第28話 あなたには祝福が付いている
アクア・ヒュドラ討伐のため、洞窟ダンジョンへと潜った俺たち『追放者ギルド』。
薄暗くジメジメとした洞窟の中は重苦しい雰囲気に満ちており、不気味なほどに静かだ。
「な、なんか気味が悪いな……。ヴィリーネ、周囲にモンスターの気配はあるかい?」
「いえ、ありません……。たぶん、弱いモンスターたちは皆姿を隠してるんだと思います……」
そう話すヴィリーネも、やはり怯えた様子を隠し切れていない。
必死に堪えて冷静さを保っているようだが、ほんの僅かに肩が震えている。
「それでマスター、どういう段取りでアクア・ヒュドラを倒すつもり? なにか作戦はあるの?」
不安そうなヴィリーネに対し、マイカは比較的冷静な感じだ。
元々Sランクパーティとして活動していたから、強敵を相手にするのは多少慣れているのかもしれない。
「ああ、それじゃあ歩きながら事前ミーティングしようか。――アクア・ヒュドラについては色々と調べてきたよ。7つの蛇の頭を持つ、巨大なモンスター……頭はいくら斬り落としても再生するから、身体のどこかにある弱点を突かないと倒せないらしい」
「身体の弱点……ということは、私の出番ですね!」
「ああ、奴にトドメを刺すのはヴィリーネに任せる。ただ、注意しなきゃいけないのは強力な水の魔術ウォーター・ブレスだ。この攻撃が特に強力で、生半可な防御力じゃ意味を為さない。……たぶん、『アイギス』の
「……」
複雑そうな表情のマイカ。
無理もない、彼女がいれば命を落とすことはなかったかもしれないのだから。
自分を追い出した憎い相手とはいえ、かつての仲間。
色々と想うこともあるのだろう。
「ウォーター・ブレス……!? そ、そんな攻撃どうやって避ければいいんですかぁ……!」
「大丈夫よ、ヴィリーネ先輩」
怯えるヴィリーネの手を、マイカがしっかりと握る。
「アクア・ヒュドラの魔術は、アタシが無効化する。だから先輩はアタシたちを信じて、自分の役割を全うして。そうすれば、きっと勝てる」
「マ、マイカちゃん……」
ヴィリーネを見つめ、力強く話すマイカ。
だが「マイカでいいってば」とちょっと笑みも見せる。
――マイカの能力に関しては、部分的にヴィリーネに伝えてある。
流石に互いの能力を全く知らないままでは、連携に支障が出そうだったからだ。
だが、いずれ落ち着いたらヴィリーネにも全て話すとマイカは言っていた。
やっぱり、秘密を隠し通した『アイギス』での反省もあるのだろう。
「いいかい、対アクア・ヒュドラ戦略はヴィリーネが肝だ。ヴィリーネを奴の弱点まで送り届けるために、マイカの支援が必須となる。とにかく、ヴィリーネは弱点目掛けて突っ込むこと、マイカの仕事は彼女のサポートだ。俺もできる範疇で手伝うよ」
そう言って、鞄の中から爆発ビンを取り出して見せる俺。
まあ、俺だけ傍観してるってワケにもいかないだろうしな。
「ちょっと、マスターの仕事は戦闘じゃないんだから、無茶して怪我なんてしないでよね。荒事はアタシたちに任せておけばいーの。……それより、そろそろ目的の場所じゃない?」
話ながら進んでいた俺たちは――開けた場所に出る。
そこには大きな地底湖があり、青碧色の水面が湖底を覆い隠している。
一見すると、静かで美しい景色の場所。
だが、
「皆さん、注意してください……来ます!」
ヴィリーネが声を張り上げた、その刹那――
『ショオオオアアアアアアアアアアッ!!!』
静寂を突き破って、巨大な蛇が湖の中から現れる。
そして蛇はこちらに向かって、バックリと口を開けながら襲い掛かってくる。
「う、うわぁ!」
俺はその攻撃を寸でのところで回避し、冒険者であるヴィリーネとマイカは余裕でかわす。
そして奇襲に失敗した蛇が湖の方へと戻っていくと、さらに湖の中から1つ、2つ、3つと同じ蛇の頭が出現。
最終的に7つの蛇の頭を持つ巨大なモンスター、アクア・ヒュドラがその全貌を露わにした。
「これが……アクア・ヒュドラ……! なんて大きさだ……!」
「さあ、ここから本番よ! ヴィリーネ先輩、準備はいい!?」
「は……はい! 私は……いけます!」
自らを鼓舞し、奮い立たせ、剣を抜いたヴィリーネはアクア・ヒュドラに向かって突貫する。
そんな彼女を見たアクア・ヒュドラは、蛇の頭の1つを突き出し、開いた口に魔力で水を圧縮し始める。
間違いなく――ウォーター・ブレスを撃つ気だ。
「ヴィリーネ先輩、信じて! あなたに魔術は通用しない! あなたには祝福が付いている!」
マイカが、ヴィリーネの背中に向かって叫ぶ。
その声に押されるように、ヴィリーネは一切の防御を捨てたまま走る。
そして、刃のように鋭いウォーター・ブレスは放たれるが――――ヴィリーネを包む不可視の力によって、その強烈無比な一撃は無力化された。
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