第14話 冒険者ギルド代表会議④
――ジェラークの覇気がこもった一言で、場の空気が一転する。
これまで得意気になって話していたヴォルクも言葉を失い、他の2人も背筋が凍り付いて冷や汗を流す。
「冒険者ギルドの総代は、未だこのワシをおいて他になし。勝手な真似も不用意な発言も許さん。貴様らは所詮ワシの下役に過ぎぬのだ。それを努々忘れぬ方がよいと……忠告はしておくぞ?」
ジェラークから放たれる威圧感はヴォルクの比ではなく、ヴォルクが獅子だとすればジェラークは強大たる古龍を連想させるほど恐ろしい。
こんな総代を見たのは、〝
「クっ……クソが……!」
ヴォルクは実に歯痒そうなまま乱暴にソファから立ち上がり、ジェラークたちに背中を向けて歩き出す。
「ち、ちょっとヴォルク! どこ行くのよ!」
「うるせえ! 話が終わったから帰んだよ! 余計なことをしなけりゃいいんだろうが!」
呼び止めようとするメラースを振り切り、ヴォルクは苛立った様子を隠そうともせず部屋から出て行ってしまった。
「はぁ……ほんっと
「それを聞いて安心した。だがお主ももう古株なのだから、若造のおイタには目を光らせておいてくれると助かるのだが」
「あら、オールドレディは紳士的に扱ってほしいものだわ。でも、いい男のお願いは断れないものね。ご希望に答えてあげるから、今度ディナーでも奢って頂戴な。それじゃ2人とも、バイ♪」
そう言ってメラースが指を鳴らすと、彼女の姿が蜃気楼に包まれたかのように消えてしまった。
こうして、部屋の中にはジェラークとライドウだけが残される。
ライドウはバンダナを巻いた頭をポリポリと掻き、
「やれやれ、〝望蜀の獅子王〟も〝仙姿の魔女〟も相変わらずだな……。しかしアンタもやり過ぎだぞ、内紛でも起こったらどうする気だ」
「その時は、若造の威勢がどこまで持つか試してやるだけのことよ。もっともヴォルクがワシに挑むには、あと20年は早いと思うがな」
ハッハッハと笑うジェラークと、そんな老獪に対して「オイオイ、勘弁してくれ……」と頭を抱えるライドウ。
2人はこんなやり取りを何度も繰り返している旧知の仲で、〝|四大星帝(クアッド・マスターズ)〟という立場を抜きにしても腹を割って話せる間柄だった。
「――まぁいい。ヴォルクの野郎には、遅かれ早かれお灸を据える必要もあったろうしな。それより、こうして2人になれたのはラッキーだ。アンタにはいい報せがあるぜ」
「……! もしや、見つかったのか!? あの依頼を受けてくれた者がいたと!?」
「そういうこった。ほら、餞別に磨いといてやったよ」
ライドウはポケットから鎖の付いた物体を取り出し、ジェラークへと向かって投げる。
ジェラークはそれをキャッチすると――
「お……おおお……! まさか、本当にまた巡り合えるとは思わなんだ……!」
ポロポロと大粒の涙を流し、歓喜に震えた。
彼が受け取ったのは――ボロボロになった金色のペンダントだった。
そう、アイゼンとヴィリーネが依頼で見つけた、あのペンダントである。
ジェラークがペンダントを開くと、そこにはやはり文字が書かれていた。
「〝我ら『ダイダロス』は永遠の絆で結ばれる〟……〝ジェラーク〟〝アロイヴ〟〝アレクラス〟〝シャロレッタ〟……。よくぞ戻った、我が盟友たちよ……!」
「アンタが冒険者を引退して、もう40年以上だっけか……。当時の仲間たちとの絆の証――そんなに大事な物なら、もっと早く専門の探索チームを見繕ったのに」
「いや、これは所詮ワシ個人の思い出だからな……。冒険者ギルドの権力を振りかざすような真似はしたくなかった。今回の依頼で誰も受けてくれねば、大人しく諦めようと思っていたのだ」
ペンダントを大事そうに握り締めるジェラーク。
アイゼンが思った通り、これは彼にとって極めて大事な物だったのだ。
かつて共に死地を潜り抜けた、友と呼べるパーティメンバーたち――その記憶が眠っているのだから。
しばし感慨にふけったジェラークは、ふと思い出したようにライドウを見上げると、
「そうだ! このペンダントを見つけてきてくれた者たちは、なんという!? お主のギルドのパーティなのか!?」
「ああ、それなんだけどよ……依頼を受けたのはウチの娘の学友でな? 中々気骨のある面白い奴で、今は新興のギルドを創るんだって躍起になってるんだが……興味あるか?」
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