第6話 仕事を探そう
「お仕事……ですか? でも、どうやって……」
初仕事を貰いに行くと聞いて、ヴィリーネは首を傾げた。
当然の反応だ、まだギルドの方針どころか名前も決まっていない有り様で、仕事が貰えると思う方が変である。
それにどんな仕事を引き受けるのかだって、完全な未知数ではあるが――
「ああ、ちょっとした伝手があるのさ。……本当はあんまり頼りたくないんだけど……」
とはいえ現状では、コレが1番確実だろうしなぁ。
色々と言われるだろうが、ギルドの長としてその洗礼は粛々と受けよう……
さっそく、と俺はヴィリーネを連れて歩き出す。
幸いにも目的地は同じ街にある冒険者ギルドで、距離も遠くない。
冒険者最盛期の今は街の至る所に冒険者ギルドが建っており、それぞれが冒険者の獲得にしのぎを削っている。
俺たちが向かうのは、そんな乱立する冒険者ギルドの1つ――お、見えてきた見えてきた。
視線の先にある建物には〝冒険者ギルド『アバロン』〟という看板が下げられており、それなりに人の出入りがある。
建物もそれなりに大きく、冒険者ギルドとしては比較的規模の大きな場所であることが見て取れる。
「ここは……冒険者ギルドですよね?」
「知り合いがいるんだ。まあ、学友ってヤツかな」
少し息を整えて、俺は入り口の扉を開く。
すると、
「いらっしゃーい、受付はこちらで――って、アイゼンじゃない! 久しぶりね!」
元気よく出迎えてくれたのは、短い赤毛の女性。
彼女は受付嬢をやっており、このギルドの制服と帽子に身を包んでいる。
「しばらくぶりだなカガリナ。へえ、制服新しいデザインになったのか。よく似合ってるよ」
「う、うっさい! アンタに褒められても、べ、別に嬉しくなんかないわよ!」
赤毛の受付嬢は不機嫌そうにそっぽを向く。
まったくお転婆娘め、素直に喜んでおけばいいものを。
「あの……お2人は、お知り合いなのでしょうか?」
俺たちのやり取りを見て、不思議そうにヴィリーネが尋ねる。
「ああ、俺たちはギルドマスター育成学校時代の同期なんだ。彼女はカガリナ・カグラ。この『アバロン』でギルドマスターをやってる親父さんの1人娘なんだ」
「ギルドマスターの……! は、初めましてカガリナさん! 私は冒険者をやっているヴィリーネ・アプリリアといいます! よ、よろしくお願いします!」
バッと頭を下げるヴィリーネ。
ギルドマスターの娘と聞いて、恐縮してしまった感じだ。
「よろしくね、ヴィリーネちゃん。ああ、どうか畏まらないで。アタシそういうの苦手だからさ。できるだけ、冒険者とは近い距離で接していきたいの。ギルドマスターの娘だからとか、気にしないでほしいな」
「は、はい! ありがとうございます!」
どうやらカガリナも可愛らしいヴィリーネを気に入ったらしく、明るい笑顔を見せてくれる。
竹を割ったようにさっぱりとした性格の彼女のことだ、ヴィリーネとも親しくしてくれるだろう。
「それで、アンタはなんだってウチの店に顔を出したのよ。オマケにかわい子ちゃんまで連れちゃってさ。遂にギルドへ就職して、彼女もできました~って報告にでも来たの?」
何故か嫌味混じりに聞いてくるカガリナ。
コイツは昔っから女絡みで俺を弄ってくるのだ。
こういう部分だけは、なんとかしてほしい。
「いやぁ、それなんだが……冒険者ギルドへの就職は諦めたよ。代わりに、自分でギルドを立ち上げることにしたんだ」
「は…………はあぁ~~~~~っ!?」
カガリナは酷く驚いた顔をした後、フラフラと頭を抱えた。
「いや……うん……変人なアイゼンのことだから、いつかはそういうこと言い出すんじゃないかと思ってたけど……」
「変人とは失礼な、俺は冒険者の価値はステータスで決まらないって主張してるだけだ」
「だから変だって言われるの! このご時世でステータスは関係ないなんていうから、冒険者ギルドに就職できないのよ……。それで、まさかそのヴィリーネちゃんが――」
「ああ、栄えあるギルドの団員、その1人目だ」
カガリナはヴィリーネの両手をそっと握ると、
「大丈夫ヴィリーネちゃん、アイゼンに弱みとか握られてない? もし変なコトされたらすぐに言うのよ? 速攻で冒険者ギルド連盟に報告して豚箱に叩き込んであげるから」
「い、いえ! そんな……!」
「……弱みなんて握ってないから。誤解を招く発言はやめてくれ」
……ヴィリーネを困らせないでほしいなぁ。
これでも一応、パーティから追放されて嘆いてるところをスカウトしただけだし、ギルド長としてホワイトな組織作りを目指すつもりなんだけど……
カガリナは改めて受付カウンターに回り込むと、
「それで、アンタいったいなんのギルド始めたのよ。冒険者絡みなのは間違いないんでしょうけど……」
「実は、まだ具体的には決まってないんだ。でもとりあえず追放者を集めて、追放者のためのギルドを作ろうとは思ってる。その足掛かりに、まずは仕事が欲しいんだけど――」
「ないわよ、ウチには。そもそも育成学校卒業生と冒険者の2人組じゃ、任せられる仕事なんて普通はないってば」
「かもな、じゃあ――〝普通じゃない依頼〟ならどうだ?」
俺が聞き返すと、カガリナはギクッと肩を震わせる。
「あるんだろ? 冒険者たちが誰も引き受けてくれなかった、割に合わない〝内処理〟となった依頼が――」
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