第38話 特訓開始!
「イヤです。認めません」
正座するサルヴィオを前に、ヴィリーネはキッパリと拒否した。
ですよねぇ、と心の中で思う俺。
サルヴィオの意志を受け止めた俺は、彼を『追放者ギルド』の事務所まで連れて帰り、ヴィリーネとマイカに事の経緯を説明。
……で、どうだろうかと尋ねた答えが、今の一言だった。
「だいたいリーダー……サルヴィオさんは追放者じゃないじゃないですか! それにあんなにステータスの低い人をバカにしてたのに……信じられません!」
「ま、まあまあ、彼も考えを改めたみたいだし。それにホラ、まだ正式に加入すると決めたワケじゃないから」
「でも……!」
断固として譲ろうとしないヴィリーネ。
それも仕方ない、彼女は『銀狼団』にいた頃ずっとサルヴィオにイジメられてきたのだから。
トラウマとして記憶に刻まれているはずだ。
今更心を入れ替えたなんて言われても、簡単には信用できないだろう。
彼女の否定に対して、沈黙を貫くサルヴィオ。
――かつて自らが犯した過ちへの罵倒は、甘んじて受ける。
そういう意識の表れなのだと思う。
「マイカちゃんも、なんとか言ってください!」
「それは……アタシも賛成とは言い難いけど……」
マイカにとっても、サルヴィオの姿はクレイと重なるのだろう。
しかし――どうにも彼女は、コレットの方を気にしているようだ。
「でも……マスターがコイツに可能性を感じたのなら、アタシはなにも言わない。アタシはマスターを信じてるもの。だけど――」
マイカはサルヴィオへと歩み寄り、彼の胸倉を掴み上げる。
「――もしも、コレットやヴィリーネ先輩を悲しませるような真似をしてみなさい。その時は、アタシはアンタを絶対許さない。覚えておくことね」
「あ――当たり前だ! この俺様を誰だと思ってる! もう2度と、仲間を見捨てるようなことはしない!」
彼の性格というか、相変わらず尊大な物言いだが――その言葉には、重みがあった。
サルヴィオの真剣な眼差しを見て、マイカも彼の胸倉を離す。
「ならいいわ。こう言ってるけど、どうするの? ヴィリーネ先輩?」
「う……ううぅ~……」
「大丈夫だよ、ヴィリーネ」
それでも納得し切れないヴィリーネの頭に、俺はポンと手を乗せる。
「サルヴィオは、もうあの時のサルヴィオじゃない。彼にチャンスをあげよう。コレットのためにも、な?」
「…………わかりました、アイゼン様がそこまで仰るのなら……」
渋々、と承諾してくれるヴィリーネ。
自らのトラウマを乗り越えられるほど、彼女は強くなったのだろう。
「ありがとう、ヴィリーネ。よく頷いてくれたね。お詫びに、今度美味しい物でもご馳走するよ」
「ほ、本当ですか!? でしたら、アイゼン様と2人きりで遊びに行きたいです!」
「え? あ、ああ、それはいいけど……」
「やったぁ! ありがとうございます!」
一転して、嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねるヴィリーネ。
でも、どうして俺と2人でなんだ?
マイカやコレットとも一緒の方が楽しいのと思うのだが。
まあ、それはともかく――
「さて……それじゃあ、コレット?」
「は、はいっス!」
ピシッと姿勢を正すコレット。
少し緊張した面持ちだ。
「キミのガッツを信じて、サルヴィオに特訓を任せる。もし不条理な扱いを受けたら、すぐ報告するように。だけど――俺は可能性を感じるんだ」
「可能性……でスか?」
「〝才が道を拓いてくれるとは限らない〟。だったら、がむしゃらに努力することで拓ける道もあると思う。説得力がないかもしれないけど……やるだけやってみようじゃないか」
「ハ――ハイっ! コレット・ハスクバーナ、ご期待に応えてみせまス!」
ビシッと敬礼するコレット。
その隣で――サルヴィオがゆらりと立ち上がる。
「――いよぅし、そんじゃあコレットとやら……さっそく、特訓開始だぁ! ヒャハハハ!」
◇ ◇ ◇
サルヴィオはコレットを事務所の外に連れ出し、早速特訓に取り掛かる。
「コレット・ハスクバーナ! これよりこのサルヴィオ様が、お前を扱きに扱いてやる! 歳幾ばくもない乙女だろうが、容赦しねぇからな! わかったか!」
「は、はいっス! よろしくお願いしまス! えっと……サルヴィオ様?」
「バカヤロウ! 俺様のことなんて様付けするんじゃねぇ! サルヴィオと呼びやがれ! それがイヤなら兄貴と呼べぇ!」
「は、はいっス! サルヴィオの兄貴!」
自分で自分を様付けするのに、他人には呼ばせないのか……
彼なりの謙虚さなんだろうな、たぶん……
特訓を始めた2人を、俺やヴィリーネは遠目で眺める。
サルヴィオのことを信用していないヴィリーネとマイカは、やや不安そうな表情だ。
「まずは冒険者の基本中の基本、体力作りからだ! 腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワット! 筋トレ全部300回! 始め!」
「は、はいっス!」
「ヒャハハ! どうだ、苦しいかぁ!? だが、お前1人にキツイ思いはさせん! 俺も一緒に、全部1000回やってやる! 俺様はSランクだからな! ウオオオオオッ!」
コレットと一緒に筋トレを始めるサルヴィオ。
だが、身体を動かすスピードは彼女の倍以上速い。
「よし次! 武器での打ち込み稽古! 俺様がお前の攻撃を全部受けてやるから、本気でかかってこい! 隙を見せたら反撃すっからな!」
「は、はいっス!」
「しかし俺様だけ突っ立っているのでは、公平とは言えん! だから俺様は右手でダンベルを担ぎ、左手だけで受け切ってやる! 悔しいだろぉ! ヒャハハハ!」
次に2人は木製の練習用武器を手に、打ち込み稽古を開始。
だがサルヴィオだけは、どこからか持ってきた巨大なダンベルで右手をウエイト・トレーニングしつつ、左手の木剣のみでコレットの打ち込みを捌いていく。
「オラオラ、どうしたぁ!? そんな攻撃じゃ、Sランクである俺様に傷1つ付けられねぇぞ! もっと本気でガンガン――ぶふぉっ!」
コレットに発破をかけるため、威勢よく煽るサルヴィオだったが、打ち込みの中の1つが彼の顔に直撃。
……如何にSランク冒険者と言えど、右手で筋トレしながら左手のみでコレットの攻撃を受け切るのは無理があったらしい。
「あっ、ごめんなさいっス!」
「いい攻撃だぁ! だが、そんなんじゃSランク冒険者にはダメージにもならねぇな! ヒャハハ!」
顔に痣を作って、鼻血をボタボタと垂らしつつ高笑いを上げるサルヴィオ。
いやそれ絶対ダメージになってると思うんだが……
「次は走り込みだ! 強くなりたきゃスタミナを付けろ! ダッシュダッシュ!」
「は、はいっスぅ! ゼェ……ゼェ……!」
「ヒャハハハ! 息苦しいよなぁ! ツラいよなぁ! 安心しろ、Sランクの俺様はお前の5倍は走ってやるからよぉ! ついでに、もし疲労で足が動かなくなったら、俺様が担いで帰ってやるぜぇ! ヒャハハハハァッ!」
そんな笑い声を奏でながら、サルヴィオとコレットは彼方へ向かって走っていった。
……なんというか、あの調子だとサルヴィオの方が鍛えられてしまいそうだな……
「アイゼン様、コレットさんたちは……大丈夫なのでしょうか?」
「ああ……うん……大丈夫、だと信じるよ……」
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