第48話 0.1%の可能性
よく生きていてくれたと感謝し、俺は帰還が遅れてしまったことを心から詫びる。
「えへへ……アイゼン様に褒められちゃいましたぁ……」
「ちょっと、照れ臭いからよしなさいよね……フフ……」
ヴィリーネとマイカは、ようやく緊張から解放されたように気を緩める。
そんな俺たちの隣では、メラースさんがライドウさんに野次を飛ばしていた。
「ちょっとぉ、あの〝
「うぐっ、返す言葉もねぇな……。だが言い訳させてもらうなら、かつて
ライドウさんは、ここに至るまでなにがあったのか大まかに話してくれた。
平原で骨のドラゴンを迎え撃ち、ヴィリーネを主力とした戦術を組んだこと。
しかし骨のドラゴンには〝弱点〟が存在せず、彼女の【超第6感】でも倒せないと判明したこと。
すぐに遅滞戦術へと切り替えて応戦したが、結局ヤツを抑え切ることはできず、街まで攻め込まれてしまったこと――
「街の住人たちには避難してもらってるが、なにせ急だったからな……。逃げ遅れてる奴らもまだまだいる。コレットの嬢ちゃんやカガリナたちには、そっちの誘導を頼んではいるが……」
「コレットとカガリナが……!? そうだ、彼女たちは今どこに!?」
「おそらく街の南の方だろう。アイゼン、お前さんも向こうに手を貸してやってほしい。俺たちはできるだけ時間を稼ぐからよ」
「じ、時間を稼ぐって……! あのドラゴンは不死身なんでしょ!? 倒し方もわからないんじゃ――!」
「無駄死にするだけよねぇ。……ねぇアイゼンちゃん、なにか良いアイデアはなぁい?」
とても悪戯っぽく、メラースさんが俺に尋ねてくる。
「アイデアって言われても……! 不死身のドラゴンを倒す方法なんて、簡単に思い付くワケないでしょう!? こんな時に冗談はやめてください!」
「ふぅん? 本当の本当にぃ? 本当に――なにか思い当たるフシはないかしらぁ?」
――とても意味有り気に、メラースさんが言う。
そこまで言われて、俺の頭は言葉の意図を読み取ろうと思考を始める。
すると――俺の中に、1人の少女の姿が思い浮かんだ。
「言ってごらん? もしかしたら、アタシと同じことを思ったかもね?」
「…………いえ、で、でもこれはアイデアっていうより、ただの都合のいい願望っていうか……!」
「でも、その願望を叶えられる可能性を持つ子が、たった1人だけいるわよねぇ? 正真正銘の無能でなんの才能もない人間なのか、あるいは――とてつもなく膨大な経験値が必要なほど強力な〝隠しスキル〟が眠っているかもしれない、そんな可能性を持つ〝追放者〟が」
この人は、本気で言ってるのか。
コレットが、あの子が〝隠しスキル〟を覚醒させれば、不死身のドラゴンを倒せるかもしれないと――
「【鑑定眼】はまだ彼女の覚醒した〝隠しスキル〟を見ていないんでしょう? それに確か特訓で経験値を溜めていたなら、自覚できていないだけで覚醒している可能性も0じゃない。それって、0.1%でも倒せる可能性があるってことじゃないかしら?」
「0.1%って……それ、可能性っていうんですか……!?」
「待ちな、アイゼン。俺はその賭けに乗ったぜ」
驚くことに、ライドウさんがメラースさんの話に乗ってくる。
「その〝隠しスキル〟を持たない嬢ちゃんも、お前さんが縁を見出した追放者の1人なんだろ? なら充分だぜ、そいつはジェラーク総代のお墨付きってことだからな」
「ジェラーク総代の……?」
「ああ、あのタヌキじじいが言ってたんだよ。自分の勘が正しければ、お前の下にはとびきりの逸材が集まるだろうってな。悔しいが、あの人が言う〝勘〟は外れたことがねぇ。だったらお前さんの目が〝可能性を視る可能性〟ってヤツぁ、充分賭けるに足る」
その言葉を聞いた時、俺はハッとジェラーク総代との会話を思い出す。
――〝目で見えるモノが全てとは限らない〟〝されど可能性が視えるのは
まさか彼は――俺がいつか、こんな局面に遭遇すると見越して――?
「アイゼン様……」
不安気に、ヴィリーネが俺の顔を覗き込む。
不死身のドラゴンはヴィリーネの【超第6感】でも倒せなかった。
そんな正真正銘の化物を倒せる〝隠しスキル〟なんて、想像もつかない。
『ォォゴオオオッ!』
だがこうして悩んでいる間にも、骨のドラゴンは拘束魔術を破ろうと雄叫びを上げる。
もはや一刻の猶予もなく、他に奴を倒すアイデアがあるワケでもない。
俺たちにはもう――その0.1%の可能性に賭ける以外の選択肢はないようだ。
だったら――俺のやるべきことは、団員を信じてみるだけだろう。
「…………わかりました。俺はコレットを探しに行きます。その間、可能な限り時間を稼いでください。お2人ともご武運を」
「おう、任せろや。たまにはオヤジがかっこつけるところも見せねぇとな」
「ここには〝
笑って答えてくれるライドウさんとメラースさん。
俺はヴィリーネとマイカからも離れ、
「2人も、もう少しだけ堪えてくれ。頼む」
「勿論です! このヴィリーネ・アプリリア、アイゼン様のためなら力の限り戦えます!」
「もう魔力もカツカツなんだけど、しょうがないわね。マスターの頼みだもの」
ヴィリーネとマイカも、気合を入れ直すように武器を構え直す。
彼女たちの勇ましい答えを聞いた俺は――名残惜しさを振り切って、走り出す。
そんな俺の背後では、拘束魔術が砕ける音が木霊した。
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