人に頭がおかしいって追い返されちゃって」


 苦笑混じりの俺の言葉を聞くと――突然、初老の男性の表情が一変する。


「『追放者ギルド』――だと? お主、名はなんという!?」


「え? えっと、アイゼン・テスラーっていう名前ですけど……」


 俺の名前を聞いた初老の男性は、とても驚いたようだった。


 そしてしばしの沈黙の後、


「そうか、お主が……これも天命なのか……」


「あ、あの……? 俺の名前が、なにか……?」


「いや、なんでもない。……ところで、受付の者に断られたのだったな? 申請を出そうとしたのは総合受付で相違ないか?」


「え、ええ、そうですけど……」


 初老の男性は「うむ、わかった」と答えると、杖をついて歩き出す。


 そして本社の入り口へと向かうが、1度立ち止まると――


「――アイゼンよ、どうか感謝を伝えさせてくれ。本当にありがとう。きっとあの世で、仲間たちも喜んでいるはずだ」


 そう言い残し、本社の中へ消えていった。


 ……ありがとう? なんで?


 肩をぶつけて転ばせたのに、どうしてお礼を言われたのか俺には理解できなかったが――その少し後、


「――ア、アイゼン様! アイゼン様はまだおられますでしょうかあ!?」


 ついさっき俺を異常者扱いして追い返した中年男性が、滝のように汗を流しながら飛び出してきた。


 なんだ――? と思ったのも束の間、彼は子供のように泣きじゃくりながら俺の目の前で土下座し、地面に頭をこすり付ける。


「先程は、先程はたいっっっっへん失礼を致しました! 全てはワタクシの至り知らぬことで……! 謹んで、申請は受理させて頂きます! 入会金も結構です! 本当に申し訳ございませんでした!」


「は、はぁ? なんだ、いったいどうして急に――」


「ひぇッ! ど、どうかお許しをっ! これ以上は降格と減給と本社からの異動だけじゃ済まなくなるぅ! もう許してぇ!」


 さっきの高圧的な態度が嘘のように、許しを請う中年男性。


 マジでなにがあったんだ……と思って本社の入り口へ顔を向けると、そこには初老の男性が立っていた。


 そしてニコニコと笑ってこっちに手を振ると、再び本社の中へと消えてしまった。


「…………あのおじさん、いったい何者なんだよ……?」

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