第29話 アクア・ヒュドラをぶっ倒せ!!!


『ショオアアッ!?』


 アクア・ヒュドラにどれほど知性があるのか知らないが、奴の反応はとても驚いたようだった。


 Sランクパーティの重装士タンクですら一撃で屠る凶悪なウォーター・ブレス。


 それが無防備にも突撃してくる1人の少女に無力化されたのだ。


 驚くなという方が無理だろう。


「はああああああああああッ!」


 脇目も振らず、前へ前へと突き進むヴィリーネ。


 ブレスがダメならば――とばかりに、アクア・ヒュドラの多頭が一斉に襲い来る。


「マイカ! ヴィリーネの援護を!」


「わかってる! 物理を無効化できるのは3回までよ! 無駄遣いはできない!」


 マイカは持っていた大きな杖を構え、その先端をアクア・ヒュドラへと向ける。


「風よ――〈ストーム・ブレイド〉!」


 マイカが発動したのは風の魔術。


 斬撃の如き疾風がアクア・ヒュドラの多頭を迎え撃ち、幾つかの蛇の頭を斬り刻んでいく。


 だが、瞬く間にアクア・ヒュドラも傷を再生してしまう。


 そしてヴィリーネに食らい付こうと、彼女へ攻撃。


「――ひゃあ!」


 だが【かんなぎの祝福】によって1度目の攻撃が無効化され、蛇の頭は弾かれる。


 マイカの〝隠しスキル〟が彼女を守っている証拠だ。


 しかし、そのスキルが発動しているということは――


「くっ、やっぱり低燃費な魔術じゃ時間稼ぎにもならない……! もう魔力を尽かすつもりでいくわ! ゴメン、マスターも手伝って!」


「ああ、任せろ! これでも――くらえ!」


 俺も走り出し、手に持っていた爆発ビンを助走をつけて投げる。


 ビンは直撃、爆発によって蛇の頭はひるむ。


 もっとも、お世辞にも効果的とは言い難い。


「氷よ――〈フロスト・ノヴァ〉!」


 次に氷の魔術を使うマイカ。


 この攻撃によって複数の蛇の頭が凍結し、氷のように固まる。


 そこに向かって俺が爆発ビンを投げ込むと、凍り付いた頭は粉々になって砕けた。


 それによって僅かに隙が生まれ、いよいよヴィリーネがアクア・ヒュドラの間合いに入る。


「よし、ここまで来たら――ひゃうっ!」


 いよいよ攻撃に移る――その直前になって、彼女の左右から蛇の頭が挟撃してきた。


 これで――防いだ回数は3回。


 もう物理攻撃は防げない


 挟撃に驚き、怯んだヴィリーネの真上に――蛇の大口が迫る。


「このッ! もう1回くらいなら氷で――!」


「いや――マイカ、閃光・・だ!」


 ここで打つべき一手は、攻撃じゃない。


 咄嗟にそう判断した俺は叫んだ。


 マイカも、間髪入れずに反応する。


「! ひ、光よ――〈フラッシュ〉!」


 ――マイカの杖から、強烈な光が放たれる。


 とても目を開けていられないほどの閃光で、アクア・ヒュドラの多頭も一瞬動きを止める。


 だが、その一瞬の中でヴィリーネだけは動くことができたのだ。


 俺やマイカに対し背中を向けていた、彼女だけは。


「はああああッ!」


 大きく跳躍し、アクア・ヒュドラの胴体に向かって飛び込むヴィリーネ。


 しかし相手も寸でのところでそれに気付き、再びウォーター・ブレスを放つも――やはり今の彼女には効かない。




 そして遂に――――ヴィリーネは、アクア・ヒュドラの胴体に剣を突き刺す。




 同時に――アクア・ヒュドラの動きが止まった。


 ……よく見ると、彼女が剣を突き立てた場所だけ鱗が逆さまになっている。


 逆鱗という部位だ。


 ヴィリーネの目には、そこが奴の弱点なのだと見抜けていたのである。


 ――グラリ、とアクア・ヒュドラの巨体が倒れ、湖の中へと沈んでいく。


 ヴィリーネもアクア・ヒュドラの身体から離れて、地面の上に着地した。


「…………た、助かったぁ……」


 ハアハアと息を切らし、大の字になって寝転ぶ彼女。


「や――やった、やったぞっ!」


「たお、した……? アタシたち、あのアクア・ヒュドラを倒したんだわっ!」


 俺とマイカの中で勝利の喜びが瞬間沸騰し、急いでヴィリーネの下へと駆け寄る。


「やったぞヴィリーネ! 大手柄だ! 本当に凄いぞ!」


「先輩! アタシたち生きてるのよ! 生きて……皆で勝ったの! 良かった……本当に……っ!」


 グリグリグリグリと、疲れ果てたヴィリーネを抱きかかえて頬ずりする俺とマイカ。


「や……やりましたぁ……私、もう役立たずなんかじゃ……かくっ」


 緊張の糸が切れ、ヴィリーネは意識を失う。



 ――この日、この瞬間、俺は改めて確信した。



 追放者は無能なんかじゃない。


 追放者はステータスの低い役立たずなんかじゃない。



 彼女たちは、それを証明して見せた。


 彼女たちなら、きっと追放者と蔑まれた者の未来を変えてくれる。



 俺の始めたことは、俺の想いは、間違ってなかったんだ――と。

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