第33話 真の無能力者


 俺はコレットを新居に招き、受付フロアにあるテーブル席で少しばかり質疑応答をした。


 生い立ち、経歴、趣味趣向、ついでに好きな食べ物まで実に矢継ぎ早に答えてくれたけど、わかったことと言えば、彼女はごく一般的な冒険者だってことくらい。


 その間にも【鑑定眼】でコレットを見るが、やはり同じ表示が出る。



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スキル なし


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 そう、ないのだ。


 彼女には、〝隠しスキル〟がない。


 試しにヴィリーネやマイカを見てみるが、彼女たちの〝隠しスキル〟はこれまでと変わらない内容で表示される。


 俺の目がおかしくなった――ワケではないようだ。


「いやー、マスターさんが器の大きな人で良かったっスよ。Bランクの追放者なんていらないって言われたらどうしようかと! アハハハ!」


 彼女は屈託のない笑顔を見せるが、対する俺は不可思議でならない。


 俺はこれまで、【鑑定眼】で様々な人の〝隠しスキル〟を見てきた。


 その中には1つとして同じモノはなく、どれも特別な能力を持っていた。


 共通する点があるならば、能力を生かしているか生かしていないか、または上手く活用できているか否かという、当人の境遇の方だろう。


 だからこそ、俺は追放者がステータスだけを理由に差別されるのはおかしいと言ってきたのだ。


 天は二物を与えずなんて言葉があるけど、逆を言えば必ず1つは与えているということ。


 ステータスの低い冒険者は、大概が驚くような〝隠しスキル〟を持っている。


 〝スキル なし〟なんてのは――初めて見る。


 これは――もしかすると――


「ア、アイゼン様……大丈夫ですか?」


 心配そうにヴィリーネが聞いてくる。


 おっと、顔に出てしまっていたかな。


「ん、大丈夫だよ。勿論コレットも『追放者ギルド』に入ってもらう。寝泊まりもこの建物でしてもらって構わない。まだここに入居したばっかりだから、なにもなくて申し訳ないけど」


「ホントっスか! 雨風をしのげるなら、もう全然OKっスよ! ありがとうございまス!」


「それじゃあコレットさん、一緒に中を見て回りましょう! 私たちも今日初めてここに来たんです!」


 ヴィリーネはコレットの手を引き、2人で嬉しそうに建物の中を走っていく。


 ああやって見ると、本当に無邪気な少女たちって感じだな。


「……それでマスター? あの子の〝隠しスキル〟はどうだったの?」


 コレットたちの姿が見えなくなるや、マイカが聞いてくる。


「ああ……中々ユニークだったよ。かなり興味深い」


「ふぅん、ユニークねぇ……」


 続いて、カガリナがずいっと俺の顔を覗き込んでくる。


「な、なんだよ?」


「アンタが柄にもなく悩んでる時って、変にぼかした言い方する癖があるのよね。学生の時から変わってないわ」


 え、俺ってそんな癖があったのか?


 全然気が付かなかった。


「――悩む、か……どうだろうな。ただもしかしたら――あの子は、俺の昔からの疑問に答えてくれるかもしれない、って思ってさ」



   ◇ ◇ ◇



 コレットに新居を見て回らせた後、俺はヴィリーネ、マイカ、コレットの3人を近場の森ダンジョンに連れ出していた。


 コレットのスキルに関しては色々と思考を巡らせたが、もう考えても仕方ないと思ったのである。


 実際に、彼女が戦う様子を見ればなにかわかるかもしれない。


 そんな淡い期待があったのだ。


「これが『追放者ギルド』の入団試験ってことっスね! 腕が鳴るっス!」


「別に試験ってワケじゃないから、普段通りにモンスターを倒してくれれば大丈夫だよ。少しお手並み拝見するだけさ。ヴィリーネとマイカは彼女のサポートを頼む」


 俺が言うと、2人は快く頷いてくれる。


 そうして森を奥へと進んでいくと、


『ブフー……ブフー……っ』


 緑色の肌のホブゴブリンが現れた。


 身体の大きさは2メートルを超え、手には棍棒を持っている。


「ホブゴブリンか……! 丁度Bランク相当のモンスターだな。皆、油断するな!」


「勿論っス! そんじゃ、行くっスよぉ!」


 ハルバートを構えたコレットは、意気揚々とホブゴブリンへ向かう。


 刺突――振り下ろし――薙ぎ払い――


 コレットは勢いよく連撃を繰り出していく。


「――【鑑定眼】」


 彼女が戦っている最中にも、俺は【鑑定眼】で〝隠しスキル〟を見る。


 だがやはり、結果は変わらず〝スキル なし〟だ。


 そして最初こそ派手に攻撃をしていたコレットも、次第にホブゴブリンの怪力に押され始める。


「くぅ……!」


『ブフーッ!』


「ヴィリーネ先輩、彼女の援護を!」


「わかってます! ――はあっ!」


 ヴィリーネが一瞬の隙を突き、ホブゴブリンの胸部を剣で貫く。


 弱点でもある急所を穿たれたホブゴブリンは、そのまま地面に倒れた。


「痛てて……申し訳ないっス、やっぱりBランクなんかが調子に乗っちゃダメっスね……」


 バツ悪そうに苦笑いするコレット。


 冒険者として、彼女は極端に弱くはない。


 良くも悪くもBランク冒険者としての実力は持っている。


 そしてやはり、ヴィリーネたちのように特殊な〝隠しスキル〟は有していない。



 つまり、コレットは極めて普通で、どこにでもいる冒険者なのだ。


 しかし誰もが持ち得る固有の能力が〝ない〟という点で、極めて稀な冒険者でもある。



 普通であって普通じゃない、彼女は真の無能力者・・・・だった。

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