第34話 総代とギルドマスター
どうして彼女が〝隠しスキル〟を持たないのか俺は再三考えたが、答えらしい答えは出せなかった。
個人的には極めて興味深いのだが、コレットをどう扱うべきかは正直難しい。
彼女は正真正銘、特殊な能力を持たないごく普通の冒険者なのだ。
できればヴィリーネやマイカと一緒に戦わせてあげたいが、既に有能な〝隠しスキル〟を自覚している2人とはどうしても戦力に差が出てしまう。
幸いにもコレットとヴィリーネたちの仲が良好なので、問題らしい問題は起きていない。
ヴィリーネたちも無能と罵られて追放された身の上、コレットには親身になるのだろう。
とはいえ……ギルドマスターとしては、なにか手を打たねばならない。
そんなことを考えている内にみるみる日は過ぎ――早くも1週間が経過。
俺はコレットをどうするかの答えを出せないまま、冒険者ギルド連盟の総代と会見することになってしまった。
「……正直コレットのことはモヤモヤしたままだけど、ここに来たからにはシャキッとしないとな。気合を入れ直せ、アイゼン・テスラー!」
パチパチと自らの頬を叩く俺。
現在、身なりを整えた俺は1人で『ビウム』までやって来ている。
ヴィリーネたちは新居――というより『冒険者ギルド』の事務所でお留守番。
ギルドマスター不在となってしまっているが、しっかり者のマイカがいれば無問題だろう。
「『ビウム』の街に来るのも、なんだか久しぶりな気がするな……。いつ来ても人の波に酔いそうだよ」
しばし街の中を歩き、冒険者ギルド連盟の本社前まで到着。
長い階段を上っていく。
「……そういえば、あの時にぶつかったおじさんは元気にしてるだろうか? 本社の関係者っぽかったけど、一体誰だったんだろう」
ふと、以前ここで会った初老の男性を思い出す。
あの時も本社の中に入っていったし、運が良ければ今日も会えるかもな。
そんなことを思いつつ、俺は本社の受付に赴いて手続きを済ます。
『追放者ギルド』のアイゼン・テスラーと名乗ると、受付嬢はとても丁寧に対応してくれた。
前回のおっさんとはえらい違いである。
そして俺は受付嬢に案内され――如何にも雰囲気のある総代執務室の前までやって来た。
「ジェラーク総代、本日ご予定を取られているアイゼン様がお見えになりました」
『うむ、お通ししろ』
執務室の中から声が帰ってくる。
……あれ? この声はどこかで聞いたような……
そう思ったのも束の間、受付嬢が扉を開けてくれる。
開かれた扉の向こうにいたのは――
「……よくぞ来たな、『追放者ギルド』のギルドマスターよ。再び会えて嬉しいぞ」
「あ――あなたは、あの時の!」
俺は衝撃を受ける。
そこにいたのは、長い白髪の初老の男性。
見紛うはずもない――あの時本社の前でぶつかった、あのおじさんだったのだ。
「な、な、なんで……!」
「ハハハ、驚かせたかな? 隠すつもりはなかったのだが。さあ、遠慮せず入るがいい、追放者の救世主よ」
初老の男性――いや、ジェラーク総代は軽快に笑って俺を迎える。
そして執務室の中央にある来客席に腰掛け、反対側にはジェラーク総代が座る。
「……『追放者ギルド』の活躍は、常々聞いておるぞ。こうしてお主と話せる時を楽しみにしていた」
「は、はぁ……それは、ありがとうございます……。なんていうかその、俺なんかを呼んで頂いて光栄です……」
まさか総代があの時のおじさんだったなどと想像もしていなかった俺は、頭が真っ白になってしどろもどろに話してしまう。
「こういう場は慣れておらぬか? 緊張などせずともよい。――此度、お主に礼を言うことは2つある。まず1つ、『追放者ギルド』によるアクア・ヒュドラ討伐、まことに見事であった。冒険者ギルド連盟を代表して、お主の偉業に敬意を表する」
「け、敬意だなんて……! 実際に戦ったのは団員たちで、俺はなにも……」
「その団員はお主が集め、お主が才を見出し、そしてお主だからこそ付いていったのだ。謙遜は要るまい。次に――2つめだ」
ジェラーク総代は、テーブルの上に金色の小さな物体をコトリと置く。
俺は、それに見覚えがあった。
「あれ? これは――」
「そうだ、お主が見つけてくれたのだよ、この忘れ形見を。……ありがとう、アイゼン。ジェラーク・ファルネーゼという老いぼれの願いを叶えてくれて。お主はワシの恩人だ」
俺はまたも驚かされる。
これは間違いなく、地下迷宮ダンジョンでヴィリーネが見つけたペンダントだ。
そういえば、依頼主は元冒険者のお偉いさんだって聞いたけど――
「し、知りませんでした……このペンダントが、総代の物だったとは……」
「フフ、中は開かなかったのかね? ワシの名も彫ってあるのだが」
――記憶を辿ってみれば、確かに書いてあった気がする。
でもまさか、冒険者ギルド連盟の総代その人だなんて思わないってば。
俺は「はぁ~……」と深く息を吐き、
「なんだか、ここに来てから驚いてばかりです。寿命が縮みそうですよ……」
「それは不味いな、お主にはぜひ長生きしてもらわんとイカンのだから」
ハハハ、と和やかに笑い合う俺とジェラーク総代。
なんか、もう緊張を通り越して吹っ切れてしまった。
「さて、言うべき礼は伝えることができた。ここからは、お主自身のことを聞きたい」
「俺自身のこと、ですか?」
「そうだ。『追放者ギルド』のギルドマスターよ、お主は――他人の〝隠しスキル〟が見えるのだったな?」
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