第47話 アイゼン、帰還
――夜の内に『ナーシセス』を出発して、既に数時間。
地平線の向こうに見える太陽は顔を出しかけており、朝が目前に迫っていた。
そんな中――俺は必至になって〝長い箒〟にしがみついている。
何故、箒にしがみついているのか?
答えは単純、その箒が空を飛んでいるから。
それも、もの凄い速度で。
「大丈夫ぅ、アイゼンちゃん? 少し速度を落としましょうかぁ?」
「いえ! このままでお願いします! 一刻も早く『デイトナ』に着かないとッ!」
箒を魔術で操作しているのはメラースさん。
彼女は涼し気な顔で箒に座り、全速力でかっ飛ばしてくれている。
『デイトナ』に
その報告を受けた彼女は双子の受付嬢に最低限の指示を出し、大急ぎで俺を送ってくれることになったのだ。
彼女1人なら転送魔術で瞬時に移動できるらしいが、俺も込みだとこの移動方法が最も速いらしい。
「もう少しの辛抱よぉ、そろそろ『デイトナ』が見えてくるはずだから」
「お願いします、少しでも速く――! 今頃、皆どうなっているのか……っ」
俺は不安で仕方なかった。
『デイトナ』にはヴィリーネもマイカも、それにコレットを訓練中のサルヴィオもいる。
それに屈強な『アバロン』の冒険者たちだっているんだ。
如何に相手が
けれど―――何故だろう、胸騒ぎが止まらないのだ。
嫌な予感がするのだ。
「――! 待って、街の方から煙が上がって――っ」
メラースさんが叫ぶ。
それに釣られて俺も前方を見ると、確かに街の方向から黒煙が立ち昇っているのが確認できた。
――『デイトナ』の街が、徐々にその全貌を露わにする。
「そ――――そん、な――――」
燃えている。
街が、『デイトナ』の街が炎に包まれている。
そして街の中央には――
『ォォォォォゴオオオオオオオオオオッ!!!』
醜い、骨のドラゴンが鎮座していた。
同時に、その巨大モンスターを取り囲んで戦いを続けている冒険者たち。
その中にはヴィリーネやマイカ、さらには得物の大太刀を持って戦いに加わるライドウさんの姿まであった。
「ヴィリーネ先輩! これ以上コイツを暴れさせちゃダメ! ここで足止めしないと……っ!」
「わかっています……! 皆さん、攻撃の手を緩めないでくださいッ!」
「聞いたか野郎共! 嬢ちゃんたちばっかりに無理させんじゃねぇぞ! 男を見せろォッ!」
ヴィリーネもマイカもライドウさんも既にボロボロで、今に至るまで必死に戦い続けてきたであろうことがすぐにわかる。
彼女たち以外の冒険者もほとんどが満身創痍で、無傷な者の方が少ないくらいだ。
本来は一線から身を引いているライドウさんまで戦っているなんて、この瞬間に至るまでどれだけ逼迫した戦いが繰り広げられたのか――
そんな包囲に対して骨のドラゴンも暴れ狂い、その巨大な腕で周囲の家屋を破壊していく。
「ヴィリーネ! マイカ!」
「アレが
メラースさんは箒を急降下させ、骨のドラゴンの頭上を捉える。
そして魔術を発動し――
「闇よ――〈グラビティ・コア〉!」
彼女が唱えるや紫色の巨大な魔術陣が展開し、そのまま骨のドラゴンを押し潰した。
『ォォォゴオオオ……ッ!』
魔術陣に潰されて、奴の動きが鈍る。
流石は〝
「す、凄い……! あの巨体を簡単に……!」
「いいえ、ダメねぇ。アレじゃ数分と持たないわぁ。厄介な爬虫類だこと」
ため息を漏らすメラースさん。
骨のドラゴンが止まっている隙に、俺たちはヴィリーネたちの傍へ着地した。
「ヴィリーネ、マイカ、無事か!」
「ア……アイゼン様……よくぞお戻りに……」
「ど、どうにか死ぬ前に、マスターの顔が見れたわね……」
俺の姿を見て安堵したのか、崩れるようにその場に座り込む2人。
そんな疲労困憊な少女たちを、俺はぐっと抱き寄せた。
「よく頑張った……よく頑張ったな……! 遅くなって、本当にすまない……っ」
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