番外編/第56話 サルヴィオとメラース


 俺たちとサルヴィオが、療養所の部屋の中でそんなやり取りをしていると――


「――ああ、いたいた。こんにちはぁ、アイゼンちゃん。お取込み中ごめんなさぁい」


 転送魔術を使って、にゅっとメラースさんが現れる。


「あれ、こんにちはメラースさん。よく俺がここにいるってわかりましたね」


「それは人づてに聞いてきたんだもの。事務所に行ってもいないし、街で聞いたら療養所に行ったって言われるし、もう肩が凝るわぁ。年寄りに二度手間させないでほしいわねぇ」


「アハハ、それはすみません。それで、今日はどうしたんです?」


「えぇ、古代の竜エンシェント・ドラゴンの調査で進展があったから、その件を少し。それから『追放者ギルド』に仕事の話が――」


 そこまで言いかけたメラースさんは、ふとベッドに座るサルヴィオの方を見る。


 この時、サルヴィオもメラースさんの方を向いていた。


「あらあら、この子なのねぇ。古代の竜エンシェント・ドラゴンを倒した〝勇者〟を、身を挺して守ったっていう英雄くんは。思ったよりハンサムじゃない」


 ふんふん、とサルヴィオの顔を眺めるメラースさん。


 その瞬間――


「――うっ!?」


「! どうしたサルヴィオ!? どこか傷が痛むのか!?」


「い、いや違う……俺様のトキメキレーダーが、いきなり全開に反応しやがった……! なんでだ? こんなちびっ子なんざ、全然まったく完全に守備範囲外なのに――!?」


「あら、ちびっ子とは失礼ねぇ。こう見えても、アタシは結構なおばあちゃまなのよぉ? 歳だって、確実にあなたの3倍は食ってるんだからぁ」


 !?


 め、メラースさんってそんな年齢なのか!?


 発言からして外観と実年齢が乖離してるとは思ってたけど、そんなに――!?


 彼女の発言を聞くや否や、サルヴィオの顔がキラキラと輝き始める。


「失礼、レディ・メラース、美しい魔女よ。今は独身ですか? ぜひこの俺様と、結婚を前提にしたお付き合いをして頂きたい。キラキラ」


「あらぁ~、物好きな英雄くんねぇ。でも気持ちは嬉しいけどぉ、アタシは40歳以下の渋みがない子には興味ないのぉ。ごめんねぇ」


 それは悲しい返事だった。


 直後にサルヴィオは絶望する。


 なんか凄い勢いで他人が失恋する瞬間を見てしまった……


「チ、チクショウ……! 俺様は諦めねぇ! こうなったら全力で、渋くてカッコいい男になってやらぁ! 教官ってポジションは男を磨くには悪くねぇ、そうだろマスター!?」


「え? あ、うん、そうかも? よくわかんないけど……」


「待っててください、レディ・メラース! 必ず渋い男になって、あなたを振り向かせてみせるからよぉ! 生きる希望が湧いてきたぜぇ、ヒャハハハ!」


「あらぁ、頑張ってねぇ~。期待せずに待ってるわぁ~」


 まるで息子を、いや孫を見る目で微笑ましくサルヴィオを眺めるメラースさん。


 そんなやり取りを見ていたコレットはポカンと口を開け、ヴィリーネは頭を抱える。


「……兄貴にこんな一面があったとは、意外っス……」


「サルヴィオさん……あなたって人は……」


「ア、アハハ……」


 乾いた声で笑う俺。


 すると、メラースさんが俺の方にくるりと向き直る。


「それはそうとアイゼンちゃん、話の続きだけれど、もしかしたら近々あなたの『追放者ギルド』にお仕事を依頼するかもしれないわぁ」


「仕事、ですか? それはどういった……」



「ええ、知り合いからの頼み事でね。――――〝聖なる都で、仲間を追放したことのある上位ランク冒険者が次々と惨殺されている。どうか事件を止めてほしい〟――ですってぇ」


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ようこそ『追放者ギルド』へ ~隠しスキル、そして弱者と呼ばれた冒険者たちと共に~ メソポ・たみあ @mesopo_tamia

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