第16話 冒険者の街ビウム


 〝冒険者の街ビウム〟――そんな風に呼ばれる、大きな街がある。


 その呼び名の如く街には大勢の冒険者がおり、ここで名を売ることは多くの冒険者が夢見るともされる。


 『ビウム』は冒険者にとっての憧れの街なのだ。


 では、なぜ『ビウム』が冒険者の街なのか?


 理由は簡単、この街には冒険者ギルド連盟の本社が存在するからである。


 冒険者ギルド連盟の支部は世界中に存在するが、本社は『ビウム』にしかない。


 そして本社は、あらゆる冒険者ギルドの中で最も多くの冒険者が所属している。

 

 大手冒険者ギルドともなれば数千数百の冒険者を抱えるが、それを抑えて本社がトップなのだから、街が冒険者で溢れるのも頷けるというものだ。


 ――で、新しい冒険者ギルドを創ろうと思ったなら、そのギルドマスターは必ずこの本社を訪れなければならない。


 そういう決まりだ。


 とはいえ別に厳格な審査とかテストとかがあるワケではなく、申請書を出して連盟への入会金を支払えばそれで終わりだ。


 後は月ごとに登録料を納金するくらいで、難しいことは1つもない。


 ……もっとも、冒険者ギルドをちゃんと維持できるかは全くの別問題なのだが。



 そんなワケで『デイトナ』を出発して半日ほど馬車に揺られ、俺とヴィリーネは無事『ビウム』に到着した。


「わぁ……ここが〝冒険者の街ビウム〟ですか……すっごくたくさん冒険者がいます……」


 数え切れないほど大勢の冒険者が大通りを歩く光景を見て、ヴィリーネがぽっかりと口を開ける。


 冒険者最盛期の今ではどこの街でも冒険者は多く見かけるが、確かにこの数は尋常ではない。


 ぱっと見ただけでも数千人単位で冒険者が歩いている。


 これが街全体でと考えたら、どれほどの人数がいるのか想像もできない。


「確かに凄い人の数だね……。それじゃあ僕は本社まで行ってくるから、ヴィリーネは街を見て回るといい。今日は休暇だ」


「え!? わ、私もご一緒します! アイゼン様が働かれるのに、私だけお休みなんて頂けません!」


「申請を出すだけだから、どうせすぐに終わるよ。それにここ数日はダンジョンに潜りっぱなしで、ロクに休んでないだろう? 休める時にはしっかり休むんだ、これはギルドマスター命令」


 俺は「はいコレ、ボーナス」と言って金貨の詰まった小袋を手渡す。


 弊ギルドはホワイトな職場作りを目指しています。


 働き詰めは心身に悪影響があるし作業効率も落ちるって、育成学校で偉い人が言ってたし。


 それになにより、ヴィリーネはまだまだ少女と言って差し障りない年頃だ。


 言葉にこそ出ないが、遊びたい盛りなはず。


 『ビウム』は歓楽街・繁華街って側面も大きいし、彼女が羽を伸ばすには丁度いいだろう。


 それでも生真面目なヴィリーネは納得できない様子で、


「で、でもぉ……」


「ふむ、それじゃあ言い方を変えよう。『ビウム』を見て回ることは、冒険者としての成長に大きく繋がるはずだ。場の空気を吸うだけでも気分転換になるだろうし、新しい発見やインスピレーションも得られるだろう。これは冒険者ヴィリーネが『追放者ギルド』に貢献するために必要なことなんだ。……これで納得できるかい?」


「は……はい……そこまで仰られるのでしたら……」


「それじゃあ、遊んでおいで。夜の便で『デイトナ』に戻るから、日が暮れる頃に馬車乗り場で待ち合わせよう」


 そう言って、ヴィリーネを送り出す。


 離れていく彼女は2、3度ほどこちらに振り向くが、俺が笑って手を振るとようやく人込みの中に消えていった。


「さて……俺も行くとするか。冒険者ギルド連盟の本社は――街の中央にあるんだっけ」

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