第41話 経験値②
そういえば冒険者の中には、実力を上げたりランクを上げたりすることを「経験値を溜めてレベルを上げる」なんて表現する者たちもいる。
俺は単なる比喩の一種だと思っていたが――
「経験値というのは、明確に存在するわ。目に見えない確かな数値として、体内に蓄積されてる。大事なのはその経験値を、如何に効率よく能力に変換できるかってこと。これには潜在的な素質が大きく関与しているわね」
「た、例えば経験値を効率よく攻撃力や魔力なんかのステータス関連に変換できた者が、今世間で問題を起こしてる高ステータスの冒険者ってことですか……?」
そういうこと、とメラースさんは肯定する。
「なる、ほど……。で、でもステータスが低い冒険者が強力な〝隠しスキル〟を持ってることが多いのは、どうして――」
「これは予測なんだけどぉ、低ステータスの冒険者は経験値を効率よくステータスに振れない分、〝隠しスキル〟という能力の取得に経験値を注げるんじゃないかしら? この理屈がもし正しければ、後天的に〝隠しスキル〟を得るのは十分にあり得るかもしれないわ」
それは、つまり経験値とはポイントであり、ステータスに振ればステータスポイント、スキルに振ればスキルポイントになるってことか。
ただ、そのポイントは自らの意志で割り振れない。
だから先天的に〝隠しスキル〟を持つ人は言わずもがな、仮に後天的に〝隠しスキル〟を得たとしても多くの人がその存在に気付けない。
一応は筋の通る説だ。
だが――まだまだ疑問点もある。
「実際魔術の世界でも、物覚えの悪い子が特定の分野で飛び抜けた才能を見せつけることってあるからねぇ。〝隠しスキル〟も似たようなモノかも?」
「ですが……まだわかりません。その話が正しければ、低ステータス者は経験値が溜まる度に〝隠しスキル〟を持つことになる。スキル取得後に蓄積される経験値はいったいどこに? 1人が〝隠しスキル〟を2つ持つことはないはず――!」
「だから
メラースさんは再び煙管を口に含み、煙を吐く。
「……ぜーんぶ推論だけど、アイゼンちゃんの疑問には答えられたかしら?」
〝隠しスキル〟は後天的に身に付かないのか?
もし身に付くとして、それはいったいいつなのか?
〝隠しスキル〟が変化する可能性はないのか?
――後天的に取得する可能性はある。
――――取得するのは、経験値が溜まった時。
――――――取得後も経験値が溜まれば、進化するかもしれない。
全て、俺の疑問への答えになっている。
「……最後に1つだけ。今の話を前提とした上で、後天的に〝隠しスキル〟を取得できるはずの者が、経験値を溜めても中々解放されない――考えられる理由は2つ。1つ目は、その子が正真正銘の無能でなんの才能もない人間であること。2つ目は――」
「それだけ膨大な経験値が必要なほど、強力な〝隠しスキル〟が眠っている――!」
「かもしれない、ってだけよ。でもグズな子ほど、ある日唐突に化けるものよねぇ」
俺はガタッと席を立ち上がる。
正に今、コレットはサルヴィオの下で経験値を溜めている。
それも急速に。
ならば、コレットが〝隠しスキル〟に目覚めるのも遠くないかもしれない。
俺の判断は、間違ってなかったんだ――!
「あ――ありがとうございます! 俺はコレットを信じます! あの子の見せてくれる可能性を! すぐに帰って、彼女に伝えます!」
「ちょっと、待ちなさいな」
急いで執務室を去ろうとする俺を、メラースさんが呼び止める。
「アイゼンちゃんの相談に乗ってあげたんだから、今度はこっちのお願いを聞いてもらえると嬉しいわぁ。アタシとしては、あなたの〝目〟の方に興味があるんだからぁ」
「俺の目って……【鑑定眼】にですか?」
「ええ、そう。元来魔術の世界において、目に関する能力は特別で神聖視されているの。それだけ、強力な力を持つ場合が多いからね。アイゼンちゃんの〝隠しスキル〟を見抜く能力……とっても好奇心をそそられるわぁ」
メラースさんはチョイチョイと屈むように催促してくるので、俺は膝を落として彼女と目線の高さを合わせる。
すると――彼女は俺の顔を両手で掴み、グイっと指で下まぶたを開いてくる。
「ひゅいっ!?」
「怖がらなくていいのよぉ。相談のお礼として、何日間か被験者になってくれればいいからぁ。だから……アタシの研究に付き合ってちょうだいね?」
「い、いや……! 俺にはギルドマスターとしての仕事があってですね……!?」
「固いコト言わないの。それに検査解析は面白いわよ? もしかしたら――意外な事実が判明するかもしれないし?」
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